第27話 カミオさんは感動屋さんか?

「これうめえな!」

 やって来たのは、下町中央広場の屋台である。

 今日は、何かの鳥と野菜が交互に刺された串焼きである。

 程よく油が落ち、またその肉の油とたれが野菜に染みこんで、たまらなくうまい。

 自分とスヴァと交互に食べて、もう4本ぺろりである。

 飽きない味だ。

 一本大銅貨1枚というのもリーズナブルでいい。

 これは、買い置き決定だ。

「お兄さん! この箱に後10本ください!」

「あいよ!」

「よし! これで昼飯はオッケーだな!」

 お金を渡していそいそと箱をリュックにしまう。

「さて、腹も膨れたし、次は冒険者ギルドだ。早く行かないと、いい依頼が無くなっちまう。スヴァ!行くぞ!」

 朝からうまいもん食べて、元気がでたぜ。

 ティティは機嫌よく歩き出した。

 

 冒険者ギルドの扉を開けて中に入ると、もうすでに依頼ボードのところに人だかりが出来ていた。けれど、頑張れば、ティティが入れるくらいの隙間はありそうだ。

 ティティは考えて首を振った。

 小さい身体を生かして、ボードの前に行く事は可能だろうが、気の荒い冒険者に小突かれて、要らぬ怪我をしたらつまらない。

 ここは今いる人が仕事を決めるのを待ってからにしよう。次来る時はもう少し早く来るか。

 依頼ボードがある場所は夜は酒場、昼は軽食を食べられるようにテーブルとそれに合わせた椅子がいくつか置いてあるので、ティティはそれの1つに座って、待つ。

 今食べたばっかりだから、腹は膨れているが、ティティはすぐに腹がすく。が、家でろくな食事を食べて来なかったティティの胃は小さいため、一度にたくさんは食べられない。しばらくはちまちまと食べていかないといけないだろう。出来るだけ一杯食べて身体を作らなければならない。がりがりなチビでは生き残れない。

「にしても、腹が減るのが早いんだよなあ」

 なぜだ。

「串肉以外にも、腹にたまる携帯食も買わないとだな」

 亜空間があるから、日持ちするものだけ買わなくていいのが幸せである。

 日持ちするものは、えてしてあまりおいしいとは言えない。

<なあ。スヴァは食べ物では何が好きなんだ?>

 足元にちょこりと座ったスヴァに心話で聞いてみる。

<肉>

 即答である。

 考えてみれば、当たり前だ。獣、どう考えても肉食だ。愚問だったか。

<あー。でも、肉の他にも沢山うまいものあるぞ! 果物とか甘いものとか! 食べられるよな?>

 特に甘いものは最高である。至高である。

<果物か。うむ。我も嫌いではない。甘いものか。うむ。嫌いではないぞ>

 スヴァの長いしっぽがフリフリしている。

 うむ。その気持ちわかる。

 これは嗜好が合って嬉しい。存分に食い倒しできそうである。

<今度時間がある時に、市場をじっくり回ってみようぜ! 甘いもんや珍しい果物とか見つかるかもしんねえ!>

<よかろう。おい、ボードの前がすいみたいだぞ>

「お」

 幸せな想像をしていた間に、人が引いたようである。

 第二陣の人だかりができる前に、依頼をチェックである。

 ティティはボードの前に行くと依頼書をじっくり見る。

 運のいい事に、採集の依頼が結構残っていた。

 そういえば、昨日イリオーネさんから聞いた話が影響してるのかもしれない。

 なんにしても、ありがたい。

 それらから、依頼書を4つとった。

 2つはこれからこなすもの、後2つは亜空間にあるすでに採取したもので達成できるものである。

 ティティは受付カウンターに歩いて行ってそれらの依頼書を差し出した。

 くっ! 相変わらず、カウンター高けえな!

「おはようございます! お姉さん! これ、お願いします!」

 元気に笑顔、これ重要。

 そして昨日とは違うお姉さんだ。ピンク色の髪の毛がキュートである。

 ここのギルドの女子はレベルが高い。目の保養である。

「はい。あ、昨日イリオーネさんがお世話をしていた新人さんですね。私、受付のカミオっていいます。よろしくです」

 ティティには全く見覚えがないが、どうやら、イリオーネとのやり取りを見ていたらしい。

「はじめまして、ティティルナです! ティティと呼んでください! よろしくお願いします」

 ぺこりとお辞儀をしつつ、買い取りカウンターの方へきょろりと目を向ける。

「今日は、イリオーネさんいないのですか?」

「いえ、朝は奥で別の作業をしているんですよ」

 それは残念。門番のおっさんへのお土産を買うのにちょうどいいお店を聞こうと思ってたんだが。

 ティティの残念と思ったのが顔に出たのか、カミオが気を効かせてくれた。

「何か御用なら、呼んできましょうか?」

「いえ、たいしたことはないので、大丈夫です。そのでは、お姉さんに聞いてもよいですか?」

「はい。かまいませんよ」

「あの、依頼とは全く関係ない事なんですけど、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫ですよ。新人さんをフォローするのもお仕事の一環ですからね」

 そうか。昨日はイリオーネに色々聞きすぎたかなとちらりと思ったティティである。空いてたからいいかと思ったけれど、考えてみれば、受付以外でも職員は色々仕事があるのだろう。

 カミオだってそうだ。甘えられるとこは甘えよう。うん。まだ俺は、ティティは7歳のガキだらな。

「あの、私、この街に入る時に、お金持ってなくて、門番のおじさんに、色々親切にしてもらったんです。仮の入門証を作ってもらったりして。その新設な門番さんがいなければ、冒険者ギルドに登録もできなかったから、今日、通行料払いに行くのですが、その門番さんに、お礼に何か持っていこうと思って。何がいいですかね?」

 カミオさんや、いいアイデアと、できれば安いよいお店を教えて欲しい。

 そう思って、カミオの顔を見上げれば、真顔でこちらをじっと見つめていた。

 なんかすげーこわいんすけど。

「ティティちゃん」

「はい」

 思わず背筋がぴっと伸びる。

「門番さんは、自分のお仕事をしただけですから、お礼なんていらないのですよ?」

「でも、すごく親身にお話をきいてくれたし、仮入門証面倒くさくて作ってくれなかったら、私すごく困ってしまったと思うんです」

 そう、結構いるからな、そういう奴。

「それに、何より嬉しかったんです。私の話を信じてくれたからこそ、仮入門証を作ってくれただと思うから」

 追い返してもよかったのに。

「だから、お礼をしたいんです。て、いっても大したものは買えませんけどね」

 そう、なんせ7歳のガキだ。そこは気持ちでフォローだ。

「ティティちゃん!」

「わ!」

 いきなり、カミオの両目からぶわっと涙が溢れる。

「なんていい子なの! お姉さん、感動したよ!」

「え、ええ?!」

 なんだ、どこに感動するとこがあった。親切にされたら、礼をする。当たり前だろう。

「もう! もう! おねえさん! 力の限り、ティティちゃんを応援するからね」

「お、おう!」

 やべ。地が出た。

「うわあ! 今日は朝からティティちゃんのようないい子に会えて、私幸せだよ!ありがとう!」

「う、うい?」

 ぶんぶんと手を握られて、少し痛い。

 どうやら、カミオは感激屋らしい。

 どこに感激したか、知らんがな。



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