7
車をあちこちと見た所、メイナードの体は車の下に隠されるように置いてあった。
一体メイナードを殺した奴が、何のために首を切ったのは全くわからなかった。
分かりたくなかった。
中に乗ったままのシンディとクレアには、メイナードが死体で見つかった事だけを話した。
車を動かす気にも誰もなれずに、首だけは車の中に置いてあったブランケットで隠した。
そして警察に電話をしようとしたが、誰のモバイルも電波が通じなかった。
「くそっ、一体どうなってんだ!町からはそんなに離れてないはずだぞ」
マイケルが思わずといったように悪態をつく。
「全員の物が使えないって事は、電波を妨害する機械か何かが使われてるんじゃないか?」
シリルが冷静に答える。
誰がそんなものを周到に用意したんだろう?
そんなの、まるで最初からこの場所を孤立させようとしているようじゃないか。
「そうだ、別荘に戻ろう。確か電話があったはず」
「そうだな」
持ち主であるリッキーが言うのだからあるのだろう。
これで警察を呼べばきっと助かる。
なのにシリルは一人浮かない顔をしている。
車からシンディとクレアは降りてもらい、僕らは来た時と同じように固まって別荘へと戻った。
来た時よりも、みんな口数は少なかった。
いつナイフを持った奴が襲いかかってくるんだろうと考えると、音を立てる事自体をしたくなかった。
今日一日楽しかったのに、何でこんな事になってしまったのだろう?
別荘に帰ってきてすぐリッキーが電話を確認したが、電話は線自体が切られているのか音すらしなかった。
「どうする?今から車で移動するにしても、リッキーの車じゃ全員は乗れないから、誰かは残る事になる」
マイケルが苦い顔をしながら言う。
みんな何も言わずに、顔を俯かせている。
マイケルの車の下にはメイナードの死体があるから、動かすのは躊躇われる。
そうなるとリッキーが乗ってきた車を使う事になるだろう。
リッキーの車は四人乗りだ。
マイケルは自分とシンディを外さないとして、車の持ち主であるリッキーも連れていくだろう。
残りは一人しか乗れない。
となるとグループの一員ですらない僕は、絶対選ばれない。
そんなの無理だ。
ナイフを持った奴がウロウロしている所に残されるだなんて。
「近くにあった別荘に助けを求めに行くのはどうかしら?」
「まだバケーションシーズンじゃないから周りは無人だと思う。せめて管理人が残ってくれていれば良かったんだけど」
クレアの提案にリッキーが首を振るように答える。
「となると徒歩での移動になるな。こんな夜目のきかない状態じゃ移動するのは危険だ。朝になるまで待つしかない」
「マイケルの意見に賛成だ」
シリルが同意して、僕も頷いた。
一人で残されるより、皆で居る方が全然マシだ。
「じゃあリビングで朝を待とう」
みんなで居れば誰かが襲ってきても、すぐに対処できる。
明るくなれば、もっと周りを警戒するのも簡単になる。
マイケルの提案は、今この場で出来る最適なものだろう。
「嫌よ」
空気を壊すようにシンディがポツリと言う。
「シンディ……」
「嫌よ、嫌!もしかしたらこの中にメイナードを殺した奴が居るのかもしれないのよ!それなのに、一緒に居るだなんて無理に決まってるじゃない!!」
言っている間に興奮してきたのか、クレアの腕を振りほどきイヤイヤと首を振る。
「俺たちの中に、メイナードを殺した奴が居るとでもいうのか?」
「襲ってきたやつの顔を見たのか?」
マイケルとシリルが聞くと途端にかぶりをふる。
「……見えなかったわ。紙袋を被ってたし。……でも、この中の人じゃなかったら誰なの?他に誰も居ないんでしょ!!」
「外から来た奴かもしれないだろ」
「こんな森の中に何しに来たのよ。私は信じられないわ。鍵をかけて一人でいた方が全然マシよ。マイケル、鍵は?」
シンディはマイケルに手を突き出す。
