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 マイケルの運転する車の中で、シリルは窓にもたれて不貞寝をしている。

 運転席と助手席では、マイケルとシンディがイチャイチャしていて僕は身の置き場が無くて、後部座席で小さくなっている事しか出来なかった。

 たまにシンディが、チラリとミラー越しに微笑んできて、恥ずかしくなってしまう。

 今日はシリルに言われて眼鏡をかけてないから、そばかすが気になる。

 それに、服だってシリルから借りた茶色の無地のティシャツでちょっと恥ずかしい。

 普段の僕だったら、絶対に選ばないものだ。

 それに僕の持ってきた服はチェックのシャツとかロゴの入ってるもので、そんなものは絶対にだめだと言われた。

 そんなにモテないかな?

 シリルはいつものように、白いシャツに黒のパンツだった。

 迎えに来たマイケル達は、僕を歓迎した。

 シリルは最後まで行きたくなさそうだったけど、僕が車に乗ったら諦めて一緒に乗り込み、すぐに寝てしまった。

 マイケルの運転は免許をとたばかりとは言っていたはずなのに、とても丁寧だった。

 運動神経とかがやっぱ関係あるのかな?

 羨ましい。

 僕も帰ったら、父さんに免許欲しいって言ってみようかな。

 早く帰れればいいんだけど。

 まだ一週間しか経っていないのに、ホームシックになったのかな?

 車は途中昼を食べたり休憩をとったりしたけど、シリルは1回も車から降りなかった。

 そして、ゆっくりと車は森の深い方へと入っていった。

 

「なんか、暗いね」

 

 ポツリと言った言葉が偶然シンディの耳に入ったのか、笑われてしまった。

 

「なあに、まさか怖いの?」

 

 その言葉にバカにされたと感じた顔が熱くなった。

 

「そんなビビんなよベイビー。確かに暗いし人もあんまり居ないような所だけど、きちんとした別荘地だ。バケーションが始まったばかりで人もあまり居ないって言ってたからやりたい放題だぞ」

「やだー、マイケル何考えてんのよー」

「もちろん、君の事だよ」

 

 そう言って、何度目かのキスを二人でしている。

 僕は目のやり場に困って、慌ててうつむいた。

 森を抜けて少し走ると別荘が連なっているような場所に出た。

 なのに、その全てに人が居る気配がなかった。

 マイケルが言った通り、バケションが始まってすぐだからなんだろうけど、何か不気味だ。

 しばらく走ると森が開けた場所で車が止まった。

 駐車場なのだろう。

 すでに誰か来ているのか、車が一台止まっている。

 僕達が手分けして荷物を下ろしていると、三人組の男女がやってきた。

 

「おい、マイケル遅いぞ」

「ちょうど出かけようかと話してた所だったけど、上からちょうど来るのが見えたから来たんだ」

「ごめんごめん、リッキー、メイナード。運転にまだ慣れなくてさ」

「来ないかと思ったわよ、シンディ」

「そんな訳ないじゃない、クレア。私だって楽しみにしてたんだから」

「おい、シリルも来たのかよ!」

「来ちゃ悪いのかよ、メイナード」

 

 みんな知り合いみたいでワイワイと話し始めた。

 僕はポツンと話が終わるのを待っていた。

 ぼーっと見ていたら花柄のワンピースでショートカットの女の子と目が合った。

 クリクリとした目が猫を思い出させた。

 

「あなたは?」

 

 ジッと見つめすぎてしまったのかと思い、僕は慌てて目を反らした。

 

「今オレの家で一緒に住んでる、親戚」

 

 僕が話すよりも先にシリルが先に答えてしまった。

 

「そうなのね。私はクレア。シンディの友達よ」

 

 そういってクレアは僕へと手の平を差し出した。

 一瞬戸惑ったけど、僕はクレアの手を握った。

 柔らかくて小さい。

 

「よ、よろしく。僕はロイ」

 

 自己紹介をすると、クレアはにっこりと笑った。

 可愛い。

 

「さて、詳しい自己紹介は中に入ってからにしようぜ。買い物にも行きたいしな。さっさと荷物片付けるぞ」

「マイケル達を待ってたんだから、早くしろよ」

 

 マイケルがパチンと手を叩き、車から荷物をどんどん出していく。

 眼鏡のブリッジをあげながら、メイナードがぶつぶつと不満そうに言う。

 

「その代わり酒はたんまりと持ってきたからな」

 

 マイケルの開けた車のトランクから、バドワイザーのロゴのついた段ボールが何箱も出てきて、僕はギョッとした。

 メイナードとリッキーがトランクの中を見て、歓声を上げた。

 皆で手分けして荷物をコテージの中へと運んでいく。

 シンディは荷物を運びもせずに、マイケルの腕につかまっている。

 クレアは申し訳なさそうにしていたが、マイケルが「こういう重いものを運ぶのは男の仕事だ」と言って止めていた。

 メイナードはぶつぶつと文句を言ってマイケルに怒られていたが、結局男五人で全ての荷物を運び込んだ。

 一階は広いリビングにソファ、オープンキッチンしかなかった。

 

「個人の部屋は二階にしかないよ。俺たちが先に来たから部屋は勝手に決めたぞ。手前の三部屋は俺たちがもう荷物を入れてある。マイケルとシンディは同じ部屋でいいよな?」

 

 リッキーが鍵を持ちながら説明をしてくれる。

 

「もちろんよ」

「俺とロイも一緒でいい」

「え」

 

 思わず不満の声が出てしまったが、シリルに睨まれて慌てて口を閉じる。

 

「お前ら仲いいんだな。ほら、鍵だよ」

 

 リッキーは笑いながら、マイケルとシリルに鍵を渡した。

 

「サンキュ」

「買い物に行くんだから、二人はイチャイチャしてないでさっさと荷物置いてでてこいよ」

「わかってるわよ」

 

 マイケルとシンディは楽しそうに部屋に入っていった。

 

「俺たちは下で酒を冷蔵庫に入れたりしてるよ」

「ありがとう、リッキー。ほら、ロイさっさと行くぞ」

 

 僕達の部屋は階段から一番離れた部屋だった。

 ベッドとテーブルしかないシンプルな部屋だったけど、きれいに掃除されているのか埃とかはなかった。

 シリルが荷物を無造作にベッドの上に置いた。

 僕も整理を始めようとして、そこで重要な事に気づいた。

 

「ねえ、シリル。ベッド1つしかないよ」

「そうだな」

「どうするの?」

「別にどうもしない」

 

 どうもしないで済む訳ないだろ。

 

 

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