第9話 向かうは街!

 ティティルナになって2日目。眠れぬ夜を過ごしたティティは、夜が明けきらぬうちに、スヴァとともに、下山を始めた。

 まずは、山から出る。そしてここがどこなのか検討を付ける。

 水がないのが痛いが、幸い木の実で乾きと飢えをしのげる。

 昨日現れたゴールデンシープの恵みで食べ物には困らなかった。

 国守さま、様様である。

 幸いにして道は大方わかっている。

 あのクソ親父が来た道を逆に戻ればいいのだ。

 まずは食糧確保の為に登って来た道を戻る。ついで、クソ親父がティティが戻って来れないようにと山道から外れて歩き回った道を、これまた逆に辿る。ティティは惑わされずしっかりと記憶していた。クソ親父に捨てられたショックで意識を手放さなければ、きっとよい冒険者に慣れたに違いない。

「全く、どうしようもない親だぜ」

 ティティの記憶に感謝しつつ、クソ親父に文句を吐き捨てる。

 獣道のような道だが、そこに出られた時には、ホッと息をついた。

 道にさえでれば、後は下るだけである。

 木靴で歩きにくいが、仕方ない。

 足を痛めないように、ゆっくりと下る。

 途中、一角兎や大鼻ネズミなどが出たが、スヴァが難なく狩ってくれた。

 それらはすべて亜空間に放り込む。いずれ、自分たちの腹に治めるか、売るかは状況次第である。なんにせよ、スヴァ様様である。

 何せ、ティティの武器は、少し太めの枝一本、気休め程度にしかならない。

「ああ、早くナイフ一本でも手に入れないと」

 こんなに心細いのは、孤児院を出る時以来である。

 一人でないのが、ありがたい。

 そうして、太陽が真上に来た頃、やっと山の麓に出た。

 そして道なりに林を抜け、山道よりも少しマシな道に出た。

「ああ、ここは」

 ジオルがかつて訪れた事のなる場所であった。

 グロシルバ王国の東の辺境地、クラムリア地方である。

「俺はどうやら、同じ国に生まれ変わったようだな。ラッキー」

 ならば、ジオルの知識が役立つ。ちと古いが。

「しかし、俺が死んで何年経ってるんだろうな」

 街に行ったら、その辺も調べたい。

「じゃ、もうひと踏ん張り、歩きますか」

 道は四方に分かれている。ティティとスヴァが歩いて来た山へと向かう道。その分岐に立つと、ティティは躊躇いなく、右の道を選んだ。東の辺境最大の街、領都ゴルデバに続く道を。

 ティティは左の道をちらりと見やったが、すぐに背を向けた。ティティルナを捨てた家に戻る気はさらさらなかったから。


 それからティティとスヴァはひたすら歩いた。

 疲労もあるが、とにかくやたら、腹が減るので、ティティとスヴァは木の実で飢えしのぎつつ、ひたすら歩く。

「やっとかよ」

 そうして歩いてやっと領都の馬鹿高い城壁が見えて来たのは、もう辺りがすっかり夕焼けに染まる頃だった。

 子供の足だから、仕方ないとはいえ、ぎりぎりだった。

 これ以上時間がかかっていたら、またも一晩危険な野宿をしなければならないところであった。

「前も来た時に思ったけど、東の国境を守るガンデール伯がいる城塞都市。立派だな。そして壁は変わらない。当たり前か」

 街を囲む高い壁、近そうに見えるが、まだ少し遠い。遠近感が狂う。街へ入るには、もう少し歩かなくてはならない。

「にしても、スヴァ。お前、俺が山で心細い思いをしてるのに、結構山楽しんでたよな」

 隣を歩くスヴァに話しかける。

「当然だ。我は魔物ぞ。魔王になる前はずっと森で暮らしていたんだ。できれば魔王などやめてずっとそうしていたかったんだから、少しは楽しんでもよかろう」

「そっか。魔王になって楽しいこともできなくなったんだな。悪いな。ずっと山に居られなくて」

「いい。私はお前の所有物だからな。いつか分離できたら、存分に山を楽しむさ」

「所有物って」

 嫌な響きだ。ティティジオルはテイマーだったが、テイムした奴は大切な仲間だと思っていた。

「スヴァは仲間で相棒だよ!」

「呼び方なんて、どうでもよいが、わかった、むきになるな。それよりここからはおしゃべりはなしだ」

 城塞の門に向かっている人も増えて来た。

 魔物に話しかけていたら、目立つ。

「わかったよ」

<それとそろそろ言葉遣いを直せ>

「わ! なんだ!? 頭に声が」

<声を出すな。お主と我は繋がってるからな。直接頭に言葉を送ることができる。お主も我に話しかけるように頭に言葉を思い浮かべろ>

<わかった! あ、できた!!>

<うるさい! 叫ぶな! それと必要な時以外は話しかけるな。こちらに気をとられすぎると注意力が散漫になってあぶないからな。特にお主は>

<ちぇ。わかったよ。慣れるまではそうする>

 なんか子供扱いされているようで、ちょっと納得いかないティティである。ジオルはちゃんと成人してたんだぞ。

 そんなやり取りをしているうちに、城門に近付いた。

 やれやれだ。

 そびえ立つ門の前で、槍を持った兵士2人が門を守り、そのほか2、3人の兵士が検問をお行っていた。ティティたちは列の最後に並ぶ。

 門を通るには通行料がいるようだ。

「前来た時は、金なんてとらなかったけどなあ」

 どうやら、規則が変わったらしい。無料から有料になるなんて。それにしても弱った。今ティティは無一文である。物を売って金を得るにしても、城壁の中へと入らないとどうにもならない。

<しっかし、ここで金とって、また隣の国を通る時にも金がいる。辺境伯も、うはうはだな>

<そうではないだろう。国境を守るには金はいくらでもいる。取りやすいところから取っているのだろう。もしくは人の出入りを規制したいのかもしれん>

<流石元統治者! 瞬時にそこまで考えるのか。すげえな>

<お主が考えなしすぎるのだ>

<うっせえわ!! しっかし、困ったな。どうするよ。なんせ俺たち今無一文なんだから。ギルドに素材を売るまで金はないし。門兵のおっさんに相談だな>

<おまえ、そろそろ言葉遣い直せ>

<わあってるよ! てめえも黙ってろ!>

 ティティはふんすと鼻息荒く、吐き捨てた。


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