第2話
「
それが茶道具の名である
雑踏の中から跳び出してきたのは、二匹の子犬だ。片や果敢にも包丁に跳びつき、片や勢いよく男に体当たりする。
包丁は洸次郎の手元すれすれに落ち、平衡を崩した男は尻餅をついた。
モノだ。村で見た、村から洸次郎を追いかけてきた、あの禍々しいモノだ。
「
先程の声が子犬二匹に命令する。二匹は黒い影を追い、姿を消してしまった。
近くにいた人々は、呆気にとられたように子犬を見ていたが、誰かが「河鍋さんのとこの絵だね」と言うと、他の人も納得したように頷いてこの場から離れていった。
入れ替りに現れたのは、帳面と筆を携えた女だった。
「そこの
先程の声の主だ。着古した藍色の着物に袴。髪は簡単に
「あのモノは、わたくしの絵に追わせております。ご安心なさいませ。今あなた様を貶めるものは何もおりませぬ」
女が差し伸べた手を取ろうとして、洸次郎は亡き妻を思い出してしまった。美人ではないが気立ての良い妻。その性格が誤解を招き、悲劇を招いてしまった。
涙で目がかすむ。頭がくらくらしてきた。女が何か叫ぶが、言葉が頭に入らない。女とは別の大きな手に支えられ、洸次郎は意識を手放した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます