第6話 新年 それと童質
年が明ける前にもう一度吸血鬼狩りをした。三回目ともなると戦い方も慣れてきて、無傷の狩りを行えた。
結局あの時なんでウーパールーパーが出てきたのかわからない。
年が明けて学校も新学期が始まった。
「さてさて、新年を迎えたということで次のステップにいこうか」
「「次?」」
「童質だ!」
「「童質!!」」
「兵頭くんはもうできてるよね。意識してウーパールーパーを出してみようか」
「は、はい。できますかね」
「やるんだよ」
「はい」
「そして満ちゃんだけど、心と対話してみよう」
「対話?」
「そう。もう知ってるかもしれない。というか童質は既に決まってるからね。後は知覚するだけだよ」
「…はい」
そんなことを突然言われてもウーパールーパーを出す?言ってる意味がわからない。
出さうと思って出せるものなのかな。二回とも勝手に出てきたしなんで出てきたのかわかんないんだよな。
心との対話かぁ。
僕はグラウンドの端に立つ木の根元に座り込んで目を瞑る。聖気をゆっくり流すと体全体に温かさを感じる。冬だけど、シャツとジャージ一枚だけでも落ち着ける。
ウーパールーパーが一匹、ウーパールーパーが二匹、ウーパールーパーが三匹……。
と、心の中でウーパールーパーの数を数えてると体の中の聖気に乱れを感じた。何か聖気が小さな一つの纏まりとなって体の外に出ていく。
(これか)
そのまま感覚を忘れないように、今度は意志を持って流れる聖気で一つの小さな塊にしてウーパールーパーを象り、体の外に出していく。
「おお!」
目を開けると目の前には四匹のウーパールーパーが空中を漂っていた。
「うおっ、柔けぇ」
試しに触ってみるとめちゃくちゃ柔らかかった。
「あっ…」
実家にいるギザラギは触ったことが無いから比較出来ない。魚って基本人が触ったら火傷するからって父さんに言われたな。
でも見れば見るほどギザラギにそっくりだ。
クリっとした瞳、真っ白な肌、手足のビロビロ具合が相変わらずかわいい。
「ギザラギ」
(ギュイン!)
「うおっ!」
名前を呼んだら一斉に振り向いた。
意思疎通はできるのか?なんか新体操みたいにビシッとしてるんだけどそんな動きはウーパールーパーっぽくないぞ。
「右向いて」
(ぷいっ)
「左向いて」
(ぷいっ)
「飛べ!」
(ビュン!)
「まじか」
意思疎通は完璧で自由自在に飛べる。
この後色々と試してみたら凄かった。
「先生〜」
「どうした?」
「見てくださいよこれ」
「おー、掴んだか」
「はい。それだけじゃないですよ。
ピラミッド!」
(ビュイッ!)
あの後二匹増やして六匹になったウーパールーパーは僕の指示を聞いて一斉に動き出す。
まず三匹が横に並び、その上に二匹が並ぶ、そして最後の一匹が二匹の上に立つ。
「ジャジャーン!ウーパールーパーピラミッド!」
「ははは、すごいじゃん」
人見先生は若干の苦笑い。
「かなり細かい指示までできるんですよ」
「へ〜、かわいいじゃん」
「ですよね」
「くれぼんはどうですか?」
「んー、満ちゃんはまだかかりそうかな」
先生の隣で座って瞑想していて、今の盛り上がらでも微動だにしない。すごい集中力だ。
「アッ、なにか……くる。
体の内側からせり上がってくる…熱い…」
突然なにか呟き出して、額に汗を浮かべるくれぼん。くれぼんの長い髪がなにかの影響か逆立ち始める。
「おお、なんか掴みましたかね」
「多分ね」
「くっ、んっ…」
少し苦しそうな表情になる。
(ボフンッ!!)
