6
シリルがシャワーから出てきた所で、夜も遅いからもう休もうという話になった。
移動もあったし眠かったからちょうどいい。
マイケルを起こそうと近づいた時に、外から物凄い悲鳴が聞こえてきた。
「な、なんだ!!」
その声でマイケルが飛び起きる。
僕も驚いて外を見るが、外は木ばかりで真っ暗だ。
「あれ、シンディはどこに行ったんだ?」
そういえば僕が部屋に帰ってきた時には、既に居なかった。
「わからないわ。部屋に居るんじゃないの?」
「鍵は俺が持ってるんだ」
そう言ってマイケルが、ポケットの中から鍵を出す。
って事は外から聞こえてきたのは、シンディの声なのだろうか?
女性のような声だったような気もするし。
様子を見に外へマイケルが飛び出そうとドアを開けると、泣き腫らしたシンディがマイケルの胸に勢い良く飛び込んだ。
「シンディ、どうしたんだ!!」
「メイナードが!」
「メイナード?」
その言葉に、メイナードも居ない事に気がついた。
よく見るとシンディは片方の靴は履いてなく、シャワーを浴びたはずなのに服が泥だらけになっている。
綺麗になびかせていた金髪もぐちゃぐちゃになっていた。
「車で、メイナードと私が喋ってたら、いきなり」
「はあ?お前メイナードと二人車で何してたんだ!!」
抱きついてきたシンディを剥がすように、マイケルが怒鳴る。
シンディは怯えたように目を反らし、クレアへと抱きついた。
「マイケル、今は話しを聞こうよ。シンディが怯えているわ」
「ちっ、後で話しは聞くぞ。で、メイナードはどうしたんだ?」
「いきなりガラスが割れたと思ったら、刃物が、首から、いっぱい、血が……」
シンディの言葉に一気に僕は青くなった。
刃物、血?
物騒すぎる。
冗談にしては、シンディの演技は迫真と言っていい程だ。
「は?一体どういう事だよ?」
「もう、うるさいな。何騒いでるの?」
部屋で休んでいたリッキーが騒ぎに気づいたのか、降りてきた。
「あれ、メイナードはどうしたんだ?」
「わからない。シンディが言うには車に居るらしいが」
「はあ?こんな時間に何やってんだよ、あいつ」
「とりあえず見に行くぞ。リッキーとシリルはついて来い。ロイはクレアとシンディと一緒に居てくれ。シンディの話を信じるとしたら、良くわからないが刃物を、持ってる奴がいるぞ」
マイケルの言葉に、寝ぼけていたリッキーの顔が青ざめる。
「なに?なんの話?」
部屋に居て何があったかわからないリッキーが慌てるが、僕だって何が起きたのかなんてわからない。
シンディしか、何が起きたのかは分からない。
とりあえず、僕はマイケルに言われた通り、別荘の中に居た方が良さそうだ。
パニックになった頭で考える。
「いや、マイケル。見に行くならみんなで行った方がいい」
シリルのいつもの冷たい声で、僕は少し現実に引き戻された。
マイケルが苛ついたように怒鳴る。
「シンディがこんなに怯えてるんだぞ!連れていってまた危険な目にあったらどうするんだ!」
そうだよ!
僕もマイケルの意見に賛成だ。そもそも行きたくない。
「逆だよ。もしシンディが見たという刃物を持った奴が一人じゃなかったらどうする?複数居た場合、バラける事で守るのが難しくなる」
シリルの言葉にゾッとした。
もし僕とクレアとシンディしか居ない所に、刃物を持った奴が襲ってきても、僕に守る事なんて出来るだろうか?
シンディは震えるばかりで何も話さない。
「……確かに、シリルの言う事も考えられる。皆で見に行くぞ」
僕らは列になって車のある場所へと向かう。
先頭はマイケルとシリルが行く事になった。
クレアは怯えるシンディを支えながら、ゆっくりと進んでいく。
僕は後ろでリッキーに何があったのかを説明した。
リッキーは信じられないという顔をしていたが、途中でシンディの落とした靴があって、信憑性が増したようだ。
鳥や虫の声もなく静かで木々で暗くなっている中、そんなに歩く事なく昼間に車を停めた場所へとついた。
僕らが乗ってきた黒のワゴン車は明かりがついていたが扉は閉まっていて静かだった。
クレアが震える指で「この中よ」と指す。
マイケルが慎重に中を伺うが、車のガラスにはシートが貼ってあって中は見えなかった。
車は静かなままだ。
シンディが言った通り、車の後部座席は何故か割れている。
マイケルが勢いよく車のドアを開く。
「は?」
間の抜けたような声中を見るが、中には刃物を持った男も、メイナードも居なかった。
「誰も居ないじゃないか」
「嘘よ!」
シンディが車に先に乗り込み、後を追って順番に中へと入っていく。
狭い車の中だから全員は中を見れず、僕はドアからのぞくように中を見てみたけど、誰かが居るような気配はなかった。
「シンディ、メイナードとマズイ事してたからって、嘘つくなよ」
リッキーが呆れたように言う。
「本当よ。……ほら、これ見て、ガラスの所に拭いてあるけど血がついてるわ。それに、床にだって」
「……これは……血か?」
「ひっ」
確かめるように血を指につけたシリルに、シンディはクレアに抱きつく。
クレアは慰めるようにシンディの頭を撫でている。
「とにかく、シンディの話が本当だったとする。ここで血が出たのも本当にあったみたいだしな。だとしたら怪我をしたメイナードは一体どこへ行ったんだ?」
マイケルが最もな事を言う。
「そんなの知らないわよ、私に言わないでよっ」
シンディはマイケルの方を見ようともしない。
余程恐ろしいことがあったのだろう。
「マイケル、とにかくもうクレアを休ませましょう。もう限界よ」
クレアの言葉にかぶさるように、ボンネットに固い物が落ちる、ドスンという音がした。
「うわああああ!!!」
車に入らず後ろに居たリッキーが、叫び声をあげる。
「なんだ、何があった!!」
マイケルが言うが、狭い車内で上手く動けず、それよりも先に僕がリッキーの方へと目を向けると、リッキーは地面に尻餅をついていた。
目線をリッキーの見ている方へと向けると、そこには明らかに生首としか言いようのないものが地面に転がっていた。
「うわあ!!」
「早くどけっ」
目がそらせないまま僕が車から離れると、マイケルとシリルが降りてくる。
そして僕と同じ物を見て、言葉を無くしている。
「ねえ、どうしたの?」
「クレアとシンディは俺達がいいと言うまで降りてくるな!」
マイケルは怒鳴るように言うと、車の扉を閉めた。
「く、く、く、首?」
「見りゃわかる」
冷静に言っているが、マイケルの声も少し震えていた。
「……メイナード?」
シリルの言った通り、確かにその首は居なくなったメイナードのものだった。
鋭利なもので首を切断され、そこから血が出て地面を黒く染めていっている。
メイナードの首は転がったまま、僕達を無言で睨んでいた。
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