10.本性

「ざまぁぁぁ!」


俺がそう言うと、ショリーは顔を赤面・・いや黒面にして俺を地べたから凄い形相で睨みつけてくる。俺はその姿も楽しんで見ていた。


「ダッセー!!地面に這いつくばっていて完全にイモムシじゃん。屑で馬鹿なお前に丁度いいよ!」

「お、おのれ!」

「どう、最弱の俺に負けた気分は?周りの視線も気になって羞恥でいっぱいでしょ。俺?俺は最高に気分がいいぜ!ああ、スッキリするしもう病みつきになるよこの感覚。君たち馬鹿共に分けてあげたいよ」


周りから色々なものが飛んでくるけど気にしない。野次も耳に入ってこない。俺は勝者なんだ、正々堂々と戦って勝ったんだ!


「お、覚えていろよ・・・!」


ショリーが這いつくばりながら言う。恨めしそうに俺を見つめてくる。

俺は笑みを浮かべながら大イモムシの下にいってしゃがんで言ってあげる。


「はいはい、寝言は寝て言ってね」

「殺してやる!!!」


頭をポンポンと叩いてあげると一瞬で手を弾かれ凄い行相をして立ち上がろうとする。が、体力の限界か直ぐにまた倒れる。あまりにも面白いから俺は笑いながら言う。


「ハハハ!やれるもんならやってみろ!お前の負け―」


俺が再度煽ろうとした瞬間、どこからか魔法が放たれた。


三大炎火竜テラ・フレアブレス!」


巨大な炎が形成され俺にめがけて飛んでくる。とっさのことで反応できず、死を覚悟した瞬間、その魔法は防壁バリアによって防がれた。


四大防壁ペタ・バリア


俺を守るように厚い巨大なバリアが作られる。作った人を見ると予想通りの人だった。


「イーリス、ありがとう」

「レーくんに怪我が無くて良かったよ!」


その言葉を聞いて思わずはにかむ。一緒にいたサエスも闘技場に降りてこちらに向かってくる。


それよりもだ。俺は魔法を放った方を見る。そこには顔を真っ赤ににして怒鳴り散らすショリーの婚約者、クリーミがいた。


「ふざけるんじゃないわよ!何邪魔してくれているの!今からそのクズを殺そうとしたのに!」

「いいえ、どきません!あなたこそ二人の決闘に割って入らないでください」

「うるさいわね、男爵風情の娘が!そいつがズルをしたから打っただけよ!」

「レーくんはズルをしていない!」

「ズルをしているわ!でなければショリー様が負けるはずないですもの!」

「レーくんはあくまで実力で勝ったのよ。ズルなんてしてないわ!」


言い争いが激化して一触即発・・・いや、すでにしていたが。とりあえずこの闘技場で新たな戦いが起きるかもしれない。


そう思っていると甲高くきれいな声が会場に響き渡る。


「両者、そこまで!」


声のした方を見るとそこには階段を降りてこちらにくるヴェリーナの姿があった。

魔法を発動させながらイーリスとクリーミもそちらを見る。


「二人共、魔法を解除してください」


二人に優しく語りかけるヴェリーナ。イーリスは素直に防壁バリアを解くがクリーミは未だに発動させたまま。しばらく魔法を解かないクリーミを睨みながらヴェリーナは言う。


「クリーミ伯爵令嬢。今すぐに魔法を解きなさい」

「ど、どうして肩入れをなさるのですか、ヴェリーナ様」

「いいえ、肩入れなど―」

「でしたらあのクズに制裁を加えても問題ないではありませんか!」

「・・・クリーミ・ルーラ・マフタス。早く解いてください」


睨みながら低い声で注意するヴェリーナを見て流石に怖気づいたクリーミは魔法を解く。だが、俺への罵倒はやめない。


「ヴェ、ヴェリーナ様!このような最弱でクズなやつをこの学園に在籍させといてよろしいのでしょうか。このような貴族の恥晒しをあなたはお許しになられるのですか!」


賛同の声がちらほら上がる。ヴェリーナはクリーミを見ていたが、少しすると目線を外して呆れたようにため息をつく。


「クリーミ。貴方がなんと言おうと彼はここの生徒。最弱だからという理由で退学にはできません」


そうだそうだ!・・・ってクズなところは否定しないのかよ!


