4.最弱でクズなレイド
この国での一年の始まりは四月、つまり春からとされている。
これは俺が転移する前の時代からそうだった。
しかし俺のわがままで、四月からは新年度という日本の年度方式を暦にも導入した。そのため、暦上では四月から年が改まるが、新年祝は一月にやる、という不思議な文化が定着した。
あ!ちなみにもっとややこしいことを教えると、季節は三月〜五月が春、六月〜八月が夏、九月〜十一月が秋、十二月と十三月の魔を挟んで一月〜二月が冬となっている。
未来の人たち!ややこしくてなんかごめん!!(テヘペロッ)
ところで、俺ら428年生まれは特別な意味を持つ。
俺が死んでから100年後の予言でこの年に勇者が生まれ変わると言われたらしい。
ホントかよ?って思ったけど俺が生まれているからまじで当たっているわ。
すげ〜。
さらに予言では、その勇者の生まれ変わりが十八歳を迎えたときに、大きな災厄と魔王復活が起きるらしい。
そのためにこの学園では俺らの中から勇者を育て、育成するのだ。
と言っても勇者が誰なのかもわかっていない。
そこで学園では、この学年だけ、十八の年までに一番実力のあった者を勇者にする成り上がり制を採用した。学校生活の主に魔法レベルや剣術の腕前などを点数化して競い合わせ、高等部までに勇者候補を五人選別し、その中から勇者を選んで認定する制度だ。
一見、適当だと思われがちだが意外と理に叶っている。
強さはやはり勇者として必須なら要素だし、仲間と競い合い、高め合うことでより強くなれる。俺としては、そういう実力主義は賛成だ。
え?俺の参加は、だって?
無理無理。
俺なんかレベルも強さも最下位で到底上には行けないし、努力もしようと思わない。
そこで俺が考えた作戦が勇者育成計画だ。
勇者を育成、って言うよりサポートすることで勇者の師匠的なポジションになり、あわよなくば、国から大額の金が入ることを望んでいる。
そして、金を貰ったら後半人生はどこかでのんびりと過ごしたい!
そのために育てるべき人物探しが肝心なのだが、それについてはもう決まっている。
それが幼馴染のイーリス。
彼女は魔法の素質がものすごくあり、入試でも魔法は学年三位の成績である。
才能あるイーリスを育てれば間違いなく勇者になる!
一応本人には、君を勇者にするために俺が全力でサポートすると伝えた。勇者に憧れるイーリスはもちろん、YESと言ってくれた。つまりは、ちゃんと本人の承諾も得ているから!
俺にできることは勇者養成用の特別訓練メニューを彼女のために組んだり、良からぬ輩から守ったり・・・。アイドルのマネージャーみたいなことをする予定だ。
無双を夢見ていたときは目立ちたがっていたが今はそうは思わなくなった。適度な学校ライフを望むまでだ。
・・・そんなの俺にはもう無理だと思うが。
入学式が終わり自分たちのクラスにそれぞれ入室した俺たち。
俺のクラスはK組。イーリスと同じクラスだ。ラッキー!
一クラス約五十人の十二クラス。一学年600名いるが、校舎はものすごく広く全生徒2500名が広々と使えるようになっている。
入室をして各々が和気あいあいと友達を作っている中、俺は一人席に寂しく座っていた。
ガラガラガラ―
「は〜い、席についてください!」
扉を開けながらそう言って教室に入ってきたのは、茶髪でメガネを掛けた、ほっそりとした男性。
全員が席についたことを確認して教壇に立って話し始める。
「このK組を担当することになった【バーラン・ルーロ・デストフ】だ。よろしく!」
爽やかな笑顔を向けるバーラン先生。
この人が担任なのか。いい人そうで良かったよ。
「僕のことはこれから知ってくれればいいよ。じゃあ、簡単にみんな自己紹介しようか!これから三年間同じになるのだから。じゃあ、君から!」
そう言って前の席にいる生徒を指差す。
指された生徒は一瞬びっくりするが、すぐに立ち上がり自己紹介を簡単に始める。
ちなみに席順は適当で、俺は窓側の後ろの方の席。イーリスは俺の前に座っている。
「次はイーリスさん」
「え、はい!え〜っと名前はイーリスと言います。え〜っと勇者を目指しています!よろしくお願いします!」
ペコリと可愛くお辞儀をするイーリスの胸元をニヤニヤした目で見る男子たち。
くそ、大切な勇者候補をエロい目で見るとは。
健全なお付き合いはマネージャーである俺も許すが、しっかりと見極めてからだ。
だからお前らみたいな奴らにイーリスは渡さん!