突如大きなエネルギーが発生し、くれぼんの両腕が燃え上がる。
「なんだ!」
いや、燃え上がっているのでは無かった。くれぼんの両腕を覆うように白い犬の頭が一つずつ現れた。
「来た!」
大きく目を開く。
「これが私の童質」
両腕はすごいエネルギーを纏ってる。普段聖気で纏ってるようなちゃちなもんじゃない。
くれぼんの肘から指先までをガッツリと覆った半透明な白い犬の顔の表情は猛り狂っている。
血走った赤い目に鋭い牙、開いた口から漏れ出る聖気のようなもの。
ハァハァと荒い呼吸が聞こえてきそうな程に激しい揺らぎ。かぶりつきたそうに僕を見ている。
「ねぇ、その犬こっち睨んでるんだけど」
「戦いたいの?それなら先生が相手してあげる」
「私今なら吸血鬼を一撃で狩れそうです」
「た、頼もしい!!こんなにむき出しの闘志初めて見た」
「おいで。受けてあげる」
「はい!」
うおー。なんかめっちゃ盛り上がってる。反対にウーパールーパーたちはあの犬が出てきた瞬間、僕の背中に隠れた。
つんつんと僕の背中を押してる。
(可愛いぜ)
突如始まった戦闘は激しい火花を散らしていた。
「はあっ!」
常に攻めの姿勢を見せるくれぼん。やる気満々じゃん。
対して守りを固める先生。まあ、くれぼんの童質を計るためだからそういう構図になるんだけども。明らかにパワータイプの童質。
先生の童質に関しては攻撃力も防御力も上がる訳では無い。そもそもこの戦いで使ってないし。
半透明な白い犬の頭を纏った腕の攻撃は、傍から見てても高威力に思える。
先生は上手く流してるけど、時々大きく腕を飛ばされる時がある。
ただし、先生にダメージは見えない。技術的な問題でパワー差を埋めている。
正直、先生にダメージを与えられるビジョンが見えない。体術の勝負で先生が遅れをとるはずがない。
あんなしょぼい童質で特に武具も使わないで従一位なんだから。聖童師の上澄みの人だ。
ただ、その先生の腕を飛ばしてるんだから相当すごいなあの犬。僕だったらワンパンかも。
結局、一撃もくらわせる事無く終わった。
「はぁー。先生やっぱり強いですね。全然適わなかった」
「これからはそれに合わせた体の使いたかをしていこうか。それだけで結構強くなると思うよ」
「はい!」
「僕置いてかれちゃってんじゃん」
「ふっふっふ。このまま突き放しちゃうから」
「それは無理だね。なんてったって僕にはウーパールーパーがいるから」
「それ、役に立つの?」
「もちろん!」
「なにに?」
「僕に元気をくれる」
「それどっかの顔をあげるヒーローじゃん!」
「負ける気がしないよ、なんせ元気百倍だからね」
「後でやる」
「いや、やめとく」
「自信無いんじゃん」
「これから可能性を見つけるんだよ」
教室に戻って授業を受ける。
「二人とも童質使えるようになったんだって?」
「「はい」」
「それじゃあもう名前は決めた?」
「名前なんてつけるんですか?」
「えー!つけるに決まってるじゃん!」
「なんにも考えてないんですけど」
「私も」
「せっかくだからつけようよ!」
「みんなどんな名前なんですか?」
「気になる!」
「えーっとね。世代によって違うんだよね。
例えば今一線で活躍してる人たちの世代の主流はね、四文字の漢字だね。
なんか漢字四字だと収まりが良いし、かっこいいんだよね。
ちょうどいい四字熟語をもじったりしてる人も多いよ。
後は言葉を繋げたりしてる人もいるかな。それと言葉にルビをふってカッコつけてる人もいるね。陰で厨二病って呼ばれてるけど」
「なるほどね〜」
「人見先生は魔波堕己(まばたき)だね」
先生が黒板に書き出した。
「うわっ、強そう。てか、怖い」
「このケースはあんまりいないね」
「私決めました」
「まじ?早いな」
「おっ!」
「腕白(わんぱく)。なんてどうですか?」
「おちゃめかよ」
「いいんじゃない?」
「わんぱくのわんは犬ともかけてます。それとぱくは口を開けてるのでパクッと食べちゃうぞ的な…」
「うわっ!なにそれめっちゃ良い!!」
「ホント?」
「うん。めっちゃ口に馴染むわ。くれぼんはわんぱくと。わんぱくなくれぼん」
「ちょっ!その言い方やめてよ。私がわんぱくみたいじゃん」
「いや、くれぼんはわんぱくだよ」
「次言ったら食べる」
その一瞬で犬の頭を両腕に纏わせて向けてくる。
「あ、危ないからやめてくれ」
僕の鼻先に犬の鼻がぶつかりそう。めっちゃ睨まれてるし。もう脅しの道具に使うほど使いこなしてるよ。
「ちょっと待って、両拳(りょうけん)腕白(わんぱく)もありかも……んー、決めきれない」
「それもダブルミーニングかよ。天才か」
「いいよ、盛り上がってきた!」
先生が唸る。
「僕は苦手なんだよなぁ。そういうの」
さっきウーパールーパーの事調べてみたけどかなり強力な再生能力があるらしい。絶対僕の再生能力と関係してるじゃん。ウーパールーパーの能力を引き出せるのかもしれないというか絶対そう。エラとか生えるのかな。
そうなるとそこを名前に組み込みたいよな。
ていうか、なんでウーパールーパーなんだよ。って疑問が残る。後々のために汎用性も持たせておいた方がいいかもしれない。
生、生物、動物、召喚、顕現、特徴、貸出、再生。あーもうわかんない。
「ダメだ。童質の細かい能力も全然わかってないから決められない」
「すぐに決める必要はないからね。ゆっくり考えな」
「はい」
「そういえばウーパールーパーってストレスすごいと変態するんだって」
「そうなんだ」
「僕も変態するかな」
「きもっ」
「あ、それストレスだわ」
そのゴミを見る目をやめてくれ。
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