「それにこの試合はズルなどしておりません。あくまで実力で彼は勝ったのですよ。それに比べ・・・貴方たちは貴族の風上にも置けません」

「なっ!」

「何もしていない人をいじめ、神聖な試合で茶番をして、挙げ句の果てに実力差で負ける。恥ずかしい限りです」


やれやれといった感じで首を振るヴェリーナ。会場からはちらほら笑いが出る。


「な、なんですかその言い草は!ヴェリーナ様といえどあまりにも失礼ですわ!」


先程よりも顔を真っ赤にするクリーミ。


「事実をお伝えしただけですよ」

「どうしてそいつに肩入れをされるのですか!」

「それは・・・」


黙るヴェリーナ。流石に宰相家が一貴族に肩入れをしたのはまずいのかな?だが、これは利用させてもらう。


「それは―」

「そりゃーヴェリーナが俺の味方に決まってるじゃないか。個人的にお茶行く仲だし」


会場がざわつく。

無理もない。子爵令息が公爵令嬢を呼び捨てする。しかもお茶に一緒に行っている。それがどういう意味か、貴族ならわかるはず。


「レイド」

「なんですか、ヴェリーナ。事実ですよね」

「・・・はぁ〜」


事実ヴェリーナがアルレンス家は俺の味方だって言ってたし、お茶にも(一回だけ)行った。俺は嘘を付いてない。


そんなことを考えていると悟ったヴェリーナは呆れた目を俺に向けてくる。まあ、この前散々金を使わされたからな。そのお代をここで返させてもらおう。


「いいか、お前ら!俺の味方はアルレンス家だ、よく覚えとけ!」

「う、嘘よ!」

「本当だよな?」

「ええ、貴方の味方ですよ」


そうヴェリーナが言うと何故か笑いがちらほらでたが気のせいだろう。とりあえず、大義名分はある。


「俺へのいじめはアルレンス家への敵対となる。つ、ま、り!これから俺と俺の仲間たちに一切関わるな!」


俺が言い切るとクリーミ、そしてショリーの取り巻きたちは立ち上がり罵声を浴びてせてくる。


忘れていたがショリーは救護班に運ばれて行った。


「子爵ごときが指図するな!」「ショリー様も五公だぞ!」「クズが黙れ!」


そんな屑共の罵声が続くがヴェリーナが一喝する。


「いい加減にしなさい、貴方達」

「ですがヴェリーナ様!何でそんなやつを庇うんですか」


未だにきちんと理解していないクリーミにヴェリーナは淡々と事実を告げる。


「当たり前ではないですか。レイドは子爵家の長男。対するショリーは次男。貴族から見てもどちらと仲良くすべきか明らかです」

「ですがショリー様はナーバナ公爵家ですよ」


何にも理解していないクリーミに俺は言う。


「だからショリーは次男だろ。いいか、よっぽどのことが無い限り次男は家督を継げない。そうなると将来は家の家臣となるか王家に仕えるか。貴族になったとしても男爵だ。お前に兄がいるならまずもって婿養子も無い。つまり、どう転がっても将来の身分は俺より下になるってわけよ」

「あ、あなたが継げるかわからないじゃない!最弱なんだし」

「家督を継ぐことに魔法の有無はあまり関係ない。だから俺は家督を継げれるの。アンダースタン?」


ようやく理解したのか顔を真っ青にするクリーミ。ショリーに嫁げば将来金に困らないと思っていただろうが残念。一番位が高いので男爵、次に近衛兵ぐらいにしか成れないだろう。結局俺より身分は低くなる。


「ククク、その顔が見たかったよ。どうだ、格下だと思っていた奴にバカにされるのは?さぞ嫌だろう、うざいだろう。だがな、俺は今学期散々やられたよ。蹴られて、罵倒されて。だけど俺は子爵なんだよ。俺より身分が低いくせにバカにしてきた奴!」


俺は会場の全員に聞こえるように声を張り上げて言う。


「今から謝ってくるなら許してやるぞ」


ニヤリと笑うと少しの沈黙の後にまたも大きな罵声が飛んでくる。イーリスやサエス、ヴェリーナも困ったような顔をして苦笑いする。


「レーくん、あまり煽らないほうがいいよ」

「いいや、イーリス。ここで鬱憤を晴らさせてもらうぜ」


調子に乗って俺は罵声をものともせずさらに会場を煽る。


「そんなに俺を煽っていいのかなぁ〜?俺は子爵家の嫡男様だぞ。お前らより偉いんだぞ」


「うるせえ!」「雑魚は引っ込んでろ!」「クズは黙れ!」


「ククク。弱者たちがなんかほざいている〜。わぁ〜恐い恐い〜」

「レーくん、そろそろ」


イーリスが咎めてくるけど、無視する。会場に残っているのは俺に煽られた馬鹿共、つまり俺より身分が低い奴ら。そんな奴らを煽って何が悪い。権力の有効活用だ!


