第7話 転校生が来た!!

 僕にはすごい再生能力があることがわかった。刺されても時間が経てば治る。

 今思えば確かに訓練でもちょっとした切り傷とか打撲とか少ししたら治ってた。青アザとかできなかったしカサブタも無かったな。

 でも痛みはちゃんとあるからどうだか。



 部屋では常に数匹のウーパールーパーが空中を彷徨ってる。今も肩に乗ってるやつとテレビに張り付くやつ、クッションで寝てるのと空中を飛んでる五匹、合わせて八匹いる。


 自由気ままなウーパールーパーだが、届かないところにある物を持ってきてくれたりするからありがたい。それにいつも部屋が賑やかだ。

 今度実家に帰ったらギザラギに紹介しよう。


 今日も元気に学校へ行く。



「えー、急ですが転校生を紹介します」

((ほんとに急だな!))

「入ってきてー」

(ガラガラ…)

 扉を開けて入ってきたのは中肉中背の男、いや身長は170後半くらいか。黒髪で前髪が目にかかってる。うん、暗そう。キョロキョロしてるし纏ってるオーラでわかる。

 でもがに股なんだ。これはあれだな。

 心の中は結構うるさいタイプとみた。

 と、ファーストインプレッションはこんなところかな。


「は、初めまして群馬から来ました、弾間(だんま)です。弾間(だんま) 漠(ばく)。

 高校一年で…まだ誕生日が来てないので15歳です。よろしくお願いします」


 同い年か、僕と身長は同じくらい。人の事言えないけど変なタイミングで来たな。


「それじゃあ兵頭くんの隣に座って」

「はい」


 ここで初めて目が合う。

「よろしく、弾間って呼んで良い?」

「うん。えと…兵頭君だよね。よろしく」

「うん」

 僕の方を見ながらもチラチラとくれぼんの方に視線がいく。

「私は暮慕岬 満。よろしく」

「はい。よろしくお願いします」



 今日は朝から訓練だ。

「更衣室は向こうにあるから行こうか」

「うん」

「それにしても変な時期に来たね。僕も九月に来たんだけどね」

「そうなんだ。

 なんか女の人にスカウトされてさ」

「そうなの?」

「うん。

 あれはそう、分厚い雲が空を覆っていて昼なのに異様に暗かった十二月の話……。

 体育の時間、そこの学校の体育教師はジャージ禁止っていう意味わからないことをしてて、ジャージを着たら成績を下げるって言うんだ。

 だから寒空の下、半袖短パンでサッカーをしていた時、俺は当然グラウンドの隅でぼーっと立っていたよ。

 立ってるだけだから余計寒くてね。

 そんな時にネットの向こう側…道路から突然声をかけられたんだ。驚いて振り返ると綺麗な女性が立っていた。

 十°Cを下回っていたのにも関わらず薄着でね、目のやり場に困ったよ。

 俺は美人を前にして言葉が出なかった。五秒ほど見つめていたかな。

 痺れを切らしたのか、話し始めてね。

 そこで初めて聞いた聖童師っていう裏の職業。ビビッときたね。社会不適合者の俺にはこれしかないって。

 どうせ社会でやっていけないんだ。就職してもこのオドオドした性格でみんなから苛立たれるんだ。仕舞いには要領の悪さでみんなから嫌われる。

 これは決まってるんだ。この性格は直せない。これが俺で俺はこれなんだ。

 だからこそ、こんな俺にはちょうどいいのかもしれない。

 個人主義の成果報酬型。スポーツ選手みたいなものだよね。

 それにその美人女性から才能があるって言われたんだ。当然即決だよ。


 生きてくならお金を稼がなきゃやっていけない。なら手っ取り早く命賭けてお金を稼ぐ」

「めちゃくちゃ語るね」

「最後にこれだけは聞いて欲しい。

 俺は聖童師になって大金を稼いで東京に住んで美人な嫁をもらう!」

「そうなの、頑張って」

「欲を合えば芸能人」

「欲ダダ漏れだな」

「そう。だから俺は最強を目指す!」

「なんか教室の時とキャラが違うな」

「いや、俺女子苦手だから。

 だからさ、このことも他の人には言わないでよ」

「まあ、言わないけど」

「助かる」

 なんかやばい匂いがする。いや、同類か?


「とりあえず行こうか。もう時間ないし」

「ごめんごめん。積もる話をしすぎた」

「いや、ほとんどどうでもいい内容だったけど」



「あ、あのさ、この学校って女の人しかいないの?」

「僕がいるじゃん」

「そうなんだけどさ、そこの女の子も先生も。女性率高くない?」

「それは僕も思ってた。弾間が来る前は僕一人だからね」

「おお、すごい!よく耐えられたね」

「別に興味無いからね」

「す、す、す、すごい!!」

「でも先輩にいるらしいよ。まだ会ったことないけど」

「そうなんだ。早く会いたいな。

 っていうか何あの格好!ハレンチだよ!まともに見れないよ」

「弾間…ちょっとやばいぞ」

「いや、自分でもわかってるよ、そんなこと。それでも抗えないものが男にはあるだろ。

 君には無いのか!」

「無いよ」

「はあ、ここでも俺ははぐれ者か」

「どこいっても多分そうだよ」

「くそう!これが試練か!!」

「一人でやってろ」

 これがグラウンドに出た時にした会話だ。





「うわっ!ぐっ!がはっ!」

(やばい、やばい!こいつっ!)


