第12話 厨二病の大好物
「そういえばよく僕たちの居場所分かりましたね」
「あー、今聖域の修行してんだっけか?」
「はい」
「俺の聖域は放射線状に飛んでいくんだよ。だから遠くにいるお前らを見つけられたって寸法だ。驚いたぜ、近づいたら戦闘音が聞こえてきたんだからよ」
「ほんと助かりました」
「礼はいらねぇ。当たり前のことだからな。後輩を助けるのは先輩の務めだ。これからもガンガン迷惑かけろや」
「はい」
威圧感すごいけど優しい。多分。こんなガッツリヤンキー初めて見た。
先生たちに事情を話した後、先輩たちは先生たちと話し込む。
なんだか真面目な空気だな。
そんな中、昴(すばる)先輩がスマホを取り出して耳に当てる。
「あー、俺っす。今大丈夫っすか?」
目上の人かな。話し方がマイルドになってる。
「さっきばったり会っちまったんすよ。
いや、後輩がっすけど。そこに通りかかってたまたま、ほんとにたまたま覗いたら記憶の中にいたのが、
七つの大罪が一体 強欲 法麗院(ほうれいいん) 小百合(さゆり)。
そいつの傀儡だったみたいっす。死体は頭だけが残って体は消えたっす。まぁ、そういうことっすね。
強欲の居場所も記憶からなんとなく分かります。
はい…はい。はいっす。では…」
なんかすごいこと聞いちゃったよ。強欲?七つの大罪って確か、吸血鬼の中でも強いやつらのことだよな。その手下だったのか。いや、人間だったものが操られてたのか。てことは死体を操る能力か。
「あー、やっと着いたー!って二人の方が早くついてるじゃん!」
声の大きさに驚きながら、声のする方へ振り向く。
森から出てきたのは女の人だった。
赤髪くせ毛のボブ。身長はくれぼんと同じくらいかな。あんまり高くない。
森の中を歩いたからか服に葉っぱが乗っかってる。こういっていいのか分からないけどものすごいボンキュッボンだ。
身長に対して出るとこがはっきり出ている。というか出すぎじゃないか。
グラビアアイドルを凌駕してる気さえする。生でグラビアアイドル見たことないけどね。
そして恐らくこの人の象徴だと思われる、眼鏡。顔の半分程の面積を占めている丸眼鏡。度が強すぎるのか向こう側、目が見えない。白く濁ってんのか?それにぐるぐる眼鏡だ。
フィクションでしか見たことない。
「いやー、迷子になっちゃったよぉ」
そう言いながら小走りでやってくる。
やめてー!目に毒!目が引っ張られる!揺れすぎですよ!僕は顔だけを見るようにした。
「お!君たちが一年生かい?
アタシはそこの二人と同じ聖童高校二年の町田(まちだ) 迷(まよい)です!よろしくねぇ」
「よろしくお願いします」
めっちゃ眩しい。キラキラのエフェクトが出てるよ。
「よ、よろしくお願いします」
弾間ー!落ち着けー!見すぎると嫌われるぞ!
「おやおや、君は見すぎだぞー。これ以上は有料だよぉ!」
ほら、言わんこっちゃない。弾間の視線に気付いてしまった。
そう言って腕で胸を強調させながら徐々に弾間との距離を詰めていく。
「ほらほら〜。これか?これが欲しいのか?」
「す、すみません!」
頬を赤くして耐えきれずに目を逸らす弾間。
「あはは。アタシの悩殺ボディに恐れを生したか!」
なんという惨いことを。恐るべし迷(まよい)先輩。
「あー!満ちゃん!久しぶりー、会いたかったよー!!全然会えなくて寂しかったよー!」
次に迷先輩はくれぼんを見つけて抱きしめる。くれぼんの顔が豊かな胸に埋まる。
頭一つ分迷先輩の方が大きいのか。
「んー!やっぱり満ちゃんは抱き心地が最高だ!アタシが貰ってもいいかな?」
「んん!く、苦しいですって」
「おおー、ごめんごめん。可愛いくってつい」
「いつも会ったら抱きつくのやめてください!」
「満ちゃんの抱き心地といったらもうね。一度知ったらやめられないよー」
二人は仲良いのか。
それにしても気になる。気になって仕方ない。
「あの、なんでぐるぐる眼鏡なんですか?」
この距離になっても目が見えない。これ絶対眼鏡の役割果たせてないでしょ。
見てるとなんだか目が回ってくる。
「これ!これねぇ、気になる?」
「は、はい」
「実はね〜。すごい秘密があるんだよ」
すごい焦らすな。
「実はこの眼鏡を外してしまうと封印が解かれてしまうんだ。この封印されし呪われた目の力が暴走してしまう。
ふははははっ!」
何だこの人…。掴みどころがないな。
「いや、え?」
「さては信じてないな?この目を見たものは呪われて石になってしまうのだ!」
「そんなまさか。冗談ですよね。そんな神話の登場人物みたいな力あるわけ……」
僕は他の先輩の方を見る。
「全部本当だ。迷(まよい)が言ってることは正しい」
ぎゃー!冗談を言わなそうな弛(たゆ)先輩が言うってことは本当なのか。
「私の右目は生まれながらに呪われているんだ。くっ、右目が疼く」
わざとらしく右目を押さえる。
「とまあ、冗談はさておき」
え、冗談?
