第28話 お姉さん、隠してることはなんですか?

「あ、あの、そろそろ手を放してもらっても、よいですか」

 美人さんに手を握られるのは嬉しいが、なんか怖い。

「あ、ごめんね。うんうん。門番さんの差し入れね。それならお酒はどうかな?」

「お酒ですか?」

「うん。この地方特産のお酒、値段はピンきりだけど、手ごろなのあるから。きっと喜んでくれるよ」

 酒か。飲めない奴もいるけど、あのおっさんなら飲みそうだな。子供っぽくない差し入れだけど、まあいいか。

「わかりました。そうします。どこかおすすめのお店はありますか?」

「そうですねえ。バド酒店がいいかな。私もそこでよく買うのよね」

 カミラ、酒飲みか。いや、この地方、寒さをしのぐには酒の力も必要なのかもしれねえな。

「わかりました。そこに行ってみます。お店の場所を教えてもらえますか?」

「じゃ、地図を書くわね」

「ありがとうございます。お手間かけます」

「ふふ。いいのよ。冒険者のケアもお仕事のうち。それでスムーズに依頼をこなしてくれれば、こちらも助かりますから」

 なるほど。ギルド職員は冒険者のフォローも仕事で、憂いがなくなれば依頼もこなされ、冒険者ギルドの利益も上がるっていうことか。昔はそんな親切にされた覚えねえけど。まあいい。

「了解です! がんばります!」

 ここは素直にお返事だな。うん。

「うんうん。けど、無理しないようにね。さて、それじゃ、依頼について、お話しましょうか?地図は後で渡すわね」

「はい、すいません」

 いけね。依頼そっちのけで話しちゃったよ。

「いいのよ。さて、ではまず4つの依頼書持って来てくれたけど、大丈夫ですか? 発破かけた後になんですが」

「はい、大丈夫です。そのうち2つは、手元に持っているものなので」

「おお、それはラッキーでしたね。どれになりますか?」

「マツボリダケとごまきのこですね」

 そう言いつつ、それらを鞄から取り出す。

「おお! すごいどちらもEランクの採集ですね」

「あ、ということは、依頼は受けられないですか?」

「ん~、基本的に、一つ上のランクを受ける時は、ギルド職員の許可が必要になります。でも、ティティちゃんは、どちらももうすでにお持ちですから、今回は大丈夫ですよ! どちらもポーションの材料で、早めに欲しいと依頼人から言われていますからね! これ見つけるのが大変なので、ティティちゃんを逃すと、次いつになるかわからないですから」

「ありがとうございます」

「それにしても状態もとってもよいですね!」

 くくく。それはそうだ。亜空間に収納してるから、劣化しないのだ。

「それにしても本当よく見つけましたね!」

「はい。スヴァはこういったものを見つけるのが得意でして」

 視線を足元にちょこりと座るスヴァに向けながら、説明する。

「よい子を使役してますね! こちらは報酬も高いですから」

「はい。実は色々買わなきゃならないので、本当に助かります」

「どうしますか。全額持っていきますか?」

 依頼ではマツボリダケは最低3本必要で、報酬は銀貨9枚。一本増えるごとに銀貨3枚と大銅貨5枚がつく。今回5本出したから銀貨16枚。ごまきのこの依頼は最低2本で、銀貨4枚だ。合計で銀貨20枚か。大銀貨に換算すると大銀貨2枚か。

 手持ちが心もとないから、今回は全額貰って行こう。

「全額持って帰ります」

「了解しました。ではこちらです」

 カミオが小さなトレイに大銀貨2枚をのせてくれる。

「ありがとうございます」

「ティティちゃんは、計算もできるのねえ。その年で偉いわ」

 ぐっ。カミオわざと金額言わなかったのか。試された! むうっとしていると、カミオが笑う。

「ごめんなさい。一人で活動するみたいだから。計算できるかなって気になって。冒険者として時が読めること、お金の計算は必須だからね」

「はい」

 まあ、それはそうだけどな。

「もし不安があるなら、私が教えようかなと思って、試しちゃったの」

 そういうことか。ならいいか。

「ティティちゃんは字も読めるし、計算も早い。おせっかいはいらなかったですね」

「いえ、ご心配ありがとうございます」

 ジオルの年齢を合わせれば20歳越えだ、お金の計算ぐらい楽勝だ。まあ、ティティくらいの年だと、できない奴も多い。ジオルは孤児院で字も計算も教えてもらったのだ。

 リリン(孤児院長)のばばあ。まだ生きてるかな。

「ティティ? どうしました? まだ怒ってます?」

「いえ! 怒ってませんよ。冒険者になってよかったなとしみじみ思ってただけです。これだけお金稼げて、おいしいものも食べられるなって」

「ふふ。そうですね。これからの頑張ってくださいね。では、こなしてもらう依頼は後2つですね。キヨセルラ草とイミデア草の採集ですね」

 Fランクの採集だ。それほど難しいものではない。

「はい。確かこの2つは城壁の外に行けば、見つけられる薬草ですよね?」

 傷薬の材料になる薬草だ。気になる点は一つ。

「比較的見つけやすい薬草だと思うのですが、少し依頼料が高くないですか? あ、私は嬉しいですが」

「よく知ってますね」

「はは。お父さんについて山や森によく行っていたので」

 うそである。あのクソ親父がティティに教える訳がない。ジオル時代の記憶である。けれど、こういう時の言い訳に親を使うのが一番だ。少しは役に立ってもらうぞ、くそ親父め。

「そうなんですね。確かにティティちゃんの言う通り、前は採集しやすい薬草だったんですが、近ごろ、あまり見かけなくなってしまって。あ、でも見つからないとかじゃないですよ。前よりちょーっと採集に時間がかかるかなって。なので、依頼期限も3日となってるんです。3日あれば、十分採集できますから」

 キヨセルラ草とイミデア草。10本セットでそれぞれ銀貨一枚。

 この値段で3日かけては、余程大量に採取しないと採算がとれない。だから、ボードに残っていたのだろう。

 カミオをジッと見ると、少し目が泳いでいる。

 カミオもティティと同じ答えなのだろう。

 まあしかし、ランクを地道に上げていくには、ちょうどいい依頼でもある。

「そうだったんですね。頑張って見つけないとですね! 目指せランクアップ!」

「そ、その意気です! 応援してますよ!」

 わざとらしい位に手を振り上げたティティに、カミオも少しほっとしたように笑顔で拳を少し上げてくれた。

 FからE、EからDと下位からのランクあげは、ちまちまと依頼をこなしていくことが大切である。近道はない。

 ともあれ。

「カミオお姉さん、色々ありがとうございました。バド酒店行ってみますね!」

 ティティはぺこりと頭を下げると、踵を返した。

「お役に立ててよかったです。いってらっしゃい」

 カミオが小さく手を振ってくれた。

 さあ、今日もやることてんこもりである

 ギルドの扉を押し開き、空を見上げる。

 雲一つない秋晴れだ。

「よし、スヴァ! 行くぞ! まずは、デルんとこだ! 行くぞ!スヴァ!」

 ティティは街へと飛び出した。


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