9.レイド復活!
「誰にやられた、クリーミ!」
「グスン、そこのクズですわ!」
泣きながら俺を指差す。
「な、クズなレイドだと!」
おいおい、最弱を忘れているぞ。
「いや〜その糞屑伯爵令嬢が俺の友人のことを馬鹿にしたんでね〜。つい手が出てしまいました(テヘペロッ)」
「な、何だと!」
俺が煽って謝ると怒りだした。
もうどうなっても知らん、と思っている。こいつらの奴隷でいるのはもううんざり。
家のこと、友人のことと考えていたがもうどうにでも成れ、だ。俺は自分を信じて行動する。
「弱くてクズなくせに!楯突くというのか!」
「いや〜ん、こわいこわ〜い。俺失禁しちゃうかも〜・・・なんて言うかよ糞メガネ」
「糞、メガネ・・だと!!!」
あらら、完全にお怒りのようです。でも中防を煽るのには単純な悪口が一番効果的。
「いつも偉そうで、周りからチヤホヤされて、さぞ心地よかっただろうね。でも、結局家柄だけの奴なんだよ。みーーんな君の家にしか興味ない。だからお前自体は何の価値も無いわけ。そんな奴がイキってるんじゃねーの!」
「貴様!」
「後そこの糞屑女と取り巻きの奴ら。お前らも同類の屑だよ。人を見下して楽しかったか?でも、俺と同類の屑何だよ!いや、クズに屑って言われている以上、ゴミでしかないか。ヒャヒャヒャ」
愉快、愉快。茹でダコのように真っ赤になった顔を見るのは。
「黙れ、クズ」「お前だけには言われたくない」「ころすぞ」
何か言っているけど聞こえない聞こえない。
「おのれ、ボクを罵倒するとは・・・おい、最弱なクズレイド!!決闘だ!」
「OK」
「は?」
俺が即答すると素っ頓狂な声を出す。周りの奴らも唖然としている。
「い、今なんて言った・・・?」
「耳でもお悪いわけ?決闘を受けるって言ったの?」
「ま、また負けたいのか」
「何でお前が驚いているんだよ?お前から言ってきたんだろ。あ、まさか俺が拒否して、泣きついて謝ると思った?残念でしたね」
考えが安直過ぎる。俺はどうせ決闘を申し込まれると思っていたから即答だったよ。
え?負けるって?俺は勝つ戦いしかしない主義なんで。
「に、逃げるんじゃないぞ!」
「逃げるも何も・・・今からやるんだろ?」
「はあ?な、何でだよ?」
「いや、今からやりたいし。今片付ければ後は楽しい夏休みが待ってるじゃん」
「ボクが貴様の言うことを聞けと言うのか!」
「プッ、まさか公爵令息様ともあろう方が最弱な私めにビビっているんですか?」
首を傾げながら言う。
ショリーが周りを見ると、期待した目線が来る。もう一回倒してください!、と。
「い、いいだろう。今から闘技場に行ってやろうじゃないか」
「ええ、ぜひ」
ガキが、単純過ぎる。少し煽れば引き受けると思ったよ。
ショリーは取り巻きを引き連れて足早に闘技場へと向かう。その後に見ていた奴らも続く。
俺もそれに続いたので、サエスも立ち上がり付いて来る。
「ご、ごめん・・・僕のせいでレイドくんが」
「心配するな!俺は仲間のために行動した、悔いは無い」
俺が言うと申し訳無さそうにモジモジする。
「大丈夫。それに、あいつには痛い目見てもらわないと」
「レイドくん、もの凄くゲスな顔しているよ?」
若干引くサエス。
え?最弱でゲスでクズなのか。
「まあ、俺が負けると皆思っているけど心配するな」
「けど―」
「サエス。戦いは、魔法の威力が強くて剣術ができるだけで勝てるわけでは無いんだよ」
「え!」
そう、あいつには弱点がある。決定的な。
◇◇◇
「レーくん!また絡まれたの!」
闘技場の控室で待機していると、事情を聞きつけたイーリスが食い気味に聞いてくる。
「ま、待て。そういう―」
「今度こそやっつけてやるわ!私が一発でやってあげるから!」
「そ、それだけはやるな!後一旦落ち着け」
本気でイーリスが打ったら・・・軽いけがだけでは済まない。
「イーリス、俺から吹っ掛けた戦いだ。俺が出る」
「でも、前みたいに―」
「今回は俺からだ。あいつには流石に我慢の限界だし、もうどうにでも成れだ。」
「でも〜」
俺はイーリスの目を見て言う。
「心配するな。俺は勝てる戦いしかしない。しかもこれは俺の問題。決着も俺が付けるから大丈夫」
「本当に大丈夫?」
「ああ、心配無い」
「・・・そうだね。うん、レーくんを信じるよ!」
にっこり純粋な目をして言ってくる。
クズな俺にその目は眩しすぎる。
逃げるように控室から出ようとした時、イーリスが言う。