「俺を殺れるもんならやってみろ!」

「いい加減に―」

「ん?何だヴェリーナ」

「しなさーーい!!二大雷雷ギガ・サンズ!」


そう唱えられたと同時に空から俺めがけて魔法の雷が降ってくる。反応できず俺に直撃。そのまま意識を失うのだった。



◇◇◇


「・・・は!」


意識を失ってしばらくして目を覚ますとそこは前にも一度運ばれた闘技場の医務室だった。起き上がって辺りを見渡すとイーリスとサエス、ヴェリーナがいる。


「お、俺は・・・って、ヴェリーナどういうことだ!」


気を失う前の事を思い出して魔法を俺に放ったヴェリーナの方を見る。しかしヴェリーナは素知らぬ顔をして言う。


「仕方ないでしょ。貴方があまりにも煽って火に油を注ぐのだもの。流石に限度があるわ。貴方を止めないとあの場は収まらなかったのよ」

「でも、イテテテ。気絶するほどの魔法を俺に放つ必要無いでしょ!」

「それは、謝ります。軽く放ったつもりだったからまさか・・気絶するとは思わなかったので」

「最弱で悪かったな!」


たかだか二大ギガ魔法。この時代の普通の人が普通に使える魔法。だが、最弱で無防備な俺にとったらひとたまりもないものだ。俺が最弱だから。


「そのことについては悪いと思っているわ。でも、貴方もやりすぎだからね」

「はいはい、すいません」


俺は適当に返事をする。


「それよりあの後、どうなったんだ?」

「あの後を収拾するのは大変だったわ。私とイーリスちゃん、サエスくんと何とかあの場を抑えたのよ」

「本当にそうよ。レーくんがあの場を荒らしたせいで大変だったよ」

「ぼ、僕は助けられた身だったから、も、文句は言わないよ!でも・・・大変だったよ」


どうやら俺のせいで結構苦労したそうだ。だったら文句を言う資格は無いな。


「あの場を収めてもらったことには礼を言うよ、ありがとう。でも、俺へ魔法を打つのはやめてくれ」

「・・・貴方は本当にあのショリーに勝った人なの?」

「そうだよ!ズルはしていない。実力で勝ったんだ」

「だったら何で私の魔法、たかだかギガで気絶するのよ」

「あ、あれは不意打ちだったからだよ。身体強化していれば耐えれて・・・いたと思う」


自信ない。俺にとったら威力は強大。もちろんこの時代に生まれたから魔法への耐性は前世より備わっているがそれでも能力は前世と同じ。ギガ以上の威力への抵抗が無い以上最弱のままだ。


「まぁ、これであいつらも分かっただろう。俺がどれだけ偉いかなどを。これで来学期からのいじめはほとんどなくなるだろう」

「貴方、その代わり学校中の嫌われものだよ」

「結構コケコッコー、だ。それぐらいは耐えられるよ」

「・・・いじめを受けている、でも周りを巻き込まない大人な人だと思っていたけど勘違いだったようね。普通のクズだったわ」

「確かにレーくんはクズな部分があるけど、根は優しいです!」


二人して俺をクズクズ言うな!サエスも何も言えないからって明後日の方向を向くな!


「俺の性格とかはどうでもいい。とりあえず、俺は今や正義!アルレンス家とも繋がりがあるし、恐いものは無い!」

「・・・・・・」

「おい、ヴェリーナ何で黙る?」

「貴方、本当に気づいてないの?」

「は?いや、アルレンス家は俺の味方だって言ったよな。この前も今日も」

「ええ、貴方の味方ですよ」

「・・・ちょっと待て。そのはアルレンス家も入っているよな?」

「いいえ、あくまで私個人が味方をしているだけです。父上達は関係ありませんよ」


おいおいおいおい・・・これはまずい!!!

つまり俺の後ろ盾となる家は―


「ええ、アルレンス家自体は後ろ盾では無いです。フフフ」


俺が危惧していることを笑いながら言う。


「つ、つまりこのことがバレたら」

「いじめがまた起こるかもしれませんよ。子爵以上の馬鹿達はアルレンスが後ろにいると思いこれからは手出しはしてこないでしょうけど、もし私個人が味方だと分かれば恐いものなしとばかりにいじめてくるかもしれません。まあ、ある程度は私が守ってあげれますが」

「そ、そんなぁぁぁぁ!!!またあの地獄な日々が続くのか!」

「たぶん心配無いわ。そのことに気づいた人はあまりいないだろうし」


あの場で笑っていた奴らか。確かにほとんどいなかったが。


「まあ、気づかれないように頑張りなさい。おバカさん」


ふざけるんじゃない!!!堕天使もヴェリーナも!人の揚げ足をとって貶めて!!!

イーリスを見ろ!今までの話を聞いて心配する純粋無垢な目!


これだから賢い女は嫌いだ!!!!!


そんなこんながありながらも、夏休みは始まるのだった。

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