第10話 6つの町を巡る旅

 「やっぱりセンロクの世界にも寝る前には体を清めるって習慣があるんだね」

 「うん……まぁな」

 「いや~良かったよ。割とこういう文化の衝突でパートナーと喧嘩する拝借魔公はいしゃくまこうが多いんだよねぇ」

 「そうなんだなぁ」

 「……どうしたの?さっきからテンション低くない?」


 別にやましい気持ちがあった訳じゃないんだ。

 でもさ、やっぱ異世界に来て可愛い女の子と一緒に行動して、一緒の部屋に止まるってなったら、ラッキースケベとか期待してしまう悲しい男のサガを俺は背負っていた訳でー


 「いや、服着たまま身体を洗うってのは俺にとって中々新鮮な光景でな」

 「この世界じゃ今時水で洗うなんて時代遅れだからね。結界をちょこっといじくれば自分の体と服を同時に洗える、この世界で3番目ぐらいに自慢できる利点だよ」


 理屈は全然分かる。

 この世界に来てまだ一日だが生活の至る所に結界が使われていた事も把握できてたし、コービス達拝借魔公はいしゃくまこうにとってドレスのもたらす力がどれだけ大事な物かも分かってる。


 だから服着たまんま全部を洗える結界があるなんて事は十分に想像出来てたことなんだよなぁ。 

 ま、ドレスになった自分が洗濯機に放り込まれるなんて自体よりかはましか。


 そんなアホな事を考えている間にコービスは結界を出て部屋にあるベッドへ豪快に寝転ぶ。


 「とはいえ、私も今日はちょっと疲れたよ」

 「まぁ今日一日で色々あったからな」

 「ねぇ~」


 二人でそんな事を駄弁りながら天井を見つめる。


 「そう言えばさ、【花嫁修業】については何となく分かったんだが、具体的には何すればいいんだ?」

 「旅をするんだよ。この世界を分断してる6つの町を巡る旅」

 

 そう言えばコービスがこの異世界について語ってくれた時、6つの町を作って分断したとかなんとか言ってたな。


 「各町にはこれまた強力な結界が張られていてね、とある条件を満たした人しかその結界を抜け出す事は出来ないんだ。幼い拝借魔公はいしゃくまこう達は『郷土街きょうどがい』って所で生活するの。そして18歳になると『郷土街きょうどがい』を覆う結界を抜け出す事が出来る、そしてその次に有るのがここ縁町えにしまち


 「ここでパートナーを見つけるんだったか?」

 

 「そうそう。それでパートナーを見つけた拝借魔公はいしゃくまこうが一定の強さを持つとこの町を覆う結界を抜けて次の町に行くことが出来るんだ」


 なるほど。

 ゲームで言う所のレベルキャップ的な役割を担う結界があるんだな。


 町を巡り、そこで研鑽を積み、特定のレベルに上がるとまた次の町を巡る。

 そうして最後の町を突破する時には確かな強さを兼ね備えた一人前の拝借魔公はいしゃくまこうが出来上がる。


 仕組みだけ見れば中々分かりやすいな。


 「んじゃ、明日からは何かと戦いまくって強さを身に着けて行けばいいんだな」


 「そういう事。ディスホールでは周辺で暴れてる異世界の生命体達の討伐依頼とか張ってあるから、基本はそれをこなしていく形になるかな」


 「何となく予想してた流れだな。まぁ想像しやすくて助かるけど」


 「次の町、抗争町こうそうちょうは日夜戦闘を行う祭りが毎日開催されてるって聞くから私達の戦闘力アップには力を入れないと」


 「物騒な町だなおい」


 「でも施設自体は結構整ってるらしいよ。【花嫁修業】で巡る町の中で一番料理がおいしいって聞いたし」


 飯が上手い代わりに滅茶苦茶危ない町か。

 元の世界でそんな所に行くのはごめんだが、今の力を持っている状態でコービスと一緒に行くってんなら興味出てきたな。


 「とにかくそこに行くためにも明日から頑張らなきゃって事だ。なら、今日はしっかり寝て明日に備えようぜ」

 「そうだね。ここで夜更かししちゃ体に悪いし」


 コービスはそう言うと、天井で光を灯している結界をパッと消した。


 「あの「『混白こんはくの花嫁』に近づく一歩を歩むためにも」


 俺が意識を落として寝る間際に、嬉しそうな声で何かを呟きながら。

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