第47話 孤児院では色々覚えたよ

「お前も腹減っただろ」

 下町広場に入るとすぐに、肉串を4本買って、そのうちの2本をスヴァの皿に盛ってやる。

「悪いな。俺に合わせて、飯遅くてよ」

 ジオルは孤児院出だ。孤児院では一働きしてから、朝食をとっていた。

 その習慣は成人してもずっと変わらなかった。

 働いた者が飯にありつける、そういうことである。

 とは言っても、現世のこのティティの身体、燃費が悪い。その為、宿を出て来る前に、軽く食べた。ティティの腹はすぐに減る。減りすぎると動きが鈍くなる。しまいには倒れる。

 それがなければ、出がけに一口もなしでいいのだが。

<いや、苦にならぬ。我とて、魔王として生きる前は、狩りをしないと、食事にありつけなかったのだから>

「そっか。へへ」

<うむ>

「食べながらでいいんだがよ。お前が言ってた、水筒もどきはこんな感じか?」

 ティティははむはむと串焼き肉を口に押し込むと、石板と石筆を出して、描き始める。

 ジオルは早飯ぐらいでもあった。そうしないと、孤児院では生きて行けなかったからだ。

 今は奪われる事もないのだから、ゆっくり食べればいいのだが、これも習慣である。

 体裁を気にしないところでは治らないだろう。

「ほい」

 程なくして、ティティは描き終えた。

<うまいな>

「そうだろ、そうだろ」

 ティティは結構絵心がある。孤児院のチビどもにせがまれて、よく地面に絵を描いていたからだ。

 ティティが示した石板にはスヴァが説明した内容が書かれていた。

<うむ。いいのではないか。ただ、この口のところはもう少し、溝をいれて注釈したほうがいいぞ>

「そっか。なるほど」

<それがあれば、後は口でお主が説明すれば、よいだろう>

「おっ! スヴァのお墨付きだ! よっしゃ! 後は三節棍か」

<それは、店で書き直せばよかろう。水筒の絵で石板がいっぱいだからな>

「そうだな。ちっこく書いてもわかりづらいしな。食べ終わったか?」

<ああ>

「じゃあ、皿かして」

 ティティは汚れた皿を亜空間に入れる。

 後でまとめて洗うのだ。亜空間マジ便利。

<何をにやけている。早く、行くぞ>

 元魔王様は、自分の疑問を早く解決したいようである。

「わかったよ」

 まあ、彼にしてみたら、使えるのが普通だったから、何とも思わないのだろう。

 ならば、今は不自由ではないのか。

 前に言っていた彼の言葉が頭をよぎる。

 獣として生きたかったと。

 ならば、魔法を使えずとも、彼はそれでよしとしているのかもしれない。

<なんだ?>

「いや、なんでもないよ。じゃ、行こうか」

 ティティは首を振ると、ドリムル武器屋に向かった。


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