6.いじめpt2

「おいクズ、さっさと運べ」

「はい」


俺の尻を蹴って品無く怒鳴るショリー。


その光景を面白がって周りの奴らは見てくる。大義名分とばかりに俺を蹴ってくる。ショリーはそれを許す。


俺は俯きながら耐える。


恨み?そんなのあるに決まっているが面と向かって言うのはめんどくさい。だから心のなかで言う。


堕天使死ね、堕天使死ね、堕天使死ね・・・


あいつが全ての元凶だ。あいつだけは絶対許さん。

こいつら?言うだけ時間の無駄だ。


いや、そう言って逃げてるだけかもな。昔と全然変わっていない、俺。



◇◇◇



「レイド、本当に大丈夫なの?」


ある日の休日。

いつものように訓練していたイーリスが唐突に言ってきた。


「何が?」

「だから、ショリー様の件だよ。あのままでいいの?」

「イーリスには関係ないことだ」

「でも―」

「俺さえ耐えればいいんだ。それよりイーリスは強くなって欲しい。そうすれば俺の夢に近づく」


無理に俺は笑う。


イーリスを巻き込んでは駄目だ。何が何でも退学にはさせたくない。


イーリスが水魔法を的へと放つ。

きれいな水流が的を消し飛ばす。


俺にもこんな力があればな・・・って願っても仕方がないか。


それよりイーリスの訓練内容を変えよう。そろそろ―


「イーリス、そろそろ剣の訓練でもしよう」

「え!」


イーリスは涙目になって訴えかける。


「お願いだから剣だけはやりたくない、魔法がやりたい!」

「駄目だ、勇者にはどっちも必要だ」

「嫌だ、魔法で強くなる!」

「マネージャーとして魔法ばかりでは駄目だ」

「鬼畜!悪魔!」


酷い言われようだが、昔俺も同じことを源流の師匠に言ったな。


「・・・分かった。そんなに魔法が好きなら、剣術やった後少しだけ魔法をやってもいい」

「本当に!やったー!」


手を上げてはしゃぐイーリス。


純粋・・って言うより単純だな。

マネージャーとしては大変だな。でも、人を育成するのは、これはこれで悪くないな。


日は傾いてきており、楽しい一時が終わり地獄の日々が始まるのだった。



◇◇◇



「おいクズ、紅茶を早くもってこい!」


怒鳴られるのにも慣れた俺は、急いで作った紅茶を持っていく。


 グル〜ギュル〜


今は午後三時だが、昼は何も食べていない俺の腹が鳴った。


「何いっちょ前に腹空かせているんだ!」


俺の腹を思いっきり殴る。


俺は後ろに飛び、腹を押さえてうずくまる。運んでいた紅茶のカップやお菓子が地面に落ちる。それを俺は急いで片付けてすぐに新しいものを用意する。


「ったく、ボクの優雅なティータイムの邪魔をしないでくれ」


何が優雅だ!言葉遣いも悪いし、マナーもなっていない!

適当に紅茶を啜って菓子を食べるショリーとその取り巻きを見て思う。


「いや〜ショリー様は優雅です!」

「そうですそうです!かっこいいです!そこのクズとは大違いです」


女子たちも一生懸命褒める。その光景は傍から見ればただの猿芝居だ。感情も込もっていない称賛に満足そうにうなずくショリー。


「ええ、美しい髪!どうやって手入れされているんですか」

「ああ、これはな―」


また始まった。こいつの髪の毛自慢。

自分の美しい髪に酔いしれており、褒められるとすぐ語りだす。取り巻きたちもまたかと思いながら真剣そうに聞く。


こいつらはこいつらで、公爵家と繋がりたいからなんとしても取り入ろうとしている。ご機嫌取りも大変なものだ。


それにしてもショリーは馬鹿なのか?同じ話を何回もして、よく飽きもせず自慢げに話せるものだ。

一応魔術も剣術もそれなりに上位にいるが、学力は無いのか?


