第8話 相性はいいのかも?

 僕と弾間は今、吸血鬼狩りで山に来ている。

 ここまで送ってくれたのは学校の人じゃなくて先生の友達。もちろん聖童師。

 くれぼんとは別行動で、学校で授業を受けてるから先生は二人ともそっちについてる。

 車では山に入れないから歩きで進んできた。



 弾間が転校してきてからもう一ヶ月が経ってる。その間に何回か吸血鬼を狩ってる。

 早すぎるにも程がある。訓練過程をすっ飛ばして基礎能力でゴリ押し。それでも僕よりも強い。

 まあ、僕も大人だからもう立ち直ってる。いつまでも弾間に嫉妬してる訳にはいかない。

 僕なりの強さを見つける。それがひとまず目指すべき目標だ。



 とまあ、今回の狩りは特別で昇位試験となっている。

 当然吸血鬼も今までより強い。明確な違いは童質を使ってくるかどうか。と相応の能力を持つ吸血鬼となっている。

 狩りに成功すれば晴れて従三位となる。



「なんか幽霊出そうで怖いんだけど。俺幽霊ダメなんだよね」

「僕の世界に幽霊はいないよ。見えないものは存在しないのと一緒だからね」

「その考え…いただき。俺もテレビでしか見たことないから、俺の世界に幽霊はいない!

 よし、よし…」

「でもこういう話してると寄ってくるって聞くよね」

「いやあっ!そんなこと言うなよ!!」

「ビビりすぎだよ。そんなんで大丈夫か?」

「相手が吸血鬼なら大丈夫。幽霊じゃなければ」

「幽霊を使ってくる童質だったら終わりだな」

「あるかな?」

「無いことは無いでしょ。僕は生き物召喚するし弾間は物を召喚するしで、幽霊召喚してきても不思議じゃない」

「やめてくれ。想像しちゃうじゃないか。

 もしそうだったら俺は何をしてしまうか分からない。

 それくらい苦手なんだ」

「問題は幽霊に爆弾が効くかどうかだな」

「ああぁ、そうだ…忘れてた。この一ヶ月で強くなった気でいた。物理攻撃が効かない相手の対策を考えないと」

「確かに。物理攻撃効かない相手ってどうやって倒すんだろ」

「やばい。心配になってきた。これから戦う吸血鬼が物理攻撃効かなかったらどうしよう」

「その時は逃げればいいでしょ」

「怒られない?」

「怒られても僕たちにどうしろって話だよ」

「それもそっか」


「バチィィィン!!」


「「!?」」

 突然なにか弾かれたような音が山に響いた。


「結構近いよな?」

「う、うん」

 慎重に音の方へ歩き始める。

「パチィィィン!!」

「もうすぐそこだ」

「様子見る?」

「近づけるだけ近づこう」

「了解」



「「っ!!」」

 木々が生い茂る中、小さな小屋がポツンと建っていて、その傍にある木の枝にぶら下げられたオシャレなランタンが目に入る。

 その灯りの下にはボンデージ衣装に身を包む女の人と裸で四つん這いになってる男の人がいた。

「パチィィィン!!」

 女の人が持っている鞭を男の人のお尻に叩きつけた。

 数m先からでも分かるほどに男の人の全身は真っ赤になっていた。

「わ、分からない。俺には分からない。

 あれはそういう趣味の男女なのか?それとも吸血鬼なのか。だとしたらどっちが吸血鬼なのか。俺には分からない」

「いや、普通に女の方でしょ」

「普通?どういう見方からの普通なんだ?

 俺は色んな趣向を知りすぎていて分からない。尻だけに」

「これは奇襲は無理かな。話しかけるか」

「ああ。もちろん男にも注意が必要だ」

「わかった。そっちは任せた。僕は女を全力で警戒するから」

「了解」


 そして僕たちは歩きだす。


「あのー、何してるんですか?」

「あら、坊や。こんな所でどうしたの?」

 スタイル抜群、金髪のお姉さんが応える。

「道に迷っちゃったんです。どっちに進めばいいか分からなくて。そしたら音が聞こえたので音の方に歩いたらお姉さんたちを見つけました」

「そうだったのね。良かったら小屋で休んでいく?明日の朝には私たちも山を下りるから」

「そうな━━」

「た!助けてくれ!!この女は化け物だ!!

 この女は俺を山に引きずり込んだんだ!!

 信じてくれ!」

「うるさい!この豚が!」

 男の叫びを聞いて女は動き出す。そして確信した。

 女が振り上げた鞭は一m程度だったのが一気に三m程にまで伸びて男を叩いた。

「パチィィィン!!」

 は、速い!!間に入ろうとしたけど間に合わなかった。


「イタいっ!!」

「逃げろ!!早く逃げろ!!」

 僕は女と男の間に入って男に逃げるように伝える。

 男は一目散に逃げる体勢に入る。そこに女の鞭が振るわれた。

「うおっ!」

「パチィィィン!!」

「ぐっ」

 僕は何とか男を突き飛ばして身代わりになった。

(いってー!)

 背中が縦に割れた。

 ミミズ腫れならぬ大蛇腫れになるんじゃないかってくらい太い鞭に打たれた。

 男は転がるもすぐに立ち上がり振り返ることなく森の奥へと駆け込んで行った。


「ふーん。あんたたち聖童師ね。

 私を狩りにきたのかしら」

「そうだ」

「あ?目上の相手には敬語だろ?なってねーな」

「ははっ、当たり前じゃん。お前人じゃないんだから」

「ガキが、生意気ね」

「パチィィィン!!」

「ぐぁっ」

 やっぱ速すぎる。避けれない。数mにも伸びた鞭の先端が的確に僕を打つ。


「弾間!」

(ヒュンッ!)

