3
別々の部屋にしようとシリルを説得したが、シリルは頑として意見を変える事はなかった。
最後の方は僕を無視してクローゼットの中を点検したり、ベッドの下を覗き込んだり色々と動き回っていた。
僕は諦めて、シリルをただ眺めたり窓を開けて空気の入れ換えをしたりしていた。
ようやく点検が終わって二人で下に降りると、既に僕ら以外の五人はソファに座っていた。
マイケルが気が付いて声をかけてくれた。
「随分と遅かったな。俺達が一番最後になるだろうと思ってたのに」
「まさか、お前ら二人これなのか?」
メイナードが指を使って下品な仕草をする。
僕が慌てて否定しようとすると、それよりも先にシリルが冷たい声で「そんな訳ないだろう」と言ってくれた。
「じゃあ、全員揃ったから夕食の買い物でも行くか」
「オレはパス」
シリルが早々に拒否をした。
「ロイは?」
マイケルに問われ、シリルが目で断れと睨むから僕はしぶしぶ「来たばっかで疲れているから休憩してます」と言った。
「なら、私も待ってようかな」
「オレも。早速きたビールでも飲んで待ってるよ」
「じゃあ、俺とシンディとメイナードの三人で行ってくるよ。その代わり、明日はお前らで行けよ」
三人はワイワイ話しながら別荘から出ていった。
「喉乾いた。ロイ、いつものあったら持ってきて」
シリルが僕に言ってくる。
いつものって、まさかコーラにガムシロの事?
ちょうど僕も喉が乾いて何か飲もうと思っていたからいいか。
僕ってどこまでいっても下っぱな根性が抜けないな。
「じゃあロイ君、ついでにビールも持ってきてよ」
ソファーに座っていたリッキーが僕に向かって大声で言ってきた。
ブランド物のTシャツを着た育ちの良さそうなリッキーは、人を使うのに慣れているのだろう。
だけど、嫌みがなかった。
一つ用意するのも二つ用意するのも一緒だから、全員分用意しよう。
「クレアは何か飲む?」
「あ、なら一人じゃ大変だから、私も手伝うわ」
そういうとクレアが台所に来て、用意するのを手伝ってくれる。
正直グラスとかどれを使っていいのか分からなかったから助かった。
冷蔵庫を開くと、中は飲み物ばかりで食べ物はほとんど入ってなかった。
しかも大半が酒で、ノンアルコールのものはほとんど無かった。
僕とクレアオレンジジュースにして、リッキーには持ってきたばかりでまだあんまり冷えていないバドワイザー、シリルには瓶のコーラがあったから、栓だけ抜いて持っていった。
「ありがとう」
そう言うとシリルはポケットからガムシロを出して、中へと入れ始めた。
え、ポケットにいつもガムシロ入れてるの?
僕はギョッとしたが他の二人は何も言わなかった。
って事は、いつもそうなの?
シリルって本当によく分からないな。
大人しく持ってきたオレンジジュースを飲む。
「ぷはー、やっぱアルコールって最高!!」
「呑みすぎんなよ、リッキー」
「固い事言うなよ、シリル。こんなの水と同じようなもんだろ。それにしてもシリルが来るとは思わなかったな。もしかしてメイナードが言ったみたいに、これなの?」
リッキーはあの下品な仕草をした。
ちょっと、クレアがいるのにそんな事しないでよ。
勘違いされたらどうするんだ。
「違うって言ってるだろ」
シリルは不機嫌そうにコーラを飲む。
「でもシリルって今までモテるのに、彼女とか居なかったじゃない。女子の間では男の子が好きなんじゃないかってちょっと噂になってたわよ」
クレアが便乗して可笑しそうに言うから、シリルは眉間にしわを寄せた。
げ、だからって僕がシリルの相手な訳ないじゃん。
確かにシリルは綺麗な顔をしてるけど、僕は女の子が好きだ。
それこそ、クレアみたいな優しそうな子が好きだ。
僕が否定するように思いっきり首を振っていると、リッキーとクレアが笑った。
「冗談に決まってるだろ、ロイ」
シリルがため息をつくように言った。
「おい、シリルこいつ大丈夫なのか?お前の知り合いにしては妙に純粋というか」
「遠い親戚だ」
「だから学校でも見たことなかったのね。私たちはシリルのクラスメートなの。五人で良く遊んでるからその流れでこのキャンプも決まったのよ」
「シリルはどこのグループにも所属してないけどな。だからマイケルからお前が来るって聞いた時は、冗談だろうって思ったよ」
マイケルだものね。とクレアは楽しそうに笑った。
マイケルは見た通りグループのリーダーでありクラスでもリーダーのような存在らしい。
リーダーシップもあり、面倒見もいいからシリルをほっとけなかったのだろうという。
それからリッキーがこの別荘について話してくれた。
ここはリッキーの親が持っている別荘らしい。
敷地一帯に普段は管理人が居て別荘を管理をしているらしいが、僕らが来るという事で掃除だけして今は休暇にしているらしい。
まだバケーションが始まったばかりという事で、僕らしか滞在していないらしい。
帰ってくるのは一週間後になっていて、それまでは僕達は七人で料理も洗濯もしないといけない。
普段手伝いとかしていないから、ちょっと不安だ。
シリルが着替えはあまり要らないっていうから、そんなに持ってきてないし。
「そんなに心配しなくても町までは車ですぐだからな。それに、この辺りは平和だって有名だし」
リッキーが笑いながら言うと、シリルがすかさず否定する。
「嘘つけ。毎年何人か死人が出てるって新聞に出てたぞ」
「はあ、調べたのかよ?そんなのただ浮かれてバカしたってだけだろ。死因だって事故ってでてたしな」
話を聞いたクレアが、隣にたまたま居た僕の服の裾を掴んだ。
その手が少し震えていて怯えているようだった。
すごい、可愛い。
僕は僕の服の裾を掴むクレアの手を安心させるように、上から軽く握った。
クレアがハッとしたように僕の顔を見るから、慌てて視線を反らして会話に集中しているふりをした。
リッキーは缶の中のバドワイザーを一息に飲み干して、自信満々に告げた。
「それに、こんだけ人数が居るんだ。何かが襲ってきたとしても返り討ちにするなんて、簡単に決まってるだろう?」
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