しばらく二人で睨みあっていたが、根負けしたようにマイケルはシンディに鍵を渡す。
引ったくるように鍵をとったシンディは、階段を一人上がっていった。
そして、ガチャガチャと鍵を開け閉まる音がした。
マイケルは疲れたようにソファーへと座りこんだ。
「なんでこんな事になったんだ」
それはリビングに今居る全員が思っている事だろう。
重くなった空気を変えるように、クレアが明るく言う。
「みんな、喉渇かない?私、何か持ってこようか?」
シリルもソファーに座りながら言う。
「そうだな。まだ夜も長い。俺はコーラを頼む。マイケルは?」
「……バドワイザー」
「酔ったら肝心な時に動けないぞ」
「バドワイザーは水みたいなもんだろ、シリル。それに、飲まないとやってられない」
マイケルは空笑いをしながら告げる。
よほどシンディが自分の意見を聞いてくれなかったのがショックなのか、うつむいてしまっている。
シンディが何故メイナードと一緒に居たのかも、聞けていない。
「じゃあ、僕はクレアを手伝うよ」
手伝うという口実でクレアの側に行きたい訳では、決してない。
「リッキーは?」
喋らずに何かを考えているリッキーに、僕は声をかけた。
「やっぱり町へ誰か行った方がいいと思う」
「リッキー、その話はもう終わった」
シリルがいつものような冷めた口調で言う。
「やっぱ危ないだろ、殺人犯がこの辺に潜んでるかもしれないんだぞ。いくら皆で一緒に居れば平気だって言ってもやっぱり不安だ。助けを求めに行った方がいい」
「リッキー、俺が信用出来ないのか?」
「そりゃマイケルは俺達よりも鍛えていて強いかもしれないけど、相手は死体の首を切るようなイカれた奴だぜ?一刻も早く町へ行った方がいいに決まっている。マイケルがダメだって言うなら、俺一人でも行く」
リッキーは言うと、外に出ていってしまった。
僕は突然の出来事に、キョロキョロする事しか出来なかった。
「しまった、車の鍵はリッキーが自分で持ってる!」
シリルが言うと、マイケルは跳ね上がった。
「追いかけるぞ!」
そして僕達は、また別荘の外へと出た。
すると近くで何かが爆発するような音が聞こえてきた。
「何の音だ!!」
「やばい気がする」
シリルとマイケルが走るスピードをあげる。
僕は置いていかれないようについていくので精一杯だった。
「クレア、大丈夫?」
「う、うん」
遅れているクレアの手を握り、ひいてあげると、照れるように少しクレアの顔が赤くなったような気がして、ちょっと嬉しくなった。
こんな時なのに、手を繋げて嬉しいだなんて、僕って薄情だな。
シリル達に追い付いた時には、駐車場でマイケルとシリルが怒鳴りあっていた。
「だめだ、マイケル!」
「止めるな、シリル!!リッキー!!」
目の前では車が炎を吹き出し、燃えていた。
炎の隙間から見える運転席にはハンドルにもたれかかる真っ黒な体が見えていて、ピクリとも動かない。
その光景に、クレアは腰が抜けたのか尻餅をついている。
きっと、もう運転席に座っているリッキーは……
「ロイ、マイケルを止めるのを手伝え!」
「う、うん」
目が離せないでいたのを、シリルに怒鳴られて、我に返った。
炎に向かっていこうとするマイケルにしがみつくようにして止める。
幸いにしても駐車場の辺りには木々が無かったから、火が燃え移る事もなかった。
いや、逆に燃えてくれた方が誰かが気づいて消防とかをよんでくれたかもしれない。
燃え盛る車の中には、誰だかも分からない程に黒こげになった人が運転席に倒れている。
「……してやる」
押さえつけていたマイケルがぶつぶつと言っている。
「ぶっ殺してやる、二人も俺の友達を殺しやがって、絶対に許さない」
ギラギラと血走ったような目で、マイケルは呪いのような言葉を吐いた。
マイケルの呟きに返す者は誰も居なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます