第9話 自然を感じて合同訓練

 二月十三日。聖童高校前。

「それじゃあ皆!準備は良い?

 出発進行!!」


 僕たち五人はこれから二泊三日の合宿を行う。そのために黒のワゴン車に乗り込み、坂道を下る。

 

 運転は白鳥先生。助手席に人見先生。二列目に僕と弾間。三列目にくれぼん。


 特にやることも無く外の景色を眺める。過ぎる建物を目で追って、また追ってと頭を振るのを繰り返す。

 こんなくだらない事が好きだ。

 逆に弾間はイヤホンを付けてスマホを見ている。

「なにしてんの?」

 僕の声に反応してイヤホンの片方を外して応える。

「勉強」

「え…まじ?」

 なんでもないように言うが珍事である。

 言っちゃ悪いが僕と同じくらい勉強が嫌いで頭が悪い。


「うん。ほら」

 そう言ってスマホの画面を見せてきた。

「なにこれ」

「化学の勉強」

 スマホの画面には映像が流れていて、字幕で化合物と書かれてあった。

「なんで勉強してんの?」

 なんで勉強してるのかほんとに分からない。

 僕はこの学校に来てからほとんど勉強をしていない。

「先生から言われたんだけど、爆弾の威力を上げられるかもしれないってさ。

 使われてる材料を知ればできるんじゃないかって」

「まじか。で、それできたの?」

「うん。言われた通り簡単に威力が上がった」

 威力が上がった……。


「あのさ、それっていつからやってる?」

「二週間くらい前かな」

「……」

「どうした?」

「この前僕の手足が爆散したじゃん」

 両足と片腕。おかげで服を新調した。まあ、僕がやれって言ったんだけど。

「うん」

「それのせいか」

「ああ、そうだと思うよ」

「だよね!後になっておかしいと思ったんだよ。先に言えよー!」

 先生と戦ってた時には体を少し吹き飛ばす程度だった。なのに、あの時は四肢を吹き飛ばすほどに威力が上がってた。


「いや、気にする?」

「気にするわ!!僕まだ腕とか吹き飛ばされた経験無いから、もしかしたら再生しなかったかもしれないじゃん」

「でも再生したじゃん」

「それは……そうだな。

 でも心の準備ってやつがあるじゃん?」

「気失ってたじゃん」

「それはそうだな」

「うん」

「負けたー。論破された。

 てか、なんでこんな生産性の無い言い合いになったんだ?」

「なに生産性なんて難しい言葉使ってんの」

「実は最近覚えたんだよ。ここだ!って思ったね」

「ふっ、これから俺も使わせてもらおう」

「話を切り上げたい時に使うと効果を発揮する。さっきのは違うけど」

「これ以上生産性の無い話はやめたまえ。か」

「いいねぇ」

「あ、俺兵頭君以外とはほとんど話さないわ」

「それもそうだ」

「それじゃあ、いらないな」

「そうだな。僕は生産性の無い話はしないから」

「さっきしてたけどね」

「それはそれ」



「で、今は手榴弾について調べてるんだ。投げやすさだったり起爆方法だったり色々あるんだよ」

「へー。僕も童質に関係する勉強しようかな」

「楽しいよ。結果がすぐに出るから」

「そうなんだ」

 会話は終わり再び窓の外を眺める。


 