「アタシの目はいわゆる童眼(どうがん)って言われてるんだけど知ってる?特殊な力を持つんだけど、これは童質とはまた別ね」
この話し方、さすがに冗談じゃないな。
てか、童眼?かっこいいな。
「最初に言った通り見たものを石化させることが出来る!だから間違ってもふざけてアタシの眼鏡取ろうとしちゃダメだよ。石にされちゃうから。どぅわははっ!」
声のトーンがややこしい。この人が言うと全部冗談に聞こえる。
「それ見えてるんですか?」
そう、こっちからは全く見えない。向こうからだと見えてるとか。でもそれだと石化は発動しないのかな。それか特殊なレンズとか?
「んーん。全く見えてないよ。せいぜい横の隙間からほんの少し見えるくらいだよ。
これは特別性の眼鏡だからね。眼鏡にカメラが埋め込まれてレンズの内側にその映像がリアルタイムで映ってるの。だから今も君と目が合ってるよ。どう?すごいでしょ!」
「は、はい」
なんじゃそりゃ。ひみつ道具か何かですか?眼鏡よりすごい伊達眼鏡。
「アタシ目が悪いから重宝してるんだぁ!」
さすが眼鏡!きっちり仕事してる。
そんな先輩たちを交えながら聖域の修行をする。
ある程度形になった僕は実戦形式で聖域の能力を試す。さっきの戦いでもわかったことだけど、空中の相手には僕の聖域は探知出来ない。
地面に這わせてるから相手が地面に触れることでやっと気づける。
だからさっきの戦いでもものすごい速さで飛んでくるから、移動の時歩数が少なくてほとんど地面に足をつかずに近づいてた。だから刀を振るために地面に着いた時、本当にギリギリのタイミングで僕の聖域に触れて何とか対応出来てた。
そして今も、同じような形で簡単に攻略されてしまった。
どうにか対策を考えたいけどやっと出来た聖域だし、形を変えるのはもっと難しい。
先生が言ってたけど人によって形も効果も違うって、これが僕の聖域の形なのだとしたらそう簡単に変えられないんじゃないか。
だから、他の手段が必要。
今は分からないからとりあえず聖域の範囲を広げる努力をしようか。
そして弾間の聖域は完成していた。昨日までは全くと言っていいほどできてなかったのに、実戦できっかけを掴んだのか、恐ろしい能力だ。
前後左右上下半径九十cm死角無しの球体聖域。
話を聞くと見えるらしい。聖域内に踏み入れたものは見えると言っていた。
僕はただ、聖域内に誰かが入ったのを知るだけ。
ちょっと強すぎないか。久々に見せつけられたぜ、超えられない壁。
合宿最後の夜は大変だった。
あろうことか女が増えて弾間は暴走するし、迷(まよい)先輩は浴衣をはだけさせてからかってくるしで場は混乱状態に陥った。
トランプで遊んでると意外にも弛(たゆ)先輩は負け続けて嘆いていた。逆に昴(すばる)先輩は最強だった。
弾間は途中で鼻血を出して緊急離脱。
その日は夜遅くまで遊んで合宿最後の夜を楽しんだ。
同時刻。とある屋敷で。
豪華な椅子に腰掛ける一人の女。歳は二十後半か。
日本人形のような容姿で、陶器のように滑らかで白い肌、シャープに整えられた顎までのライン。腰まで真っ直ぐ伸びるパッツン黒髪は細部まで手入れされてるのがよく分かる。白いワンピースに身を包まれ、少し幼さを感じさせる。
その女の背後に立つ男。歳は十後半辺りか。
スーツに身を包んでいるが、つんつんの頭に野心を宿す力強い瞳が年相応だ。中肉中背で微動だにすることなく前を向いて立っている。
その立ち姿は姫に仕える執事か。
「なんじゃ。余の傀儡がやられおったぞ」
「なんですと!それは一大事ですよ!」
「やかましい。慌てることでもないじゃろうて」
「はっ!いかがいたしましょうか」
「よい。放っておいて構わん。
やられたのは真子か。そこまで弱くもなかったんじゃがのう。それにかなり余の好物であったんじゃが。あの純真無垢で汚れを知らなそうな顔。
久々に創るとするか。そうじゃな、次は亜由にしよう。
持ってきてくれるか?」
「はっ!」
男は部屋を出て、しばらくすると戻ってきた。
その男が手に持ってるのは筒状の透明なカプセル。中には人間の頭が入っている。黒髪のボーイッシュ。つり目で小さく鋭い眼光だが、その瞳に光は無い。それと一緒に謎の液体で満たされており、頭は液体の中で浮かんでいる。
まずまず狂気の沙汰では無い。
女は男から渡されたカプセルの蓋を開けて頭を取り出す。
「おぉ。やはり可愛いのぉ、亜由。余の為に働いてくれるか?
