第7話
綺麗に言い切った後、みどりは小首を傾げた。
「えっと……えー……」
洸次郎を指差そうとして、ためらっている。クモは、みどりのその様子を読み取ったように、答える。
「洸次郎さん。上州から来たんだとさ」
「洸次郎殿でございますか」
みどりは納得したように頷いた。
みどりが用意した膳は、丼飯だった。
丼に、豆腐と梅干し、揚げ玉。山盛りのそれらの下から、炊きたての飯が顔をのぞかせる。
「乗っけ丼」と命名できそうな丼飯を眼の前に、洸次郎は空腹を思い出した。と同時に、自分に男尊女卑の意識があったことに気づき、恥じた。みどりが炊事をしてくれて、一汁三菜が出てくるとばかり思っていたからだ。しかし、乗っけ丼は以外にも美味だった。隠し味がありそうだ。
「おい、妹よ」
「お口に合いませんでしたか?」
「合うさ。美味いんだけどよ。美味いんだけど……」
「良うございました。腕によりをかけましたので、そう仰って頂けて、妹は感激しておりまする」
みどりは袂で目尻を拭い、深く息を吐いた。
「腕によりをかけてこれかよ……いや、撤回する。美味い飯をありがとう……いやいや、それもそうだが……米も梅干しも揚げ玉も、うちに置いてなかったはずだが」
「鹿島屋様から頂きました。病人を休ませているとお話しましたら、たくさん頂きましてございまする。鹿島屋様が明日、お医者様を呼んで下さるそうです」
「あいつ、どんだけ貢ぎやがるつもりだ」
「父上の葬儀をおすっぽかしなさった身でよく仰せになりますね」
みどりの声が一段低くなり、クモは口をつぐんだ。
「して、洸次郎殿」
三人とも箸を置いたところで、みどりが話を切り出した。
「先程、大きなお声が聞こえてしまいました。何も考えずにここまで来て、モノを連れてきてしまった、と」
そこだけ、みどりに聞こえてしまったらしい。
「話せないこともございましょう。ですが、話せることは話して頂きたい。特に、あのモノのことは知りとうございます。どうか、お願いします」
みどりが頭を下げ、かんざしの
「頼む」
クモも頭を下げた。
「やめて下さい。ふたりとも、頭を上げてくんな」
時代が変わって身分が無くなったとはいえ、洸次郎は百姓の出自だ。頭を下げられる身分ではない。
「話します。まだ頭が追いついてねえけんど」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます