第57話 魅惑の雑貨屋

 お腹が満腹、活力満タンになったところで、次は買い物だ。

 さくさく進めよう。じゃないと、スヴァがうるさいからな。

 まず向かうはステラの雑貨店だ。

「ステラさん、おはようございまーす!」

 今日も元気にドアを開けると、来客を告げる軽やかなベルが鳴る。うん。いいね。

「あら、いらっしゃい。今日は何かしら?」

「今日は、洗濯を干すロープが欲しいんです」

「はいはい、ありますよ。ちょっと待ってね」

 そう言って、ステラは近くの棚から、ロープを出してくれた。

 つるりとした繊維の丈夫そうなロープだ。

「おいくらですか?」

「大銅貨1枚だね」

 安っ! いいのか? まあ安い分には文句はない。ティティはお財布から大銅貨を出してステラに差し出す。

「はい」

「はいはい、ありがとね」

 よし。これで、洗濯ものを干すのに苦労しないぞ。

「そうだわ。ティティちゃんこの前、歯ブラシ買ってくれたわよね」

「あ、はい」

「ちょっとこっちに来てみてちょうだい」

 そう言いつつ、ステラは歯ブラシが置いてある棚に進む。

 ティティもその後について行った。スヴァも続く。

 歯ブラシがピンキリで並んでいる。

 その中で、この前はなかったものが目に入った。

「ステラさん、この馬の毛の横にある歯ブラシ、前はなかったと思うんですけど」

 なんか馬の毛歯ブラシよりも光沢がある。すっげえ気になる。

「うふふ。それも新しく入ったばかりなの。魔物オットメイトの毛でできてるの」

「オットメイト?」

 全く聞いたことのないものだ。

「海の魔物で、滅多に取れないらしいわ。かなり大きい魔物なのですって。それの髭板と呼ばれる器官から作られてるらしいわ。とてもなめらかな使い心地らしいわよ。馬の毛のよりもね」

「ふええ! そうなんですか」

 そりゃすごい気になる。

「ええ。それに擦り切れにくいから、長持ちするらしいわ。だから、一度買えば元は取れるみたい」」

 ステラが顎に手を当てながら、説明してくれる。

「大銀貨1枚よ」

「たっかあ!」

 思わず叫んでしまった。

 うん。一度使ってみたいけど、そこまでお金はかけられん。

 けど、欲しいな。

 それに、そんな魔物が海にはいるんだな。

 海にも一度行ってみたいなあ。

 しかし、この魔物の歯ブラシを見たら、馬のしっぽの歯ブラシが安く思えて来た。

「うふふ。お金がいっぱいたまったら、買いに来てね。私がティティちゃんに紹介したかったのは、こっち」

 その言葉とともに差し出されたのは、小さい容器だ。

「これは?」

「これ、中に歯磨き粉と言うものが入っているの。これを歯ブラシにつけて磨くと、すごく歯が綺麗になるのよ」

「へえ!」

「最近発売されたものなの。よかったら、どうかしら?」

「おいくらですか?」

「うん、最初はお試しで使って欲しいから、大銅貨2枚でいいわ」

 という事は、それよりはもっと高いってことか。でも大銅貨2枚なら試しに使ってもいいかな。

「買います」

 そう言いつつ、ステラにお金を差し出す。

「ふふ。毎度ありがとう」

 ああ、お金がどんどん減っていく。

 けど、仕方ない。歯は大事である。

「ちなみに、本来はいくらですか?」

「この容器のサイズで、大銅貨5枚よ」

 おおう。こんな小さいのに。やっぱり、新商品は高いな。

 でも使い心地よかったら、リピートしてしまいそうだ。

 そう考えたティティのズボンのすそを、スヴァが口で引っ張る。

<ティティ、のんびりしてる場合じゃないぞ!>

 スヴァから心話で注意が飛ぶ。

 そうだ、のんびりしてはいられないんだった。

 ティティは急いでリュックに買ったものをしまうと、踵を返した。

「ステラさん、また来ます! 私、今日急いでるので、これで失礼します!」

「はい。また待ってますよ」

 ステラがにこにこと手を振ってくれた。

 それに振替しながら店を出る。

 次はリッシュの古着屋だ!


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