第18話 次は服!

「次は服屋、服屋と~♪」

 ドリムル武器屋から出て、大通りに一度戻ってから、裏通りへ道を2本入ったところにそれは、あった。リッシュ古着屋。新品の服なんて贅沢である。古着で十分だ。

「こんにちは~」

 ティティは臆せずに入る。鍛冶屋が大当たりだったのだ、イリオーネが薦める店に間違いはない筈っ。服も自分で探すより店員さんにアドバイスを貰うのがベストだ。

「はいよ~!」

 威勢のいい返事を返しつつ、店の奥から出て来たのは、20代と思われる女性。

「わあ!」

 ティティは思わず声を上げた。

 浅黒い肌にホリの深い顔立ち。何より髪型が。爆発していた!

 こげ茶色の髪がチリチリにカールしており、顔というより、頭がすごいボリュームである。下手な人なら、ぶほっと笑ってしまう髪型なのに、この女性がすると何とも、

「色っぽいっす」

「あははは。ありがとう、嬢ちゃん!」

 またその笑顔がたまらなくキュートである。まさにエキゾチック美人である。

 特に顔に垂れるクルクルの前髪がいいっ!

「おねえさん、美人さんですねえ」

「ははは。そう言ってくれるのは、少数派だよっ! この髪だし、肌の色が黒すぎるってさ」

「何を馬鹿な! お姉さんのどこに不足があるのか! すべてが、そのままが、ベストセレクトされているというのに!!」

 わかってないなというように、ティティは首を振った。

「あは! 面白い子だねっ! 気に入ったよ! 私はリッシュ、お嬢ちゃんは?」

「おれ、いや、私はティティです。そしてこの子はスヴァ、大人しいので店の中にいてもいいですか?」

 足元にちょこりと座るスヴァをさす。

「ティティとスヴァかい。ああ、大丈夫だよ。それで、今日は何が欲しいんだい?」

「今日は服と下着、寝巻、それと鞄を買いに来ました、後、できれば布を」

 そして自分の今着ている服を見せるように引っ張る。

「これじゃ、これから寒いから」

 ティティが今身に着けているのは、麻のうすうすぴらぴらな裾の短いワンピースである。

 どこからみても貧相な子供である。

 改めて思い返してみても、門番の親父といい、ギルドの職員といい、よくみんな相手をしてくれたものだ。

「そうだね。これから秋を経て冬に向かう季節だ。もう少し厚手の服がいるね。それで、希望はあるのかい?」

「はい。私、これから冒険者として生きて行くので、できれば、男の子の服を上下で3セット欲しいです」

 そう、髪も短いし、しばらくは男の子のなりで通す。そのほうが幾分身が守れるだろう。

「そうかい。了解だよ!」

 一瞬、リッシュの顔に影が差したが、すぐに明るく請け負ってくれた。

「じゃあ、このあたりかなあ」と言いつつ、リッシュが選んでくれたのは、同じ型の服で、茶色、臙脂、深緑の3種類だ。

 上は頭からすっぽりかぶる長袖シャツで、首回りに襟がついていて、頭が入りやすいように、切り込みがあり、ボタンでしめるようになっている。

 これから寒くなるからか、それともこの地方だからか、布は厚めだ。暖かそうだ。

 ズボンも当ててみると、少し長めだが、裾は折ればいいし、何よりこれから成長て行くのだ、大きいサイズのほうがありがたい。うん、わかっているね、あねご!

