第7話 この異世界の頂点『混白の花嫁』

 「ここよ、早く入りなさい」


 ミミルに連れてこられたのはディスホールの地下へと続く階段だった。

 

 さっきまで飯を食っていた一階のフロアや建物の外観は、それこそ拝借魔公はいしゃくまこう達の憩いの拠点って雰囲気が強く漂っていた。

 だけどこの地下に至ってはその雰囲気ががらっと変わる。


 証明は無く薄暗い階段。

 明かりは壁や天井なんかに刻まれた魔法陣の様な何かが担っている。


 「地下は拝借魔公はいしゃくまこう同志の決闘を行える特別なエリアなのよ。パートナーを持つ拝借魔公はいしゃくまこうのみがここに入れるように特殊な結界が張ってあるわ」


 ミミルは軽い説明をしながら俺達の前を歩く。

 階段を降り切ると、そこには怪しい光と白色の鉱石に包まれたステージがあった。


 幻想的なステージの周りにはこれまた結界としか言いようのない半透明のドームが漂っている。


 「にしても、結構色んな所で結界を見るな。この異世界では結構メジャーな技術なのか?」


 「結界は拝借魔公はいしゃくまこうが唯一会得できる魔法だからね。最初にセンロクと会った時に使ったバリアも、今センロクをドレスにしたあの現象も、元をたどれば全部結界の応用なんだよ」


 コービスは得意げに語りながら、自身の拳を覆う小さなバリアを作り上げた。


 このバリア若干白い光を放ってるな。

 もしかしたら、さっき飯食ってた所の光源も光を出す様に工夫された結界なのかもしれない。


 きっと、この世界における結界は俺達の世界で言う電気に相当するぐらい便利な物なんだろう。


 「まぁ、町を覆ってる結界は私が使ってるのとは別格なんだけどね~」


 「別格?」


 「『混白こんはくの花嫁』って呼ばれる拝借魔公はいしゃくまこうが居てね、彼女はこの世界の生活に関るあらゆる結界を一人で作りだしたって言われてるんだよ」


 「あらゆるって、んじゃぁ地下へ入る時の結界や目の前のドーム状の結界も?!」


 俺の疑問に対し、コービスとミミルは黙って首を縦に振る。

 

 おいおいマジかよ。

 それって日本の電力を一人の超能力者が捻出してますって言ってるぐらい滅茶苦茶な事態なんだけど。

 さすが異世界、規格外の存在がポンポンと出てきやがる。


 「おっとこんな事で驚いてもらっちゃ困るよ。【花嫁修業】は元々全拝借魔公はいしゃくまこうを『混白こんはくの花嫁』レベルに強くする為の修業だったんだから」


 「まぁ、今はもうそんな目的忘れ去られてるわよ。全員が『混白こんはくの花嫁』レベルになるなんて普通に考えて不可能だもの」


 「ミミルはいつもそう言う。夢が無いね。私は本気で『混白こんはくの花嫁』レベルを目指してるというのに」

 

 「アンタねぇ……そんな目標立ててたらセンロクに凄いプレッシャー掛かるじゃない。少しはパートナーを労わるって事を覚えたら」


 「え~センロクはそんな事思わないよ」


 コービスはそう言うと、俺の視界の元となっているブローチを優しく触りながら囁き始めた。


 「センロクだってせっかく私と組んだんだから強くなりたいでしょ?『混白こんはくの花嫁』の再来とか、史上最強の拝借魔公はいしゃくまこうとか呼ばれてチヤホヤとかされたいでしょ」

 

 「コービス……そんなん当たり前に決まってんだろ!!事情はどうあれ異世界に転生したとあれば圧倒的地位を目指さなきゃ損だぜ」


 「やっぱりセンロクならそう言ってくれると思ってた」


 舐めて貰っちゃ困るな。

 こちとら現実世界で承認欲求に駆られて色んなコンテンツに手を出していた男だぞ。

 『私と一緒に最強になろう』とか言われたら乗っかる以外の選択肢はないんだよなぁ。


 「なんでそうなるのよ……まぁそれなら猶更あんた達には拝借魔公はいしゃくまこうとしての戦いに慣れてもらう必要があるわ」


 ミミルの呆れた声を聞きながら、俺達は結界を抜けてステージの上に立った。

 ミミルは優雅な足取りで俺達と十分な距離を取り、コービスと向き合う。


 「拝借魔公はいしゃくまこうはドレスになったパートナーとの連携が重要よ。特にセンロクはドレスになったばかりで能力の調整には慣れてないだろうし、コービスにしたって今の自分に出来る動きを完璧に把握してるわけじゃ無いでしょ」


 ミミルの右手が淡いオレンジ色の光に包まれ始める。

 やがてその光は熱を帯び、一つの炎となって彼女の右手に纏わりついた。


 あれ、ドレスになってるライルさんの能力か。

 妖精って言ってたもんな、自然の力を借りて攻撃とかそんな所なんだろうよ。

 

 「そんな状況で【花嫁修業】なんかに出たら最悪死ぬわ。だからここでアンタ達には拝借魔公はいしゃくまこうとしての戦いに慣れてもらうわよ」

 

 「僕とミミルはこう見えてもパートナーになってかなりの戦闘経験を得ている。僕達の動きを参考にし、分からない事が有ったら積極的に聞いて欲しい」

 

 おぉ、佇まいが達人のそれだな。

 一瞬隙だらけに見えるけど、下手に攻撃を加えたら簡単に返り討ち喰らう想像がゆうに出来る。


 「僕は炎と別にもう一つの力を持っているが、今回はミミルの要求でその力を使わずに戦う」

 「アンタ達は全力で私達に攻撃して無理やりにでもライルのもう一個の能力を引き出しなさい。それが今回の勝利条件よ」

 「へぇ、面白そうじゃん」


 コービスがそう言って体を構える。

 俺はそれに合わせて能力を発動。

 コービスの両手の裾から長身の錆びた刃がキンと音を立てて現れた。


 「センロク、能力の使い方は君に一任するよ」

 「良いのか?」

 「私はそう言うの考えるより、体動かす方が好きだからねッ!!」


 コービスはそう言うと、ミミルとの距離を素早く詰めて右手の刃を大きく振るった。

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