第54話 鉄の水筒 いいんじゃね

 上手く丸め込まれた気もするが、まあいいか。

 それよりも明日の湖の冷たさが大問題だ!

「ああ、デルおじ! どうか、保温ポットを完成させていてくれ!」

 ポットがあれば、大分違う。

 スープが飲めれば最高だが、だめなら、あっついお茶でも飲めれば最高だ。

「あ、今いい事思いついた!」

「なんだ?」

「いや、ほら水筒って、皮だろ?」

「そうなのか?」

「そうなんだよ。全く、魔法で水を出せる奴はこれだから困るぜ」

「今は出さぬがな。それで?」

 出せぬではなくて、出さぬってのが小憎らしい。追及したいが、今は思いついた事を告げるのが先だ。

「水筒を金属で作ってもらえば、よくないか?」

「話がみえない。金属で作って、何がいいのか」

「だから! 金属で作れば、そのまま焚火にかけても大丈夫だろ? 鍋と一緒さ!」

「なら鍋でよいのではないか?」

「鍋よりも面倒がないだろ?」

「なるほどな。横着者め」

 ふふん。スルーだスルー。

「水筒の中はお茶を入れといてもいいよな?」

「味は落ちるぞ」

「いいんだよ! あっつければ、多少の味は我慢できるんじゃね?」

「そうか?」

「そうなの! ノリが悪いな」

「ふん」

 スヴァは興味なさそうに鼻を鳴らす。

「ちぇ! すごい思い付きなんだぞ!早速明日デルおじに話してみよ」

「そんなに欲しいのか?」

「うんにゃ。俺は保温ポットが2、3個あればいいな」

 自分は亜空間があるから、そこに入れておけば、いつでもあったかいものが飲める。

 けど、寒い地方であれば、鍋よりも、水筒の方が冷めにくいのではないか。

 それに持ち運べるし。

 そこをスヴァはわかってない。

「何でもいいが、明日も予定が詰まっている。早く寝ろ」

「ああ、うん」

 スヴァに促され、ベッドに入る。

 スヴァもベッドの端で丸くなる。

 スヴァの反応はいまひとつだったけど、デルコはきっと鉄の水筒の良さを分かってくれるに違いない。そう心で呟きつつ、ティティは目を閉じた。



 翌朝。

「乾かなかったなあ」

 大判のタオル、風呂場に干したが、朝までにはやはり乾かなかった。

「むーん、やはり、洗濯ロープ買っておくか」

 それに、今日はテフラ湖とコマルナ湖の2つ潜らなくてはならない。できれば、大きなタオルがあと2つ欲しい。

 もったいないが、熱を出すよりましだ。

「リッシュのとこに買いに行くか」

 とると、今日の予定としては。

「まずは冒険者ギルドに行ってから、下町広場の屋台で朝食をとって、昼ご飯も含めて食料の買い込み、次に雑貨屋、衣料品店、次に武器屋に行く。それから湖に向かう。それでいいか、スヴァ」

「うむ」

 宿の階段を下りつつ、予定を確認する。

「となると、今日潜れるのは、テフラ湖だけになるかもなあ」

「さっさと行動すれば、コマルナ湖も潜れるはずだ」

「無理しても仕方ねえだろ?」

「わかった」

 スヴァが不承不承に頷く。全く潜る身にもなれってんだよ。

「宿もどうするっか、そろそろ決めないとなあ」

 ここはすごい居心地はいいが、今のティティの収入を考えるとやっぱり高い。

 もう少し、安い宿に切り替えたい。

「けど、自分で身を守るのはまだ難しいんだよなあ」

 自分のほそっこい手足を見て、ため息をつく。

 安全か金か。

 考えるまでもなく、安全だろう。

 ジオル時代ならば、どんなとこでも平気だった。

 男だし、まあ、すばしっこかったからな。

「かといって、孤児院に行くのもな」

 自由を知った身としては、やはり孤児院は窮屈だ。それに今はジオルとスヴァの知恵があるのだ。孤児院の席は他の子に回した方がいいだろう。

 それに何より。

「風呂があるのがいいよな、ここ」

 それほど、綺麗好きだったわけではないが、一度風呂の魅力を知ってしまえば、それを手ばなすのは惜しい。

「あ、今思いついた!」

<今度はなんだ?>

 階段を降り切ったところで立ちとまる。

「剣より魔法を練習したほうが、強くなるの早くなるんじゃね?」

<心話に切り替えろ。どこで聞かれるかわからぬぞ>

<う、うん。そうだな。わり>

 そうだ。こんなチビが魔法を使える知られたら、誘拐ましっぐらだ。

<魔法の訓練か。今はやめておけ>

<なんでだよ。小さな魔法を一つ二つなら問題ないだろうが、連続して使えば、倒れるぞ>

<マジか?!>

<魔法は体力を消耗する。もう少し身体に肉が付いてからだな>

<わかった。そのためには、肉だな>

<肉だ>

 ティティとスヴァは頷き合った。

 そう言ったところは、2人の意見は一致するのだった。


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