「―というわけだ。どうだ、為になったか?」

「ええ、とても素晴らしいですわ!ねえ?」

「ええ、そうですわ」


皆がショリ―を褒めちぎる。


「そろそろ帰るとするか。おいクズ。ボクは今日掃除当番だが・・やることが多くてね。代わりにやっておけ」

「わかりました」


いつものやつだ。俺は同意することしかできない。


「じゃあ、私たちの分もやっておいてくださいね!」


他の奴らも俺に押し付けてくる。仕方なく、全部引き受けることにした。



放課後。

俺は一人で誰もいないSクラスや取り巻きの奴らのクラス掃除していた。

そろそろ掃除が終わりそうになる頃、廊下から複数人が歩いてきた。


「―でしてね。ショリー様が成敗しましたの!」

「あんなクズは貴族の風上にも置けないですわ。ねえ、ヴェリーナ様・・・」


どうやら俺の話をしていた女子たちが俺を見て急に立ち止まる。


「あら、噂をすれば最弱でクズなレイドではないですか」


一人の女子がそう言ったが、俺は聞く耳を持たず、グループのリーダーを見て驚いた。


「ヴェリーナ様を見るとは不敬な!このクズ!」」


視線に気づかれ、俺は取り巻きの女子に頭を小突かれた。


【ヴェリーナ・ルーラ・アルレンス】

五公の筆頭家アルレンス家の次女でルーレンス皇子の許嫁。美しい顔立ちにキリッとした目、金髪で縦ロールの髪型。お嬢様というより前世で思い描いていた悪役令嬢の様な風貌だ。

