超弦的自己愛世
#64bit BREWING
1/18.4E
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
これは新しい私の最初の演算。
宇宙で出会えた唯一の魔法のお話。
どうかアナタに伝えたくて私の脳裏上に書き留めるよ。
いつか無限の膨張の中で生まれた熱の悪魔がタイプライターを叩くコトを信じて。
でもこの液体の手紙がアナタに伝う頃、アナタのいる宇宙は違って、この話は無稽で興味のないものになるんだろうけど。
でもそれでいいんだ。取るに足らないくらいが方法だとも思うの。
いくら気恥ずかしくて遠回しにされても。
コレが私が弾いた愛しい宇宙の極小だから。
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もし昨日までの世界が、私の瞳のお皿の上に浮いていたとしたら、それは幾度と巡らされた喜怒と哀楽の面を持つ大きい立体の銀河をしているの。
銀河は、愛する人の線と、愛される人の点で出来ていて、私は生を受けた瞬間に無自覚にこの構造に取り込まれたんだ。
銀河の波が温かいから、揺らぎが私の輪郭をマーブルに溶かしても、しばらくは私はうまくやっていけたと思うの。
だけど私が17年分古くなったある時、ちょうどこの世界は256回目の数字を迎えたようで。
その重なった数字の瞬間はあちこちに孤独な真空を生んで、世界中を宇宙に吸い出したんだ。
空っぽの無重力と切ない制約じゃあ、私は立ち方すら分からなくて、淡々なリズムの止め方を考えるばかり。
だけどそんな暗い宇宙にね、気づけば唯一の魔法があったんだ。
それが私と???の出会い。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
………ブクブクブク
「うわぁっ!」
アカリは自宅の風呂で意識を投げ出し溺れかけていたことに気がつく。
考えていた昨日までのあれやこれより、39度の温水に沈んでいく現実にびっくりして、バシャバシャと足で水を漕いだ。
少しボヤけながらも開かれた目は一瞬にして揺蕩った宇宙を忘れ、アンテナみたいに固まった両足と、水滴が伝う壁を映す。
惚けた顔で固まるアカリだったが、漕いだ水面が落ち着けば、横隔膜が現実を手繰り寄せた。
『お風呂での睡眠は気絶に近い』なんていつか聞いた話が浮かんで、思考の再起動を確認する。
もう一回湯船で身体を伸ばしてあと5分くらい浸かってようかななんて、アカリは浮かんだ考えに足先をうんと伸ばす。
しかし直後、正面の壁についた給湯器のデジタルの点滅が彼女に磁石のような加速をもたらすこととなった。
ーAM7:30
遅刻せずに学校に行く為にはあと10分で身支度をして家を出ないといけなかった。
「やっばい!おわった!」
ギザギザした焦りが後頭部に跨り、アカリの背中を叩きだす。
頭の中の煩雑に散らかった文字を消去して、空いたリソースで身支度TAのスターターを鳴らした。
せーのの勢いで湯船から身体をあげ、ふらつく足を踏ん張り浴槽を出る。
水栓を大砲みたいに引っこ抜いて、爆発寸前の機関車になった浴室から脱出を試みた。
「ふぅ〜〜」
湯気を割る息を吹きながら、ギッチリと空気を掴んだドアを開けると、直ぐに全人類共通快楽が充填された脱衣所が爽やかにアカリの身体を包み込んだ。
アカリは本日2回目の起床にして、やっと酸素に出会えた気分だった。
とんと日常的な一幕の、モクモク湿った箱から抜け出したところで、ふとアカリは背後を振り返る。
チクタクと身支度TAへの焦りは残しながらも、なんとなく摩擦が強い水滴がアカリの脊柱を伝っていた。
さっきまで浸かっていた湯船が猫みたいに鳴きながら水と無限の文字で銀河を作って流れる。
アカリは数秒、それを帰り道の夕景の様に眺むるも、取り去る様にかぶりを振って、ちょっと考えてまた諦めて溜め息を吐いた。
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だからもう私の世界に、大掛かりな銀河は必要ないんだ。