「いつものレーくんだね!」
「ああ」
最弱でクズなレイドさ。
「おお、出てきたぞ!!」「行けぇーーー!!!」「ショリー様、やっちゃえ!!!」「ころせ!!!」
俺が会場に入ると罵声が飛び交う。応じるかのように手を振ると、奇怪な者を見るような目を向けてくる。
「貴様は本当に嫌われているな」
戦闘着に着替えたショリーが前から歩いてくる。
「おかげさまで、大変な嫌われようだよ。可哀想なショリー様」
皮肉を一つ飛ばすだけで顔を赤くする。
「前回と同じ様にやられたいのか!」
「そうだ、そうだ!」「痛い目見せてやってください!」「一瞬で!」
呼応するかのように会場の人々は言う。
「それを言っちゃいます。ククク」
「な、何が可笑しい!?前回気絶したやつがほざけ!」
「いや、だってあれただの茶番じゃん。脚本があったじゃん」
シーーーン・・・―
大きな声で言うと沈黙が起きる。時間が経つと、少しずつざわめきが起きる。
「ど、どういうことだ!」「あれは筋書き通りだと!」「まさかショリー様が!」
「そんなはず無い!騙されるな!悪の言葉に耳を―」
「ヴァッカじゃねえの。何が騙されるな、だ。会場中を騙しておいてよく言うよ。普通に考えて俺がお前に戦いを挑むこと自体おかしすぎる。しかも、周りの取り巻きたちも聞いていただろ!」
俺はそいつらの方へと視線を向ける。会場中の視線も集まる。だが、誰一人として反論せず、気まずそうに下を向くのだった。
「ふ、ふざけるな、う、嘘を言うんじゃない!」
「嘘も何もね〜事実だし」
てか、前回の話を持ってくる辺り馬鹿としか言いようがない。俺が茶番と暴露するのが分からないのかな。
「お、おのれ!ボクを馬鹿にしやがって!許せん!」
戦いの合図が出ていないにも関わらず剣を抜いて向かってきた。
「雑魚は死ねぇぇぇ!!!」
一瞬で俺との間は埋まり、俺は今だに剣を抜いておらず、その場に立っていた。そこへショリーは剣を振り下ろす。
キーーーンーーー・・・―
「見たか雑魚・・め・・・!」
会心の一撃なのかもしれないが、残念。俺はやられていないんですよ!
ショリーが振り下ろした剣を俺は生身の腕で防いでおり、唖然とした表情で皆が見る。
「ど、どうしてやられない!」
何が起こったか分からずショリーは叫びながら後退する。
もう一度仕掛け、再度剣を振り下ろすが今度も俺は剣を抜かず腕で受け止める。
「なぜ斬れない!何をしたお前は!」
「はぁ〜、この時代の奴らは何も知らないのか?」
「は?な、何を?」
「無魔法[身体強化]を知らないのか?」
「何かと思えばあの廃れた魔法のことか?それが何だって言うんだ!」
会場中、イーリスやサエスすらポカンとしている。そうか、誰も知らないのか。仕方がない。
俺は大声で説明する。
「なぜ身体強化が廃れたか?それは剣術の進歩により魔法を使わなくても[気]と呼ばれるものでそれ以上の強化ができるようになったからだ。さらに魔法の威力の進化で防ぎきれなくなってもいた」
「知ってるわ、馬鹿にするな!」
誰かが言う。
「皆さんが知っているように無魔法はどんどん廃れていって誰も使わなくなった。しかし、魔法の威力には勝てないが剣術ならある程度レベルの奴だったら防ぐことが可能なんだ」
「・・・・・・」
「例えば、相手が二十年も鍛えている人だったら俺は防げず腕は斬られるだろう。でも、たかが数年のガキの攻撃だ。練度を高めれば俺のレベルでも防げる」
しっかりと知識を積んでないな。廃れたからと言って弱い訳では無い。ただ活躍の場が剣術の進歩により無くなっただけなのだ。
それを知らないようじゃ・・・まだまだだ。
弱い攻撃と言われたショリーは恥ずかしさと怒りで顔が赤くなる。
「ふざけるな!俺が弱いだと!俺は将来の勇者様だぞ!!!
前回と同じ魔法を俺に向けて放つ。
「はぁ〜芸が無い。
俺は自分に強化を付与する。それと同時に地面を蹴って横に飛び、転がる。
先程とは比べ物にならないほど速く。大きな水の渦となって飛んでくる魔法。
ドガーーーンンン!!!
だが、魔法はレイドに当たること無く壁に当たる。レイドは平然とした顔をして立ち上がる
「運のいい奴め!
魔法で作られた氷が集まりいくつもの細長い結晶となる。その結晶同士も集まり、大きな氷の槍となる。殺傷能力が高く、当たればひとたまりもない魔法。
それがレイドへと向かって飛んでいく。
が、飄々とそれを避ける。掠りすらせずどんどんショリーへと近づいていく。
「糞っ!
先程と同じ氷の結晶ができるが、水を纏い不規則により速く動く。無数の氷の槍はレイドの四方から飛んでいく。しかし、あらゆる場所から来てもそれを見切りしっかりと避けていく。
どんどんと近づき、遂にレイドが前へと走り出した。
「なぜ当たらん!もう一度!三大水―」
「うるさい」
「グへッ!」
俺は詠唱を遮り思いっきり顔面を殴った。準備をしていなかったショリーは後ろに吹っ飛び、倒れる。会場はざわめきが起きた。
「おいおい、未来の勇者様がこの程度ですか〜?この国の将来が心配でならない」
「なぜ、避けれる!」
「え?まだ理解してないの?だ、か、ら、身体強化をしただけだって。俺くらいのレベルだったらお前の攻撃は簡単に避けきれるよ」
「な!」
そんな驚くことか?身体強化魔法は詠唱者の体を強化するもの。
今の場合だと俺は身体能力を上げてスピードが速くなったからこそ避けれた。
「ボクが最弱なお前に負けるはずないんだぁぁ!!!」
叫びながら立ち上がり、剣を抜いて斬り掛かってくる。それを俺は避け、ついでに足を掛ける。ショリーは勢いがありすぎて止まれず、無様に転んで頭を地面に打つ。
「いだだだぁぁぁ!!!」
「プッ、ハハハハハハ!」
のた打ち回るその姿を見て、大声で笑う。
ショリーの叫びと俺の笑い声だけが会場に響く。
「おのれ!最弱のくせに!」
笑われるのがそんなに嫌だったのか?また最弱って言ってるし。
あ!そうだ、こいつにいい言葉を教えてあげよう。
「お前、窮鼠猫を噛むっていう言葉を知っているか?」
「急に何だ!知らんわ!」
ですよね、日本のことわざを知っているわけ無いよな。
「無知なお前に教えてやろう。窮鼠猫を噛むの意味は、弱いと侮っていたやつに思わぬ反撃を食らうことだ。つまり今の状況のことを言うんだ。最弱な俺に負ける・・・いい笑い話ができたじゃないか!ククク」
顔を赤面にして俺を睨んでくる。
「ふざけるな!お前には負けない!卑怯な手には騙されない!」
「卑怯、か。これだからガキは困る。俺は正々堂々とやっているのに自分が不利になると相手の不正を捏ち上げる。まさに悪役がお似合いだぜ!ククク」
「卑怯者!」「悪魔!」「クズ!」「ゲス!」
何か悪口が聞こえるが気にしない。俺は正しいことしかしてないもんね!これまでやられたことを倍、いや百倍で返してあげる!
なんて優しいんだろう、俺!
俺がニヤついていると周囲が奇異な目線を向けてくる。イーリスたちも若干引いている。
俺は無害な普通な人だぞ、そんな目で見ないで欲しい!怒っちゃうぞ、プリプリ!
心のなかで茶番をしていると、いつの間にかショリーが立ち上がっていた。
「ふざけてるんじゃねえ!ぶっ殺してやる!」
「あらら〜、お怒りのようですね。でも、それはこっちも同じ気持ちだし・・・お前が言える立場では無いと思うけど?」
「黙れ!」
「ショリー様行け!」「そいつを殺せ!」「雑魚は消えろ!」
俺への罵倒が殺到する。
「皆の気持ちを受け取った!勇者の末裔であるボクが、今からこいつを倒す!」
そう言って走り出した。
何か聞いたことあるセリフだな〜・・・!あ、俺が魔王討伐戦で言ったと言われているセリフだっけ?凄く美化されているな。
まあ、こんなことを考える時間があるほどショリーの攻撃は遅い。
「水流五の基形、氷冷切り!」
ショリーの剣に氷が纏い、白く変化していく。鋭利な剣を構えて俺へと向かってくる。それに合わせて俺も剣に付与をかける。
「神撃」
剣の強度は増し、難なく氷の剣を受け止める。競り押そうとするショリーの力を逆手に取り、敢えて力を抜き前のめりにさせる。剣の柄を持つ力が弱まったのを見て、下から上へと跳ね上げる。
今度は後ろ向きになって体制を崩したショリーに追い打ちをかける。
「反転魔法、
瞬時に相手の剣に触れて唱えると、剣は粉々に砕けた。俺が魔王にやられたやつを演ってあげた。
「な、何だと!」
「残念でしたね!」
剣が砕けたという現実を受け入れられないショリーに、俺は拳に力を入れて腹めがけてアッパーを入れる。
「グハッ!」
「まだまだ!」
手に強化魔法を付与して、への字に曲がり腹を抑えるショリーの顔面に綺麗なストレートを御見舞する。
「俺とお前との差は、経験値の差だ」
「グハッッッ!!!」
ショリーは綺麗に後ろに数メートル吹っ飛ぶ。頭から地面に落ち、痙攣する。もう決着はついた。
その一部始終を固唾を飲んで見守っていた観客たちだが、決着がついた瞬間誰も声を発することができなかった。
俺が最弱だから負ける?経験も実力のうちだ。七十はこいつらより長く生きているからな。
あ!今まで散々馬鹿にされてきたんだ、ちゃんと言ってあげないと。
俺はゆっくりと倒れているショリーの元へと行く。既に意識は取り戻しているようで何かをぶつぶつ言っているが、無視して満面の笑みで言う。
「対戦ありがとうございました!」
後は、今まで受けてきた仕打ちを思い出して言わないと。
「ざまぁぁぁ!」
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