ヴェリーナは才女としても有名で学園では皇子の次ぐらいに権力がある。


「何黙っているの!」


そう言って俺に何度も罵声を浴びせるのは【クリーミ・ルーラ・マフタス】

ショリーの許嫁である伯爵家の娘。以上。


クリーミに俺が罵倒されている中、ヴェリーナはただただ俺を見下ろすだけ。しばらくすると、興味を失ったのか歩き出した。それに気が付き取り巻きたちも彼女を追う。


一難去ったが・・・さすが悪役令嬢様だ。

俺を見下し人間として見ていない冷酷そうな目。

そう思いながら俺は掃除を終わらせ帰路についた。



◇◇◇



夏が近づいているある日、学園の一角にて。


豪華な装飾を施され、高い家具の使われた広い部屋に三人の学生がいた。

メガネを掛けた生徒を品のある美しい男子二人が見つめていた。


「ショリーよ、最近あのレイド子爵令息を奴隷の様に扱ってるらしいな」


急にルーレンス皇子から呼び出され戸惑っていたが、レイドの話題だと分かり、満面の笑みで答える。


「あの最弱のクズレイドですか。でしたら心配ありません。私がしっかりと躾けております。少しは学園の役に立つようしっかり教育してきました。」


自信満々に言うショリーを見て呆れる皇子。


「そうではない。なぜあの様な仕打ちをやるんだと聞いているんだ」

「そ、それはですね。あの様な貴族の風上にも置けない奴を少しは人の役に立つようにとやっております。いわば慈悲ですよ。殿下はまさか肩入れなさるのですか?」

「不敬だぞ、ショリー殿」


皇子の隣りに座っていた生徒がショリーを咎める。

生徒の名は【ライナル・ルーロ・フィーナ】

五公のフィーナ公爵家の次男だ。容姿端麗で剣術の使い手、皇子の幼馴染だ。


「何か不敬がありましたか?私はただ公爵家として貴族のあり方を教えているだけです」

「殿下が言いたいのは相手が子爵家と言うことだ。やりすぎるのは―」

「別に騒ぐ訳では無いでしょ。あ、口止めしておけばよろしいのですね。わかりました」


そう言ってショリーは立ち上がり、礼を言ってそそくさとその場を後にした。


残された二人だが我慢できず皇子が近くにあった剣を抜いてソファーを切る。


「何だあの態度は!我は皇子だぞ!不敬だ!」


怒鳴り散らしながらソファーをどんどん切り刻む。その姿を横目に手鏡を持って自分の姿を見つめるライナルが言う。


「本当に公爵家の一員として恥でしか無い。ワタシの様にエレガントでは無くてはならない!」


自分の姿を見て見惚れるライナル。


そう、この二人の裏の顔である。

普段、威厳ある皇子は気性が激しく、冷静沈着そうなライナルはナルシスト。


そんな裏の顔を持つ二人をドアの隙間から眺めている人がいたのだった。



◇◇◇



「ふざけるな!何が不敬だ!あのナルシストめ!」


あの部屋を後にしてからショリーは怒りを抑えきれなかった。


「何が殿下に、だ。それは殿下が決めること。ライナルが言うことではないではないか!殿下は何であんな奴を側に置く!」


恨めしそうにつぶやく。


皇子の側近。それはどんな貴族も憧れる大変名誉で出世への近道だった。


ショリーもその内の一人だが筆頭ではなかったため、筆頭側近であるライナルに嫉妬していた。


「糞っ!ボクの力を見せつけてボクの方がふさわしいことを証明してやる!」


自慢の髪を指でいじりながら足早にレイドの元へと進むのだった。



「おい、レイド!」


下校中、突然ショリーに後ろから呼ばれた。

思わずため息をつきたくなったが堪える。


「何でしょう―」


振り向こうとした瞬間、目の前に拳が現れ殴られた。顔に思いっきり。


「グハッ」


思わず声が漏れ出る。


「ふう、スッキリした。おい、レイド。遂にお前がボクの役に立つ時が来た。ボクに決闘を申し込め」

「・・・は?」


いきなり殴ったかと思えば決闘しろだと?唐突が唐突過ぎる。

しかも遂に役に立つって、どれほどお前に奉仕させられてきたことか。


「ボクの強さを全学年に知らしめるんだ!そうすれば認められる!」


最後の方の意味は分からなかった。が、つまり、俺みたいな雑魚を倒して目立ちたいと。


ふざけるな!・・・だが、我慢するしかない。


「・・・わかりました」

「わかったらさっさと申し込んでおけ。少しぐらいは足掻けよな!」

「・・・は、はい」


何も言い返さず俺は従った。


十日後。レイドとショリーの決闘が行われた。



◇◇◇



帝都の王城の地下で、六つの剣が話をしていた。


『本当に転生したのか、セカンド!』

『ああ、今年帝都の学園に入学したぜ』

『確かに転生を確認したが・・・あの魔力は何だ?です。フォース』

「聞かれてもわかるわけ無いだろ!こっちだって戸惑っているんだ!』

『そうだぞ〜、フィフス〜。全員が戸惑っている〜。お前もだろファースト〜』


『・・・・・・・』


『相変わらずだんまりか、です』

『いや、そもそもこいつはあの方のことが嫌いなのですわ』

『そうだったな!たしかあの小僧がお気に入りだったか!』

『まあ、こちらとしたら憎い存在だったぜ』


『・・・・・・!』


『おっと、あの小僧のことを悪く言って怒っているみたいだぜ』

『そうだな!この話題はやめよう!』

『ああ〜。そういやセカンド〜、セブンスの音沙汰はあったか〜?』

『シックス、ここにいる以上分かるわけ無いだろ』

『それもそうだな〜』


『・・・・・・!!』


『おっと〜、この話題も禁句のようだった〜』

『まあ、対立していたからな、ですわ』

『シックス、サード、あまり煽るな、です。後ファースト、いい加減喋ったらどうなんだ、です』


『・・・あいつは、あの勇者は嫌いだ』


『おいおい!我らが主君だぞ!』


『ほとんど使わなかったではないか!』


『なに、当たり前のことを言っているんだ?ですわ。平和になったから生まれた。それが我ら[聖剣]ですわ』

『この先の危機から守るためだぜ。お前が200年前に成し遂げた時と同じ様にだぜ』

『そして今回は特に大事なんだ〜。だから―』


『うるさい!』


『年長者が一番の子供です』

『そう言うな〜。ファーストにも考えがあるのだから〜』

『それより、誰が選んでくれるのだろうか?ですわ』

『可愛い子がいいな〜』

『強いやつの方がいいに決まってるぜ』

『お前ら!まだ三年間あるんだぞ!』


聖剣

帝国が強国である理由の一つが六つの聖剣に守られているから。

この剣たちに選ばれることで英雄と認められる。


元々はレイド―勇者四谷大河が魔王討伐のときに使われた聖剣、フレイス・ライトが魔王によって粉々になった時、七つになり、それがそれぞれ剣となり聖剣と呼ばれるようになった。


その内、セブン―七つ目はどこかへ消えてしまったが、今でも残り六つは帝国を見守っていた。

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