 僕の背後から三つの爆弾が投げ込まれた。

(ビュンビュンピュンッッ!)

(ボガァン!)

「そんな遅い球が私に当たる訳無いじゃん」

 三つの爆弾全てが空中で鞭に弾かれた。


 この瞬間、僕は覚悟を決めた。 

「僕が盾になる!隙を見つけたらやってくれ!」

「大丈夫なのか!」

「大丈夫じゃないよ!めちゃくちゃ痛いよ!

 でもやるしかないから!」

「兵頭君……」

(パチィィィン!パチィィィン!パチィィィン!)

「くっそぉ!」

 避けることなんてできるはずなく、腕、脇腹太ももと打たれる。

 どれだけ痛くても傷はすぐに治る。



 とにかく鞭を止める。体を張って止める。それだけに集中する。

(パチィィィン!パチィィィン!パチィィィン!)

(ぐっ!痛いけど痛くない)

 痛みはあるけど、これならいくら打たれても僕には致命傷にならない。そうは見えないと思うけど、僕は根性論が大好きなんだ。

 目を瞑るな。引くな。耐えろ。掴め。

(パチィィィン!パチィィィン!パチィィィン!)

 弾間に当てさせる訳にはいかない。僕が気を引いて全部受ける。


 吸血鬼を捕まえに行く。

(パチィィィン!)

 痛くない!

(パチィィィン!)

 痛くない!

(パチィィィン!)

 痛くない!


 吸血鬼は僕と距離をとるために後ろに跳ぶ。

 合間合間で爆弾が無造作に放り込まれるが、鞭に弾かれる。

 やっぱり鞭か吸血鬼本体の動きを止めるしかない。

(パチィィィン!)

 痛くない!

(パチィィィン!)

 痛くない!

(パチィィィン!)

 あれ、ほんとに痛くない!

 感覚が麻痺したのか衝撃はあるが痛みは感じない。


(無敵モード突入じゃおらぁ!)

 防御のみのタンク職から止まらない戦車へと成り代わる。


 しかし戦車と言っても戦車程の防御力を持ち合わせていない。

 鞭が目に直撃した。

 凄まじい痛み。今までとは比べ物にならない。頭の奥にまで響く痛みを堪えて吸血鬼に飛びついた。

(ぽよんっ)

(ズザザ……)

 心頭滅却。邪な考えなど一切無し。

 吸血鬼の腰を掴み引き寄せた時に頭に柔らかいものが当たった。

 何も考えない。

「弾間ぁ!!僕ごとやってくれ!」

 僕は大抵の怪我では死ぬことは無い。

 弾間の爆弾くらい耐えてみせる。


 周囲に大量のウーパールーパーを目くらましとして召喚する。

 その数およそ三十匹。吸血鬼の視界はウーパールーパーで遮られてるはずだ。


 そして、一匹のウーパールーパーに爆弾が触れた瞬間。

「ドガァァァン!!ドガァァン!ドガァァン!!」

 一つの爆発を皮切りに次々と爆発していく。

 そして、吹き飛ばされる。前後左右の感覚が無くなり、どうなっかも分からない。





「ドガァァァン!!」

 衝撃と爆音で目を覚ます。

(!?)

 気を失ってたのか!

 すぐに立ち上がると吸血鬼と弾間が戦っていた。

(くそっ!)

 吸血鬼は左腕を失いその他もボロボロだった。爆発の威力を殺さないために聖気で体を覆わなかったからか僕の方がダメージがでかい。それでももう完治してる。ズボンが短パンになって上はショルダーシャツになってる。ショルダーシャツってなんだよ。

 相当弾けたらしい。裸足は辛いよ。


「さっきと同じ作戦で行く!!」

「兵頭君!」

「はっ!?なんで生きてんの!ちっ!面倒ね」

 鞭のおかげで弾間と戦えてたみたいだが、ダメージでまともに動けてない。

 次で終わらせる。近づけば狩れる。


(パチィィィン!パチィィィン!パチィィィン!)

「来るな!来るな!来ないでよ!」

(ドガァン!ドガァン!ドガァン!)

 全力で僕を拒絶する。吸血鬼は必死で訴えかける。自分の死が近づいたのを感じ取ったのか。涙を流す。

「もう感覚が麻痺してて痛みなんて感じないよ」

 無敵モードは継続中だ。


 今度は飛びつくと同時にナイフを取り出して吸血鬼の胸に差し込んだ。

(グサッ)

(ズザザ……)

「起死回生。会心の一撃」

 なんて決めゼリフを吐き捨てる。


 吸血鬼は夜空に消えていった。


「ど、どうだった?」

「なにが」

「金髪お姉さんに飛び込んだ感想は」

「死ね」

「な、なんでよ!あんなにスタイルのいいお姉さんに抱き着くなんてずるいよ!」

「……」

 何も言わずに僕は歩き出す。

「ちょっ!まっ!置いてかないで!夜の山で一人にしないで!!」



 この一ヶ月でわかったこと。

 弾間は普段ネガティブで臆病。そして特別に変態だ。





「お疲れ。酷い有様だけど大丈夫だった?」

「はい、何とか。一人じゃ無理でしたね」

「そんなに強かったんだ」

「とにかく速かったです。その速さについていけなくて」

「そっか、とりあえずお疲れ様。帰ろっか。」

「はい」

「で、弾間君は?」

「もうすぐ来るんじゃないですかね」


「ハァハァ……ほんとに置いていく?普通」

「普通?僕には分からないなぁ」

「人でなし!」

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