第17話 まずは武器から調達
「ふう。お腹いっぱいだ」
シンプルな味付けのスープに、黒パンのみ。後は水。けれど、お代わり自由だった。
なんという贅沢だろう。ティティはスヴァと2人、お腹がまんちきちんになるほどに食べた。
満足して席を立った時に見た、宿屋の主人の顔がひきつっていたように思えたが、気のせいだろう。子供の食べる量など、たかが知れているのだから。
「さて、腹ごしらえも十分したし、買い物スタートだ」
宿屋を出ると、まずは大通りに出る。
<門番に金を払いに行かなくていいのか?>
横を歩くスヴァが心話で尋ねる。
「明日、ギルドで採集の依頼を受けて、街の外に行くからそんときに払うよ」
4日以内に払えば、問題ないのだから、急ぐこともないだろう。
「今日は買い物が終わったらやりたい事もあるしな。よし決めた。まずは、武器の調達、丸腰だと何かあった時に、対応できねえからな。次に、服、鞄かそれから食器も買わんと。」
ティティは頭の中で買い物リストを作成しながら、イリオーネが書いてくれた地図を頼りに、歩き出した。
「ここか」
着いたところは職人が多く住む街の一角にある武器屋。ドリムル武器屋だ。
「鍛冶屋兼武器屋で、店主のドワーフがちょっと強面だけど、驚くなってイリオーネさん言ってたよな」
まあ、ドワーフなんて大概ごっついから大丈夫だろ。
「こんにちは~」
と、ティティは気楽に店のドアを開けた。
「なんじゃ!!」
「どわっ!!」
入った真正面。そこにいた髭面の親父が振り返り、こちらを睨みつけた。
これは。確かに怖い。ごつごつした凹凸の激しい大岩のような顔だ。
子供がギャン泣きすること間違いなしの顔である。
そのうえ、声も太いしデカい、荒い。
ティティも素で驚いてしまった。
「なんか用か!」
おいおいおっさんよ。ここに来る目的は武器の購入以外ありえねえだろうが。
客を脅してどうするよ。
ちっ、ここは自分が大人にならんといかんか。
「あの武器を買いに来ました!」
ティティは元気よく目的を告げる。
「お前がか?」
「はい」
「ふん。勝手に見ろ」
じろりとティティを一睨みすると、さっさと店の奥へと行ってしまった。
おいおい、客をほったらかしかよ。
大丈夫か。この店。
だが、イリオーネが奨めてくれた店だ。きっといいものがあるのだろう。
そう信じたい。
<何を買うのだ?>
「短剣と投げナイフ数本、あとは解体用のナイフかな」
この小さい身体だ。まず長剣は無理だ。重くて持てない。
ティティは店の中を進み、短剣がまとめておいてあるところに向かう。
一本一本並べてあるものは予算的に無理だ。
箱の中に無造作に入っている中からだ。
ティティは一本一本さやから抜いて、刃を確かめる。
どれも値段以上のものだ。
親父はあれだが、当たりの店だ。
「ふむ」
3本に候補を絞ったが、どうするか。
1本は手に馴染むが、重さが足りないような気がする。1本は重さも扱いやすさもいい。これが一番だが、もう1本は少し重すぎ、くせがある。だが、これが一番手に馴染む気がする。
「その3本で、迷ってるのか?」
「わあ!」
いつの間に近づいてきていたのか。
親父が後ろから覗き込んでいた。
「どんな用途で使う?」
「私、昨日冒険者になったんです。なので、身を守る為に欲しいんです」
「戦う為じゃないのか?」
「私に戦うのはまだ、無理です。でも自分の身は自分で守らないといけないので」
「そうか。ちょっと、3本振ってみろ」
お許しが出たので、それぞれためしに振ってみる。
どれもいい感じだが、やはり、少しくせのある短剣が一番馴染むような気がする。
「一番最後の奴がいいだろう。少し、振り回されてるが、筋肉を着ければ、大丈夫じゃろう」
「あ、やっぱりですか! 私もそうだと思います! これ気に入りました!」
ティティは嬉しくなって、親父に全開の笑顔を向けた。
そうだよな! おっさんと意見があって嬉しいぜ。
自分の見る目が証明されたようだ。
と、なぜか親父が驚いたように、目を見開いてこちらを見ている。
なんだよ。何か驚くようなことがあったか?
「おじさん、どうしたの?」
「わしゃ、おじさんじゃねえ! デルコじゃ!」
「じゃ、デルおじさん?」
「うっ! まあ! それでいいわい!」
なんだよ。いきなりわめいて、おかしなドワーフだな。
あ、もしかして照れてるのか。まあ、親父怖いからな。
こんな小さい女の子に笑顔で対応されたことがないのかしれんな。
可愛いじゃねえか、おい。
「うふふ」
「何笑っとんじゃ! 他に買うものはないんか! ないなら、金を払え!」
「あ、まだ、欲しいものあります! 投げナイフと解体用のナイフです」
そうだよ。親父と遊んでる場合じゃなかった。
「解体用のナイフはわかるが、投げナイフもか?」
「私、近距離では絶対勝てないから」
そう、中距離で足止めして、逃げるしかねえ。
「ちょっと待っておれ」
親父は顎に手を当て、奥へと引っ込んだ。
程なく戻ってくると、親父が差し出したものは、少し小ぶりなナイフが10本と解体用のナイフだ。
「軽いから投げやすいが、威力は低い。だが、相手を怯ませるには、十分じゃろ」
おお、親父わかってるな。
「はい。これなら、投げやすそうです」
「わしが見立てたんじゃ当たり前じゃ」
次に見たのは解体用のナイフだ。
「これは少し大振りだが、切れ味は良さそうだ。
だが高そうだ。
「この解体用のナイフもすごくいいけど、高くないですか?」
そう、欲しいのは山々だが、予算オーバーしそうだ。
「予算はいくらだ?」
「大銀貨7枚です、いえ、金貨1枚までなら出せます!」
これらを見る前なら、我慢できたが、見てしまうと他のものに目が行かない。
「全部で大銀貨7枚でいい」
「ええ!? それじゃデルおじさん、損しちゃうんじゃない? なら、投げナイフ5本でいいよ!」
「いいんじゃ! 全部もってけ! ほら、大銀貨7枚だせ!!」
そう言われて、ティティは革袋から、大銀貨7枚を出した。
「本当にいいの?」
親父、気前が良すぎるぞ。
「ああ。ドワーフに二言はないっ」
「ありがとう!!」
そこまで言ってくれるなら、気持ちよく受け取ろう! やったね!
なんていい日だ。こんなにいい武器が手に入るなんて!
「デルおじちゃんありがとう。これで安心して過ごせるよ! 身を守るものがなくて、すっごく心細かったから」
本当だぜ。やっぱ、丸腰は辛かったわ。
あのくそ親のせいでな!
「よかったの」
デルがティティの頭をポンポンと叩いた。
あ、デレた。親父がデレた。
からかいたいが、それをぐっと我慢する。親父すねるからね。
「うん!」
だから、目一杯全開の笑顔を親父にふるまった。
笑顔の大盤振る舞いだ。
それに答え、親父も少し顔を緩めた。
いい買い物をしたぜ。
さて、次は服屋だな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます