第9話 パートナーのすべきこと
「能力を活用出来てない?」
「はい。センロクさんがそれを自覚するだけで、あなた達二人の戦闘能力は今までの比にならないぐらい大きくなるでしょう」
「流石に言いすぎじゃないですかね」
「そんな事は有りませんよ。なぜなら能力を自由に解釈し、活用する、それこそが
能力の解釈を自由に……か。
ここに来て漫画とかで良く聞くワードが出てきたな。
ミミルはこっちを警戒していても動く気配はない。
コービスも攻めに転じずにじっとミミルと睨んでいる。
俺が何かを掴むまで待ってくれてるのか?
「なるほどな。さっきまでの戦いがコービスにとってチュートリアル戦なら、こっから先は俺にとってのチュートリアルが始まるって訳だ」
「アホコービスだけ強くなっても意味はないもの。アンタとコービス両方がこの戦いで成長しない限り、私達には勝てないわよ」
良いね、がぜんやる気が湧いてきた。
俺だってコービスの金魚の糞になるつもりは無い。
異世界でパートナーを見つけたんだ。
だったら胸張って『俺がベストパートナーだ』って言えるようになりたいだろ。
「俺は新しい技術を身に着ける時には先人に教えを乞う事こそが一番大事だと思ってるタチの人間だ。そこでライルさん、良かったらなんだがあの炎の剣を使っている時に何を考えているか教えてくれないか?」
「ああ、もちろん君に教えるとも。僕はあの剣を作りだす時、とにかく『炎の動き』をイメージする事を意識しているよ」
『炎の動き』をイメージね。
要するに、自分の能力で生み出した物の動きをイメージしてるって事だ。
盲点だったな。
さっきまでの俺はとりあえず錆びた刃を出す事だけに集中していた。
さっきまでの戦いで俺がしたことはコービスに武器を提供してただけだ。
生み出した錆びた刃を攻撃に使っていたのも動かしていたのもコービスだけじゃねーか。
「なるほど~。こりゃ確かに能力全然活用できてないな」
「お、何か掴んだ?」
「まぁ一様な。結構反動が激しそうって事だけが不安点だが」
「どんな技でも、センロクが思いついたのなら使いこなしてあげるよ。あまり私を舐めないで欲しいな」
コービスは弾んだ声でそう言った。
パートナーがここまで言ってくれてるんだ、いっちょ盛大にぶちかましてやろう。
「コービス、とりあえずその二刀流状態のままで突っ込んでくれ。俺が良いと思ったタイミングでその新技を披露する」
「OK、楽しみにしてる!!」
コービスは右足で勢いよく地面を蹴り上げてミミルとの距離を縮める。
対するミミルはまた炎の剣を生成し、ライルさんの操る剣術でこちらを迎え撃つ。
「それではセンロク君、君の答えを見せてもらおう」
錆びた刃と炎の剣が衝突する。
俺の予想では、この瞬間に使うのが一番効果が出るはずだ。
今、炎の剣と鍔迫り合いをしている刃はコービスの手の付け根あたりを始点として生成している。
この点を中心にして、錆びた刃を『回す』事を強くイメージしろ!!
「これが俺の答えだ」
バン!!!
辺りに破裂音が響き渡る。
それはライルさんの炎の剣が破裂した事を表す音だった。
「へぇ……中々の見込みが早いじゃない。アホコービスの癖に良いパートナー見つけたわね」
さっきまでと違うのは『動き』だ。
今コービスの手元に生えているのはただの錆びた刃ではなく、まるでプロペラの様に激しく『回転』する凶悪な破壊兵器って所だな。
「すごい破壊力じゃん!!ちょっとでも力抜いたら私の両腕持っていかれそ~」
「ハイテンションで怖い事言うなよ!!」
「ハハ。冗談冗談」
コービスは上機嫌な声を上げながら右腕を縦に大きく振るう。
前に踏み込む足幅は大きく、力強い大ぶりな一撃をミミルに見舞う。
回転した刃とミミルが展開したバリアの衝突音が響く。
バリアが俺達の攻撃で削れてるじゃねーか。
このまま押せば倒せるんじゃねーか?!
「フレイムカウンー」
「おっと、カウンターは撃たせないから」
ミミルのバリアがオレンジ色の光を帯びる直前、コービスが左腕を大きく横に振る。
彼女の左手でグルグル回転している刃がミミルのバリアを破壊し、彼女の体を後方に吹っ飛ばした。
ミミルと戦って初めて見えた隙。
こんな絶好のチャンスを逃してたまるかよ。
回転攻撃は高威力を出せるがコービスの動き一つ一つが大振りになっちまう。
あれを狩るなら一度回転を止めた方が良いだろうな。
脳内で刃の回転が止まるイメージをする。
キン!!と甲高い音が鳴り、コービスの手元で高速回転していた刃の動きが止まった。
「コービス、アレ狩れるか?」
「もちろん。私なら余裕だよッ」
コービスがミミルまでの距離を一瞬で詰める。
例の炎の剣を作る時間もバリアを再展開する時間も無かったはずだ。
これで確実に俺達の攻撃が当たる。
「どうやら、僕達の負けみたいだよ」
「そうね。だからもう良いわよライル。もう一つの能力、解放しなさい」
それはまさに錆びた刃がミミルの体を捉える寸前の事だった。
ミミルの体を守る様に周囲の空気が風となって集まり、俺達の攻撃を受け止めた。
「これって風の力??」
「これがライルさんのもう一つの能力……ってうわぁぁ」
身を守る為に展開された風は徐々に力を増し、やがて俺達の体を吹き飛ばした。
「おわぁぁぁ思ったより飛ばされてないかコレ?!」
「だ、大丈夫。私の体感ならこの状態でも綺麗に着地出来るはずだから」
「あんまり大きな声出さないでくれる??私がアンタ達をただ吹っ飛ばす訳無いでしょ」
そんなやり取りをしていると、空中に吹き飛ばされた俺達の体をフワリと優しい風が包み込んだ。
風に包まれた体はゆっくりゆっくりと地面まで降りていき、コービスの足が優しく地面に触れた。
「ま、最低限の力はあるみたいで良かったわ。伸びしろも大きいと思うし、これから精々私に追いつける様に頑張りなさい」
「もう、ミミルはいつもこういう時素直に褒めてくれない」
「十分褒めてるじゃない。馬鹿な事言ってないでこれ受け取りなさいよ」
ミミルはぶっきらぼうにそう言うと、こっちに向かって何かをポイっと投げた。
「何だこれ?」
コービスが危なげなくキャッチしたその物体を見て最初に出した一言がそれである。
外見は完全に丸い石以外の何物でもないな。
もしかして、この世界のお金とか??
いやでも、この石にも魔法陣的な物が埋め込まれてるな。
「あ~センロクは初めて見るっけ?この石は鍵なんだよ」
「鍵??それって部屋の開け閉めとかするあの鍵?」
「そう、その鍵」
へぇ、この異世界ではこんな形してるんだな。
鍵穴とか使うんじゃなくて、この石を近づけたら部屋の結界を通れるとかそんな感じなのかね。
「アンタ達の為に、ここの2階にある宿泊部屋を一つ借りて来たわ。もういい時間だし、今日はそこで疲れを癒しなさいよ」
ミミル、コービスの為に部屋まで用意してくれたのか。
すっごい面倒見がいいじゃん、俺もそんな友達が欲しかった。
んじゃ、ミミルが借りてくれた一部屋に行って今日の疲れをー
「ん?」
一部屋??
俺は男でコービスは女なのに?
と言うか、俺今ドレスになってるけど……そう言えば夜とかどうするんだこれ。
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