完全に親目線で独言を呟くレイドに自己紹介の番がやってきた。
「じゃあ次は、レイド君!」
「・・・はい」
全員の目線が俺に集まる。
嘲笑、人を見下す目。
うざいが仕方がないことだと割り切るしか無い。
「レイドと言います。え〜っとあだ名は[最弱]です。よろしくお願いします」
自虐ネタを披露すると何人かがクスクスと笑う。
最初の自己紹介は成功・・したのかな?学校生活では重要なものだ。
「レイド君。あまり自分のことを卑下しないこと」
先生に言われて適当に返事をする。
言ってくれるのは嬉しいが事実は変わらない。
色々とこれからの学園生活を考えている内にホームルームが終わった。
今日は一時間で学校は終り、下校となった。
俺は支度を済ませ、下駄箱へと向かう。
「待って〜レーくん!一緒に帰ろうよ!」
走ってくるイーリスを一瞥し、靴を履きながら言う。
「子供みたいだな、お前。仲良くなった子と帰らないのか?」
「子供じゃないし!あの子は他のクラスの友達と帰るみたいだし」
「・・・そうか」
普通入学初日にできた友人よりも友達と帰るのか。
「んじゃ、帰る―」
「イーリスちゃ〜ん。俺たちと帰ろうぜ〜」
気持ち悪いぐらいの甘ったるい声が俺の言葉と被り、思わず声のした方を振り返る。
そこにはクラスが一緒で平民のガタイのデカい奴がいた。名前は・・・忘れた。
周りに数人引き連れており、見るからに柄の悪い連中だ。
「そこの雑魚な奴隷より、俺たちと遊ぼうぜ」
蔑む目を俺にまるで向けていないかのように話を進める。
いや、俺はイーリスの奴隷と思われているのか!?
「すごく面白いところがあるから。貴族様でも行ったことがない、すんげえ場所に連れて行ってあげるぜ」
見た目とは裏腹に言葉はまだまだ幼稚だ。こんな奴の相手をするのは時間の無駄だ。
「イーリス行くぞ」
俺はイーリスの手を取って足早に歩こうとする。が、そいつに俺は肩を掴まれた。
「おい、最弱さんよ、邪魔すんじゃねえぞ!」
振り向いた瞬間、俺は腹にアッパーを決められる。
「グフウッ!」
思わず声が漏れる。
「だ、大丈夫!」
痛っーてえな!入学初日早々に殴られるとは、記憶に残る俺の学校ライフのスタートだぜ。
思わずニヤつくと煽られたと思ったのか、奴らは大声で言う。
「何ニヤニヤしてんだよ!お前みたいな奴隷に用はねえんだよ!」
ウヒョー、言ってくれるじゃないか。だが、未来の勇者様には手出しはさせない。
「あのさ、人を馬鹿にするのはやめたほうがいいぞ」
「だまれ!」
今度は顔面を殴ってきた。俺は避けることができず、もろに食らう。
「だ、大丈夫、レーくん!」
「イーリスちゃ〜ん、君の奴隷なのか知らないけどさ。そんな雑魚放っておいて俺らと行こうぜ!」
「い、嫌です!しかもレーくんは―」
「まあ、まあ。イーリス。俺のことは心配するな」
俺はゆっくりと立ち上がり、鼻血が垂れていることに気づいて手で拭った。
こいつらは少し痛い目を見た方がいい。
「何強がっているんだ!」
「そういきり立つな、雑魚」
「な、何!」
胸ぐらを掴もうとする相手から少し距離を取り、言う。
「何だったら一対一で戦ってもいいぜ!お前なんてすぐに倒せるから!」
そいつらは殴りかかろうとするが、レイドは飄々とそれを避ける。
「明日は学校が無いから丁度いい!学校裏手の空き地に正午に来い!逃げないことを期待してるよ!それじゃあ、諸君」
俺は言いたいことだけ言ってイリースの手を取って校門へと走っていく。
ポカンと俺の話を聞いていたあいつらが我に還ったときには、追いつけない位置まで走っていた。
「明日、大丈夫?」
心配そうに俺を見つめるイーリスに笑顔で答える。
「俺が負けるはず無いよ」
◇◇◇
次の日、俺とイーリスは時間通りに空き地へと向かった。
そこで待ち受けていたのは六人の少年たち。
「逃げずに来るとはいい度胸だ」
ニヤニヤしながら俺のことを見る。
「いや、お前らなら簡単に倒せそうだからな」
嘲笑して言う。
「なっ!お前、死にたいようだな」
「いや〜まったく、サラサラないんですけど」
正直こんな雑魚たちを相手にしてもメリットはない。ただただ時間を食うだけだ。ただ、もう少し時間稼ぎしなくては。
「そう言えば、お前ら名前なんて言うんだ?イーリス、わかるか?」
「初対面だから知らない」
あっさりとそう言われて明らかに動揺するクラスが一緒の奴。
まじでこいつの名前なんだっけ?