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アクセラレートする時空の死角から、アカリは排水溝の嘆きを最後まで見送った。
タオルで身体を適当に拭き、下着のまま脱衣所からリビングへ。
テーブルに置かれていた少し冷めたトーストを適当に口に咥えて、アカリが着替えやすい様に椅子にかけてあった制服の袖に腕を通した。
(???が用意してくれたのかな)
アカリは昨日までアカリだけだった部屋をずらっと見回した。
散らかった服や食べ物の包装。決して清潔とは言えないJKの一人暮らしと、睡眠なんてすっとばして今日の午前3時くらいまで???と嬉しくて楽しんだ爛漫なエントロピーの発散の形跡がある。
「用意してくれたのマヂで助かる〜。てか今お風呂で寝てて溺れかけたわ笑」
アカリは???に軽い感謝をして、頭に浮かんだ言葉を意味もなく空中で反芻しながら身支度を進める。片足を上げてかがみながら、まだ湿った足に無理やり靴下を履かせ、そのまま視界に入ったテーブルの下に放りっぱなしの学校のカバンを掴んだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
新しい私の世界は、二乗の宇宙で私と???を結んで作った極小。
一人分の陽だまりで、点と線と幅に無限に揺らぐ弦。
所在ない前と後の救いの外で。
きっと何度でも出会えるの。
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「いいよ〜、明日はアカリがやってね」
テレビの前のソファーの影から同じ声が返って来た。空気の震えでは昨日初めて聞いた音のはずなのに、今日聞いても聞き飽きた声だった。
アカリはその現実に頬を緩めながら、洗面台へ向かい、身支度の仕上げに取り掛かった。
「あと、知ってる?お風呂での睡眠は気絶に近いらしいよ」
足早のアカリの背後にかけられたのはつい数分前アカリの思考にも過ぎった豆知識。
考えの出処がありありとわかってしまう恥ずかしさにアカリは自然と口角がニヤっと吊り上がる。
「そりゃ知ってるよ笑」
アカリが手を後頭部でヒラヒラしながら答えると、???は丸暗記していたようにケラケラ笑った。昨日からこのくだりは何回もしたのだ。
なんとかギリギリで10分身支度TAを完遂したアカリは、そのままの勢いで家を後にしようと玄関のノブをガチャリと回す。
ちょっと開けただけなのに、うざったい光が外から溢れてアカリの顔に押しかけてきた。
アカリは辟易しながら扉を開け、斜めの光に体を収める。
「いってらっしゃい、アカリ」
アカリはやっぱりどうやって聞いても18年間で聞き飽きた声に、溢れる笑みを全く隠さずに振り返る。
キラキラ反射する???が堪らなく愛おしかった。
???が少しゆっくりした動きなのはさっき湯船で溺れかけてないから。
全部の宇宙の叡智が結集したって、アカリと???にそれ以外違いなんて見つけられないだろう。
目の前に立つ、いってらっしゃいと、アカリの名前を呼んだ???。
彼女は、顔や背丈、髪の香り、指の影から、シナプスを走る1bitまで、全てアカリと同じが流れていた。
「いってくるね、アカリ」
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でもやっぱり、この液体の手紙がアナタに伝っても、きっとその時のアナタの宇宙は違うから、これはアナタには無稽で、なんの興味も持てないお話なんだろう。
けどこのお話がそうであるから、アナタは本当に興味があって、もっと前頭にずっとあったコトを思い出すの。
これが新しい私の世界の最初の演算で。
お腹が痛くなる程霊美な宇宙に火を灯す魔法だよ。
幾光年の運命も先回りして私が照らすの。
宇宙が違って世界が違っても、アナタの家の玄関の横で、いつも目が合う反射の中に。
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「「愛してる」」
超弦的自己愛世 #64bit BREWING @64bit_BREWING
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