(凶変しやがった!こいつはやばい!

 さっきまでとは明らかに纏ってる雰囲気も顔つきも違う。

 確実に僕を倒しに来てる)



 遡ること三分前。

「ストレッチ終わったねー。

 それじゃあ兵頭くんは弾間くんと組手してね。満ちゃんは先生とやろっか」

「「「はい」」」


 なんて言われたけど。

「できるの?」

「わかんない。運動は苦手だから」

「それじゃあ最初はテキトーに殴ってきてよ。僕が受けるから」

「大丈夫?」

「平気平気。こう見えて吸血鬼何体も狩ってるからさ」

「わかった」


 と、軽々しく言ってしまった自分を責めたい。


 組手が始まってから一分、僕は既にかなりの致命傷を負っている。

 一撃一撃が僕の命を刈り取ろうとしてる。

 完全に防御できるのは三発に一発。それ以外は無防備に食らっている。なんとか急所は避けてるけどそれも時間の問題。


 何とか離した距離も一歩で詰められ瞬時にフェイントを織り交ぜて僕のお腹を殴りつける。

 類稀なる目の良さ、それに応える反射神経と身体の緻密な制御能力。



「ご、ごめん。大丈夫?」

「うん。もう治ってるから」

 僕には手に負えない。先生の方を見ると二人とも手を止めてこっちを見ていた。いや、正しくは弾間 漠を。


 僕は天才なんかじゃなかった。僕が選ばれた者なんて考えてたの笑えてくる。弾間と同類?住む世界が違う。



 そして、興味を持った先生は弾間と戦うことになった。



「いいね。既に基礎はできてる。ただ、もっと狙いどころを分けないと簡単に躱されるよ」

「で、でも女の人を殴るのは抵抗が」

「そんなこと気にしてたの?先生は強いから平気だよ」


 少し離れた所からその会話を聞いて僕の目の前が真っ暗になる。今のでも十分戦えてたと思ってた。まさか、手加減してたなんて。


「えーっと、童質っていうの使ってもいいですか?」

 その一言で僕の足場は完全に崩れ落ちた。

(ははは)

 逆に笑えてくる。どれだけ才能を与えられてんだよ。


「それじゃあいきます」

「全力で来な」


 そして?弾間の手には爆弾のような物が握られていた。地面に叩きつけられたそれは確かな威力で地面を削り砂埃を立てる。

 さらに複数の爆弾を投げつけ先生の動きに制限を付ける。

 殴り合いの最中に不意に出てくる爆弾は先生を吹き飛ばし追い詰めていく。

 飛ばされた先に放り込まれた爆弾に吹き飛ばされ、連鎖していく。


 が、突然爆弾の連鎖は止まり、身一つでの戦いに戻った。

 そのまま戦いは終わった。


「なんで途中で爆弾使わなくなったの?」

「い、いえ、初めて使ったのでしっくり来なくてやめました」

「そうなんだ?かなり良かったけどね。先生も少し焦っちゃったよ」

「ははは」




 授業が終わって更衣室。

「は、初めてだったんだ。めちゃくちゃ使いこなしてたけど何がしっくりこなかったの?」

「いや、あれは嘘だよ」

「え?」

「いや、爆発で先生の服が危ないことになってたからやめたんだ。あれは危なかった。見えちゃうところだったよ。先生のたわわな胸が」

「は?」

「え?」

「あ、いや」

 は?そんなことでやめたのかよ。わかんない。僕とは次元が違う。


「あ、あのさ、良かったら今日うち来ない?

 こんなに仲良くなれた人、初めてだからさ。

 もし良ければだけど…」

「ごめん。今日は疲れたから休みたい」

「そ、そっか…そうだよね。訓練大変だったからね!あはは。

 確かに久しぶりにこんなに動いたから、こりゃあ明日は筋肉痛だぁ!……ははは」


 天賦の才。

 僕は初めて人に対して罪悪感を持った。

 これが嫉妬ってやつか。気持ち悪い。醜い。情けない。憐れで惨めで浅ましい。

 僕が欲した、僕には無い才能。


 僕はどんな時でも僕を信じてた。人からの評価なんて気にしないし興味もない。どうでもいい。

 そんな自分が好きだった。

 なにかに真剣に取り組むってこういうことなんだろうか。目の前の真実を受け入れられない。受け入れなかったからって何も変わることは無い。




 僕は生まれて初めて自分を嫌いになった。

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