第53話 難しい事は他人にまかせよう!
「しかし、なんで、この地を弱らせようなんてすんのかね。誰も幸せになんねえだろう?」
「お主のように能天気、いや平和な考えを持っている者ばかりならよかったのだがな。人間の立場になって考えてみると、2つの可能性があるな」
なんか聞き捨てならないような事を言われた気がしたが、話が進まないから、スルーする。
腹がいっぱいになってきたら、眠くなってきたしな。
「2つもあんのか? すげえなお前」
こいつ、やっぱ、頭いいな。魔族の頭張ってただけある。
「1つは植物スライムを湖に放した人物はこの地方の衰退を狙ったんだろう。植物スライムを使えば、自分の手を汚すことなく、この土地の産業を奪える」
「ん~? 作物が実らなくなったら困るのは一緒じゃね?」
ティティは頭を傾げる。
「最初はな。だが、弱ったところに、資金を投入して乗っ取ってしまえば、後は思うままだろう。植物スライムを取り除けば、土地は回復するのは間違いないことである」
「ふーん。じゃ、犯人は、商人か?」
「うむ。この地に新たに根を張ろうとしている商人、それが国内の者か、国外の者かでまた状況が変わってくるな」
「どうかわるんだよ」
「国内の者ならまだ、ましだな。国外の者ならたちが悪い。これは2つ目の可能性に大きくかかわる」
「どんな風に?」
「国外の者、例えば、隣国の商人が武力ではなく、経済から、この辺境の地を支配していく。それから武力によって制圧する」
「なっ! 大変じゃねえか!」
「そう、国外から侵略への足掛かりに、植物スライムが使われた可能性、これも考えられる」
「でもさ、この地方の力が衰えて、かりに辺境伯からこの土地を奪ったとしても、枯れ果てた大地を奪ってなんの得があるっていうんだ?」
「そう。国内の敵でも、国外の敵でも、この土地を奪う場合、なるべく土地を荒らさずに奪いたい筈だ。植物スライムを使ってじわじわと力を削いでいくやり方はあまりうまいやり方ではない。それでも、もう何百年か、戦争すら仕掛けられずにいるならば、そこまでする可能性もある」
「でもよ。植物スライムは魔王領でお前の知り合いが作ったものなんだろ?」
「そうだ」
「だとすると、それに魔族が関わっているってことか?」
「かかわってるのは間違いない」
「でもよ、魔族は人間に攻撃してはいけないんだろ?」
「だから、こうした絡め手ならば、可能だ。口の上手い魔族はいくらでもいる」
「そうなのか?」
「ああ、土地を弱らせて、手に入れた後に、自然回復ではなく、もっと直接的に土地の活力を復活させる方法もある」
「ええ?! そうなのか?」
「ああ、だから、きっと欲に駆られた人間なら、乗るだろうな」
「その魔族は、そんなことして何が面白いんだよ」
「面白くはないが、間接的に人間を殺せる」
どうして、そう口に仕掛けたが、言葉を飲み込んだ。
それはわかりきっていた。
自分たち(魔族)人間の為に、生まれ、人間の為に苦しい思いをし、死ぬ。
それを憎く思わない訳がない。
「そうか」
ティティはそう言うしかない。
「じゃあ、魔族が人間を操って、仕掛けたのか」
「十分ありえる。さっきも言った通り、魔族は基本人間に直接攻撃を仕掛けない。だから、このような間接的なやり方をとるしかない。これで戦争になり、人間が少なくなれば、多少でも、魔族は生きながらえる。気もすく」
「そうか」
いたたまれないなあ。
「そんな顔するな。過激な考えをするのは、一部のものだけだ。他は運命を受け入れている」
それはそれで、やはりいたたまれない。
「まあ、そこまで深く考えなくてもいいだろう。我はもう、魔王でもない。直近の課題だけに考えをしぼればよい」
「課題?」
「この地方の不作の原因を探り、褒賞金をもらって生活資金を稼ぐ、のだろう?」
「おお! そうだな。そうだ!」
難しいことは俺たちが考える必要はない。
それはもっと偉い人たちが考えればいい。
薄情な事を言えば、この地方に長居するつもりはなかった。
だから、この地方の問題はこの地方の領主さまが考えればいいのだ。
だから、ティティたちが考えるのは一つ。
「情報を売って、お金を儲けて、旨いもんを食べる!」
そうだ。それくらいでいい。
また要らぬ正義感などを働かせて、早死にしてはたまらない。
今回は長生きするのだ。
長生きして、楽しく生きる。
自分とそして相棒のスヴァ。
スヴァだって、ちょっと変わった獣だけど、窮屈な思いをさせずに、できるだけ自由に楽しい思いをさせてやりたい。
「それに、今回の情報は金にもなるし、この地方の為にもなる」
うん。そうだ情報を提供するだけでも十分だろう。
「金にもなり人助けにもなる、一石二鳥だ!」
よっしゃ。もともと深く考えるのは苦手だ。
ぽーんと丸投げしてやる。
「話は決まったな。明日は西側の2つの湖、テフラ湖とコマルナ湖の調査に行くぞ」
「うえ~。やっぱやんなきゃだめか?」
「当たり前だ。正確な情報でないと、褒賞金がもらえんぞ」
「だって、水冷たいんだよ!」
「一時のことだ。我慢しろ」
「くそ! 他人事だと思いやがって」
「焚火の番はしてやるから」
「わかったよ。はあ、でも明日は先に冒険者ギルドに行って、依頼完了の報告をして、デルおじんとこに顔を出してからだかんな」
「よかろう」
「なんで、お前、そんな偉そうなんだよ」
「役割分担だ。今回は、我は考える側、お主は確認する側、ただ、それだけだ」
「そうか?」
「そうだ。次回は違う事もあろう」
そう言われれば、そうなのか?
ならいいのか? むーん。
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