「俺考えたんだ」

「なに、急に」

「二つ名を」

「おー!」

「俺の名前を逆さにすると漠 弾間じゃん?」

「うん」

「つまり爆弾魔」

「おー!」

「んで、やっぱりカタカナがいいなぁって思って単語を調べて組み合わせたんだ」

「その名も?」

「フラグマン」

「センス!!……あるね」

「でしょ!兵頭君なら気に入ると思った」

「バッチリ心に刺さったよ」

「兵頭君もなにか考えたら?」

「僕かぁ。再生しか取り柄ないからな。

 童質の名前も決めてないし。まだ無理だ」

「俺童質の名前も決めた。

 漠漠(ばくばく)爆発(ばくはつ)!!」

「お、おう」

「ちなみに発音は早口言葉のバスガス爆発」

「いいんじゃない?」

「俺はめちゃくちゃ気に入ったよ」

「なんともコメントしづらいな」

「私はいいと思うよ!」

 後ろから顔を出してくれぼんは言う。

「そ、そう?ありがと」

 それに対して弾間は引き攣った笑みを浮かべて返す。

 弾間が来てから一ヶ月以上経つが二人が話してるところをほとんど見てない。

 というか、あからさまに弾間がくれぼんのことを避けてる。

 女子が苦手って言ってたけど、これはかなり重症だ。先生二人に対してもそうだけど。


 弾間がチラチラと僕を見る。

 しばしの沈黙の後、僕は口を開く。

「まあ、確かに勢いがあるよね」

「それ!いいよね!」

「ははは……」

「ねぇねぇ!私のにもなんか名前付けてみてよ!」

「えっ……いや」

「お願い!」

 なんという無茶ぶり!頑張れ弾間!

「う〜ん……死哭拳(しこくけん)。なんてどうかな。その名の通り、その拳は、見たものに死の恐怖を想起させ泣き叫ぶ。

 ちなみに四国犬は猟欲が強くて闘争心もあるって聞いたことがある」

 なんという対応力!

 後ろの方は高速でスマホをスワイプしてカンニングしてたけど、これはすごいぞ。

 やはり天才!底知れないぜ。


「いいじゃん!めっちゃ物騒だけど。

 今の一瞬で思いついたの?めっちゃすごいんだけど」

 そう言いながらキャハハッと笑ってる。


 一方で弾間はニコリともせずに僕をじっと見つめていた。


「やるじゃん」

「だろ?」

 僕の言葉にやりきった感を出してニヤリと笑った。



 その後すぐに弾間は寝ていた。

 きっとエネルギーを使い果たしたのだろう。それほどまでに見事な切り返しだった。安心してぐっすり眠っている。相変わらず目は隠れてて見えないけど。



 それからしばらくして。

「着いたよー!」

 その言葉て目が覚める。いつの間にか僕も寝ていた。

 外を見てみると辺り一面、木ばっか。

 森?寝てたから全然分からない。


 車から降りてみて最初に感じたことは、とんでもなく空気が美味しかったこと。

 体の中に染み渡る。自然を取り込んで森と風と一体化したみたいに気持ちがいい。

 太陽が真上にあるから二時間くらい車に乗ってたのかな。


 山じゃない。平坦な地面が続いてる。靴が埋まる位草がボーボーだから靴で押し潰して歩いていく。


 道は決まってるのか森の中を真っ直ぐ進んでいき、三分くらい歩くと一部森が切り開かれた場所に着いた。サッカーコートぐらいの広さかな。

 目の前には大きなログハウス。

 そして、地面は草から土に変わっていてかなり硬い。



「さあ!荷物置いたら早速訓練始めるよ!」

「「「はい」」」


 先生の後について行ってログハウスに入る。

 玄関を抜けるとすぐにリビングがあって、リビングの端に吹き抜けの螺旋階段があった。

 二回には部屋がいくつかあった。合宿ってことで僕と弾間は同じ部屋。くれぼんは先生二人と一緒だ。

 部屋の中にはシングルベッドが二つ並んでて、それでもまだ広いスペースがある。

 ドアの反対側に窓が付いていて、そこからの景色はとにかく自然を感じた。

 うん。木しか見えないから。


 荷物を置いて外に出る。



「さあ、みんなにはこれから新しい技術を教えるよ。先生を倒すのに役に立つ基本技術。

 その名も聖域」

「「「聖域…」」」

 随分と仰々しい名前だな。

「普段聖気は体内を巡ってるか、体を覆ってるかでしょ?

 今回は聖気を周囲に放ち留める。

 こうすることでなにができるかと言うと、目で見なくても知ることが出来る。見なくても触れなくても聖域に入ったことで情報を得ることができる。

 つまりは探知能力。第六感みたいな感じになると思う」

「おお」

「すごい」

「でもこれはかなり個人差が出るんだ。形、範囲、効果。

 性格が出るって言う人もいるね。指紋みたいなものだから千差万別、十人十色。

 頑張って!自分の世界を広げていく感じで」

「え、それだけですか?」

「感覚的過ぎる…」

「こればっかりは自分で試してみないと分からないから。なにか気になることがあったら聞いていいから」

「「「はい」」」


 それからみんなバラバラに別れて終わりの見えない修行が始まった。

 弾間は森の中に入り、くれぼんはその場で瞑想に入る。そして僕はトイレに行く。

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