第48話 デルおじ、作って欲しい1
「デルおじ、おはよう!」
ティティは元気よく、ドリムル武器屋に入った。
「おう! ティか。今日はなんだ?」
奥からのっそりとデルコが顔を出す。相変わらず恐い顔だ。
「デルおじに、作ってもらいたいものがあるんだ」
「おう。なんの武器だ?」
「あ、えっと」
ティティが作って欲しいもの、それは武器ではない。でもティティにとってはとても重要なものだ。
これからの食生活がかかっているのだ。
これがなければ、湖に飛び込むなんていやだ!
「なんじゃ?」
「この店が武器を扱う店とは知ってるんだけど、あるものをどうしても作って欲しいの」
「その調子からすると、武器ではないな?」
デルは鼻に皺を寄せる。
「う、うん」
こわいよ。その顔、言い出しにくいじゃねえか。
「言ってみろ」
「うん。実はね、これなんだけど」
鞄から石板を取り出して、デルに見せる。
「なんじゃ? 筒?」
「うん。筒は筒だね。これはスープを入れるものなんだよ。これから、寒くなるでしょ。そうなると、あったかいものが食べたいじゃん。けど、毎食店で食べるには、お金がかかるし、私小さいから絡まれやすいでしょ? だからね、なるべく、部屋でご飯を食べたいんだよね。でも、スープとかは買って帰っても冷めてることが多いし、零しちゃうしね。だから、これ」
湖に潜るからとは言えないので、2番目の理由でアピールだ。
ずいっと石板を全面に押し出して説明する。
そこに書かれてるのは、筒状になった入れ物である。
「これは2層構造になってるの。外側は木で、内側は錆びにくい金属にしてね。二層にしないと、木だと汚れが付きやすいからね。それで、口は大きめに、それを覆う蓋はかぶせるような形でねじ式にして、液体が外に漏れないようにして欲しいの。デルおじできる?」
「うーむ。作った事はないが、できるじゃろ、ドルコ手伝って貰えばすぐじゃ」
「ドルコ?」
「弟だ。木工職人をしとる」
「あ、それなら、すぐにできるね!」
「まあの!」
またもここで胸を張るデル。
「じゃが、この入れ物にいれても、冷めるのは早いと思うぞ」
「うん。でも、お椀に入れて持ち帰るよりもいいから」
うん。この容器に入れて、すぐに亜空間にいれれば、アツアツのままだ。それなら椀でもいいと思うかもしれないが、店で買って鞄に椀を入れたら怪しすぎる。だからきっちりと閉まる蓋つきの筒が欲しいのだ。
「そうか?」
納得しなさそうな、デルコである。
まあ、中途半端のものになるからだろう。
「本当は、小さい魔石と魔法陣を蓋の内側か、底に仕込めるようにすれば、ずっとアツアツのままだと思うけど、それには2つ問題があるんだよね」
今足元でちょこりと座っているスヴァに提案された。
「この容器を使う為には、魔石の交換ができなくてはならんな。それにすぐに消費されるようじゃ金がかかって仕方ない」
「そう、だから、魔法士さんに、保温を長く継続するような魔法陣を書いてもらって、更に魔石もクズ魔石レベルでも使えるようにしてもらわないといけない」
「となると、高くなるな」
「そう、だから、今のところ2層構造の口が幅広の筒でいいかなと」
「わかった。作ってやる」
「やった! いくらになる?」
「そうだな。銀貨4枚でいい」
「ありがとう! 助かる!」
ぺこりとティティは頭を下げた。
やった! これで、湖に飛び込んでも、すぐにあったかいスープが食べられる!
「ティ、この幅広の筒の開発、任せてもらってもいいか?」
「えっ?」
「いや、保温の筒があったら、確かに便利じゃからな。おもしろいと思って少し、考えてみたいんじゃ」
「私は構わないよ。デルおじの好きにやっちゃっていいよ」
武器じゃないのに、興味を持ってもらえたのは嬉しいし、便利なものができるのは大歓迎だし。できれば、私が手に入るくらいの値段で売りに出されたら、なお嬉しい。
「よし! 目処がついたら、報告する」
「いいよ! 私はアイデアを出しただけだから。私は試作品で構わないし」
とにかく早く欲しいんだもん。
「だめじゃ! その発想が重要なんじゃからの!」
こわっ! ここにもがんこちんがいる。
「わかったよ! でも、試作品は早く欲しいな」
これだけは譲れない。
「そうさの。試作品ならすぐできるじゃろ」
「わかった。じゃ、明日顔出してみるね」
「おう!」
さて、一つ目の頼みは終わった。
後もう1つっと。
そちらは武器だからきっとスムーズに受けてくれるよね。
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