第31話
昨日塗った透漆が乾いたのを確認し、今夜は
糊と透漆をよく混ぜてから、刻苧綿、木粉の順に加え、これまたよく混ぜる。固さが出てきたら、刻苧漆が完成する。
刻苧漆を陶器の欠けた部分に竹べらで詰め、指で形を整える。
指に木粉をなじませてから押すと、刻苧漆が指につきにくく形が整えやすい、と兄が教えてくれた。
次の作業は、順調にゆけば一週間後。刻苧漆が乾燥するまでの我慢だ。金粉を蒔くのは、もっと先になる。
金継ぎの経験があるとはいえ、専門的にやっていたわけではない。緊張の糸が切れると、どっと疲れが出た。昼間は野球に興じ、化け物騒ぎを聞いて駆けつけようとすると迷子になり、球場に戻ってくれば兄妹が喧嘩をする。
郷里でお蚕と畑仕事をしていたときも疲れは出たが、それとは違う達成感もある。好きなことを堂々とやっても非難されない状況が、居心地の良かった。
寝ようと思っていたところ、家の中が騒がしい。
「みどりさん、クモさん」
「コウ、悪いな」
「コウ殿は先にお休みになって下さいな」
こんな時間に、みどりとクモは出かける支度をしている。
「モノが出たと、知らせが入りました。見て参ります」
「こんな時間に?」
「ええ。モノは基本的に、暗がりに出没します。コウ殿が関わったモノが特別にチカラが強かったのです。心配なさらないで。兄上も一緒に行きます。家には番犬を置いておきますゆえ、気兼ねなく寝ていて下さいませ」
みどりは、
「では、行って参ります」
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