「うん! すごくいい!」

「そうかい。じゃ、次は下着かな?」

「うん。私わからないから、これも3セットください、それと寝巻も」

「あいよ!」

 リッシュはこれもささっと選んでくれた。

 女の子の下着なんて全くわからないから、これは確認せずにお任せだ! いくら子供の下着とはいえ、女の子の下着を店で広げて、美人なリッシュと見るなんて、できない。

 俺、変態じゃないからな。

<今はお主もおなごだろう>

<うるさい! 心は男だ!>

 スヴァ、反論は認めんぞ。

「これからどんどん寒くなるから、靴下とコート買ったほうがいいよ」

 素足に木靴のティティを見ながら、リッシュはアドバイスをしてくれる。

「あ、そうですね」

 リッシュチョイスの、靴下を3セットと、茶色いフードが付いたマントコートも買う事になった。

「あとは鞄かい?」

「はい、形は、背中に背負うものか、肩から下げるものかで迷ってます」

「じゃ、こっちだ。好きなの選びな」

 リッシュはそういうと、鞄がたくさん置いてある棚の前の連れて行ってくれた。

 その前でティティは悩む。

 うーん、使いやすいのは、肩掛けカバンだけど、背中に荷物背負うほうが邪魔にならないんだよな。

<何を悩んでいる?>

 スヴァがティティを見上げて心和で尋ねる。

「肩掛けにするか、背負うのにするかだよ」

<背負うほうがいいだろう。肩掛けは今のお主の体形だと、行動するのに邪魔になるぞ>

「やっぱ、そうか。そうだよな」

 うん、背負い鞄で決まりだな。

「何1人でブツブツ言ってるんだい? 決まったかい?」

「あ、うん! これにするよ」

 やべっ。声に出してたか。

<お主は抜けてな>

 くっ言い返せない。

 誤魔化す勢いで、差し出したのは、汚れの目立たない、濃い目の背負い鞄だ。腕を通す部分が厚手でしっかりしているので、沢山いれても大丈夫そうだ。

 とはいっても、これにそれほど入れる予定はない。

 スヴァから譲りうけた亜空間があるからだ。

 しかし、このかばんを媒体に亜空間を使う予定だ。

 人前で亜空間を使ったら、即誘拐決定だ。

「後は布だね。何に使うんだい?」

「はい。採集したものをいれる袋や、怪我した時にまく布とかですね。あ、ここに針と糸も置いてますか?」

「あるよ! そうだね。それじゃあ、これはどうだろうね」

 リッシュが出してきたのは、少しまだら黄ばんだ布だ。

「染色に失敗したらしくてね。綺麗に染まらなかったらしくて、うちに回ってきたんだよ。これを切って使うといいんじゃないかい?」

「はい! これで十分です。 あ、あと、安いひもが欲しいです。採集したものを仕分けする時に使うので。それとタオルも数本」

「ああ、そういうのは、冒険者専用の小物売り場があるけど、そうだね、じゃあ、これか」

 リッシュはそういいつつ、少しけば立った紐の束とタオルを出して来てくれた。

 うん、十分だ。

「じゃ、これでお会計お願いします」

 何か買い忘れている気がするが、まあいい。しばらくはこの町で依頼を受けつつ、身体を作りをする予定だから、また買いにくればよいだろう。

「あいよ! じゃ、全部で大銀貨4枚ね」

「えっ! ちょっと安すぎるんじゃ!?」

 コートと鞄まで買ったんだ、いくら何でも安すぎるだろっ!

「いいんだよ! 色っぽいとほめてくれたお礼だよ! サービスだ!」

「けど!」

「次はしっかりもらうから、今日は持ってきな!」

「ありがとうございます」

 皆、いい人ばかりだ。

 イリオーネが選んだ店。優良店ばかりだ。

「またきますね!!」

 ティティは今買ったものを背負い鞄に入れた。布は手に持って、リッシュの店を後にした。

 流石にリュックに入る大きさじゃないからね。そして辺りを見回して誰もいないのを確認してから、リュックを通して亜空間に布を入れる。勿論他の戦利品もだ。

 それにしても、デルコといいリッシュといい、皆優しい。優しい。なのに、俺の親は。

 ティティはきゅっと唇を噛んだ。

<ティティ?>

 スヴァの声に、ティティはぶんぶんと頭を振った。

「ああ、やめやめ。くそ親の事なんて、考えただけで損だ、損! それより、次だ。靴! 靴を買いにいくぞ!」

 ティティはイリオーネ特製の地図を頼りに、走り出した。

 悔しくなんかないからなっ。


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