第21話 高いだけある! 風呂付きだ!

 案内された部屋はベッドと窓際に小さいテーブルと椅子がある小さな部屋だった。

 昨日泊まった宿の部屋より気持ち大きいくらいか。子供1人と小動物が一匹過ごすには十分な広さである。

 きっとこの部屋、この宿の中でも最低ラインの部屋だろう。

 それでもいい。十分である。

 料金は高いが冒険者ギルド職員のイリオーネさん押しの宿屋である、寝ている間に、誘拐される心配はないだろう。ゆっくり眠れる筈である。

「ふう。ちょい疲れたな」

 ティティはリュックをどさりと足元に落として、ベッドに腰を下ろした。

 それにしても、買い物は楽しかったが、今の宿の受付のやり取りで気疲れした。

 折角の楽しく買い物してたのに、水を差された。

「ま、そういう事もあらあな。昼飯食って気分転換だ」

「おい。ベッドが汚れる。風呂に入ってから寝ろ」

 後ろからついて来ていたスヴァが注意をする。

「細かい奴だな。少し座っただけじゃんか」

 そう宿泊料金は高いが、この宿屋、なんと風呂付なのである。

 風呂付の宿屋であれば後大銀貨1枚や2枚とられてもおかしくない。

 イリオーネが押すのもわかる。それに支配人がお詫びとして値引きしてくれた。ちょっと嫌な気分になったが、結果オーライである。

「さてと」

 このまま眠ってしまいたいが、そうもいかない。服を着替えて、午後も買い物をせねば。まだまだ足りないものがあるのだ。

 ティティは亜空間に手を突っ込むと、買って来たものを取り出して、ベッドの上に並べる。

 短剣に、投げナイフが10本、そして解体用のナイフ。下着に長袖シャツに、ズボン、靴下が3セットづつ。寝巻。タオルを数本。布一反。靴もしっかりしたブーツを買った。そしてローブ。

「あ! 剣帯ホルダー買い忘れた!」

 しくった。そこまで頭が回らなかった。短剣を腰に常備できないじゃないか。

「後でまたデルんとこに行かなきゃだな」

 どうせなら、投げナイフ用のホルダーも買おう。

「と、なると、ちっと金が心もとないな」

 ギルドからお金を引き出すとしても、早急に依頼をこなした方がよさそうだ。

 そうすれば、金も入るし、ランクも上がる。

「結構買ったなあ」

 本来ならばこれだけ買ったら、小さな女の子だ持ちきれない。が、ティティにはスヴァから譲り受けた亜空間がある。そこに放り込んでおけば、全く負担がないのだ。

「なあ、この亜空間て、制限がないんだよな」

「ああ、そうだ」

 スヴァに聞いたところ、人間が使う空間魔法いわゆるアイテムボックスと魔王の亜空間は似て非なるものらしい。空間魔法は制限があるが、魔王が使う亜空間は一切の制限がない。無限に入るし、中に入れたものは時間が進まず腐らない。そして生き物も出入り自由である。

「すっげえ便利だけど、使う時気を付けないとな。変に怪しまれたくない」

 だから使い方には注意が必要だ。

 空間魔法の使い手だとバレたら、即誘拐されるだろうし、使い方が空間魔法と違いがバレたら、更に利用されるか、下手したら、魔族と勘違いされて、討伐されたらたまらない。亜空間は魔族が使用するものなのだ。

 だからこそ、この体には少し大きめの背負い鞄を買ったのだ。そこから出し入れすれば、怪しまれることはないだろう。

 拡張付与された鞄も売っているが、馬鹿高い。況して、こんな子供が使ってるとなれば、即奪われてしまうだろう。やはり、亜空間はこっそり使うしかない。

 バンバン買い物するのも控えた方がいいのかもしれないが、今日会った店の人なら、多少おかしいなと思っても、人に言いふらすことはしないだろう。なんたって、イリオーネさんおすすめの店なのだから。

「もう少し色々買わないとな」

 なにせティティは身一つで捨てられたのだから、足りないものがありすぎる。

「まあ、いい武器が買えてよかったよ」

 ティティは短剣を鞘から出してみる。

 身を守る武器がないのはほんと心細かった。

 ナイフ一本でもあるのとないのとでは雲泥の差である。

 ジオルはテイマーとはいえ、冒険者だったから、秀逸とはまではいかないまでも、ある程度剣は使えた。ただ、今のこの貧弱な体では、長剣など使えない。短剣でも振り回されてしまいそうである。

「よく食って、身体作らないとだな」

 ティティは短剣を鞘に戻した。

「あ、そうだ。忘れてた。スヴァ、ちょっと来いよ」

 ベッドをぽんぽんと叩く。

「断る。ベッドが汚れるだろう」

 そう言ってベッドの脇から動かない。

「まったく、お上品な奴だよ。お前はよ」

 仕方なく、ティティが降りてスヴァの傍に跪いた。

 そして白に碧い花の刺繍がついたリボンをスヴァの首に巻く。

 スヴァに見えないように、リッシュの店で見つけたものだ。

「なんだ?」

「イリオーネさんから、言われたんだ。テイムしたものには印をつけておいたほうがいいって。ほら、何もないとただの魔物として狩られてしまうかもしれないだろ?」

「我はむざむざ狩られるほど弱くないぞ! しかしイリオーネ殿の言にも一理あるか。うむ。だが、外せ」

「はあ!? なんでだよ! やなのか? 納得できないってか?」

「違う。折角だ。身体を清めてから、改めてつけろ」

「お前、元々は魔物だろうが。森には風呂なんかなかっただろ?」

「うむ。風呂は魔王になってよかったと思ったことの数少ない一つである」

「綺麗好きかよ! わーったよ! 風呂に入ってから、改めてつけてやるよ! 洗ってやるから一緒に入ろうぜ!」

「うむ。それから食事だな。我は腹がへった」

「俺もだよ! 全く偉そうな相棒だよ。まあでも、さっぱりしてから飯! いいな!」

 確か街の広場に屋台があった。

 そこを覗きに行こうか。

 ティティは手早く買ったものを亜空間にしまうと、着替えとタオルを持って、浴室へと向かう。

「さあ、いざゆかん! 癒しの湯へ!」

「お主、じじ臭いぞ」

「うるせえ!」

 一言多いスヴァであった。


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