亜由はやっぱりこの鋭い目つきじゃな。この目を見るとついつい、気が昂ってしまうではないか」
見つめ合い、そしてゆっくりと熱く激しい接吻を交わす。
十秒、二十秒、口の中の動きは激しさが増し、さらに頭を振ると官能的な音と吐息が漏れる……一分後。
ようやく唇が離れるとその間を粘り気の強い唾液がトロリと糸を引いて落ちていく。
落ちた唾液は女のお腹辺りで、服に大きなシミをつけていく。
するとぬるりと、亜由と呼ばれた女の頭から体がじわじわと生えてきた。
それは正しく生前の姿。五体が揃い自立する。そして、女の前に跪く。
「関東の方でテキトーに人間を狩ってくるんじゃ」
亜由は言葉を発することなく首を縦に振る。うつろうつろとした瞳に女の姿が写る。
「もう行って良いぞ」
そう言われて、亜由は立ち上がると男に衣服を着せられ、屋敷を出ていった。
「んー、やはりキスだけじゃ身体の火照りは冷めんのぅ。むしろ増すばかりじゃて。しばし一人になる。姿を見せるな」
「はっ!では二時間程外で時間を潰して参ります」
「わざわざ口にするな煩わしい。さっさと去ね」
「はっ!くれぐれもハメを外しすぎないように。我輩それだけが心配であります」
「殺すぞ」
「ひょぇー。恐ろしや、恐ろしや」
男はそそくさと部屋を出ていく。
女は部屋を出て自室に戻り、下着を脱ぎ捨て天蓋付きのベッドへ倒れこみスマホを操作する。
「やはり文明の利器じゃな。もうスマホは手放せん。それでもイヤホンは有線しか勝たんのじゃ。音漏れが怖いのでな。無線を使うとる奴らはわかっておらんのじゃ。…………ぁぁ」
二時間後。
扉が開く。
「我輩、戻って参りました。用はお済みになブベバッ!」
(ブチッ!)
勢いよく投げられたスマホが男の額に直撃し、部屋の外に倒れ込む。
「ノックをせい!この間抜けがぁ!」
急いで傍にある布を手元に引っ張る女。
「乱暴はいけませんよ。いくら仕えてる者、主従関係があるとはいえ今の時代このような暴力はいけま━━」
「ハアァァァァァァァァンッ!!」
静かな部屋にスマホから響き渡る艷声。
「っ!!」
「…こほん。失礼致しました。それではまた後ほど」
(バタリ)
扉を閉めて出ていく男。
再び訪れる静寂。
スマホを投げた拍子にイヤホンが外れていた。イヤホンが外れても動画の再生は止まっていなかった。
「もう嫌じゃ!有線やめるぅぅぅぅ!
無線じゃ無線じゃ!時代は無線なのじゃ!!」
真っ赤に染まった顔は果たして羞恥心のせいか、はたまた夕日のせいか。
そして、悶えながら布団に顔を埋める女。
「カァ、カァ!カァ!」
夕方を知らせるカラスが窓の外を横切った。
法麗院(ほうれいいん) 小百合(さゆり)。七つの大罪、強欲の名を冠する者である。
強くて可愛い女が好みで見つけ次第片っ端から捕まえている。
頭さえあればいい。
部屋にはいくつものコレクションが飾られている。
既に数百年の時を生きている吸血鬼。滅多に表に出ることがないので見つけるのは極めて困難。
人として生まれたのは十六世紀中頃。
従一位相当。
番丈(ばんじょう) 虎之尾(とらのお)。法麗院の配下の一人。
法麗院とは数百年の仲である。
無鉄砲なところはあるが基本大人しい。何が引き金になるか誰も把握していない。
吸血鬼となってからずっとここにいた為、人間を殺したことがない。興味が無い。
それでも戦闘能力は非常に高い。
従一位相当。
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