「自己紹介したよな?【グドルド】だぜ」
「クラスが一緒なのは知っています!でも、私、人の名前覚えるの苦手で・・・」
「プッ、ハハハッ!」
覚えて貰えなくて赤面するグドルドの顔を見て思わず笑ってしまう。
「クラスメートにナンパして、でも名前覚えられていないって、プッ、なんかのギャグか!」
しかも覚えてもらえないだけで赤面とは。ガキじゃあるまいし・・・そうか!中学生はガキだった。
「お、お前!!!」
怒りながらゴリラのように襲いかかってくる。
殴ろうとしてくるが俺はノーガードで受ける。
強烈なストレートが俺の顔面に当たる。
こいつ威力半端ないって!でも・・・これでいい。
「ぎゃあああ痛い痛い〜!」
わざとらしく大声で叫び、大げさにのたうち回る。
「レ、レーくん!」
「へ、雑魚が。これぐらいで叫ぶとは弱すぎるな」
イーリスは心配してくれているが、グドルドは俺を見下し吐き捨てる。
「これで懲りた―」
「助けてーーーー!!!!!」
グドルドの言葉を遮り俺は喉がはち切れんばかりに大声で叫ぶ。
「き、急に何なんだよ!」
俺の大声に思わずビビるグドルドとその仲間たち。
俺の気が狂ったかって?いいや、これは作戦の内だ。なぜなら―
「大丈夫ですか、坊ちゃま―ってどうされたんですか!」
俺の悲鳴を聞いて駆けつけて来たのは、俺ん家の護衛騎士たち十人ほど。
何でいるのかって?それはもちろん予め呼んでいたという訳。
『ちょっと正午過ぎに学校近くの空き地に来てくれない?』
ぴったり来た!しかもまるで俺がやられている風に見える。
「こ、これはどういうことですか!あなた達がやったんですか!」
護衛騎士筆頭の【シモン】がグドルドたちを睨みつける。
フフフ、作戦成功だ!
「だ、誰なんだお前らは!イーリスちゃんの護衛騎士か!だったらそいつを殴っても問題―」
「あなた平民ですよね!だとしたらこの方をどなただと心得ているんです!レイド様はインフィルス子爵家のご子息ですよ。あなたが殴っていい人ではない」
「は、え、こいつが・・・子爵、家?」
そんなに驚くことか?ねえそうだろシモン。
シモンの方を見るが、目を逸らしやがった。
え、俺って子爵家の人間にそんなに見えないのか?凹むわ。
「あなた達は貴族の方に手を出したのです。とりあえず警備所(警察署のような所)まで同行してもらいます。処罰はそれからで」
「え、ちょっと待ってくれよ!そいつから先に手を―」
「はいは〜い。言い訳は警備所で言ってくださいね〜。君らは貴族様の俺に手を出したわけ。シモン、こいつら連れて行って」
「ま、待って、やめてくれ!」
悲鳴を上げながら連行されていくグドルドを見て、嘲笑う。
クククッ、作戦成功だ!わざと殴らせてこちらが被害者面すれば・・・完璧すぎる!
この時代は平民も議員になれたり貴族と同じ学校に行けたりできるが、それでも貴族は優遇されており、平民が貴族への暴行をすると犯罪として扱われる。
もちろん貴族も暴行しすぎると捕まるが、ある程度は何も言われない。
俺はこの法律を使ってあいつに勝つんだ。そう、法律で勝つんだ。
元勇者なのに良心が傷まないのかって言われると、少し反省する部分もあるかもしれないが・・・俺、何か悪い事したかな?
え、だって俺はイーリスを、女性を変な輩から守ったんだよ。人を救ったんだよ。何か問題あるかな〜?正義の行いをしたんだよ、正当な権力を使って。
俺さあ〜弱いんだよ。弱者、最弱なの!だから権力使っても良くなくな〜い?
と言うが、一応やりすぎたとは反省しているし、子供相手に大人げなかった。だから、軽い罪になるように取り計らっておくよ。
「レーくん、少しやりすぎだよ」
ムッとするイーリスを見て、謝る。
「俺だってやりすぎたってわかってるし、お前を助けたかっただけだもん(未来の勇者なのだから)」
「・・ありがとう!」
口角を上げて元気に笑うイーリスに思わず目が奪われる。
「と、とりあえず懲らしめたから帰るか」
「うん!」
◇◇◇
ガラガラガラ―
教室のドアを開けて入ると、全員の視線が一斉に集まる。
その視線が何を意味しているか痛いほどわかる。
「あいつ弱いからって権力で脅したらしいぞ」
「まじ、最低なクズじゃん」
「噂では権力を使って女を侍らせているとか」
「いや、幼女らしいぜ」
君たちの話は全部聞こえてます。しかも、最後の噂はマジ嘘だから!
「え、レーくんそんなことをしてるの!?」
イーリスはドン引きする。
ほら〜マジに受け止めてるし・・・何でこうなった。いや、こうなることは予想できたな。
俺が貴族特権を使ってグドルドを逮捕させたことは次の日にはもう噂になっていた。俺が悪者であいつが被害者のように語られ、俺への風当たりが痛い。
両親も教師たちもイーリスを助けるためと言ったら理解してくれた。が、全校生徒の誤解を解くのは至難の業。訂正するのもめんどくさいので、無視するように席につく。
「まじで最低だ」
「貴族の風上にも置けないな」
あ〜もぉぉ!どうして人を助けただけでこうなる。まあ、やり方が汚かったのは認めるが。
よし、静かに学校生活を過ごそう!
そう心に誓った。
ただ、その日からあだ名が[最弱のクズレイド]と格上げ?格下げ?されることになった。
そして、その日からレイドへのいじめが始まった。
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