第10話 入れてくれるかな?

「そうか。親に捨てられたのか」

「はい。でも、私、私、死にたくなかったから。山で木の実をとって、お腹を満たして、ここまで来ました。私、聞いたことがあったの。冒険者になれば、食べていけるって。だからここで冒険者になろうと思って。ただ、私、門を通るお金がなくて。どうしたらいいでしょう? 何か方法はないですか?」

 城門を通る長い列に並ぶこと30分。

 やっと、ティティの番が来た。そこで自分の境遇を切々と語る。

 自分を捨てたくそな父親、せめてここで役に立ってもらう。何せここを通れるか否か。ティティの運命の分かれ道だ。街に入れなきゃ、ティティが生き残っていくのはかなり厳しくなってしまう。

「そうかそうか。大変だったなぁ。ここんところ、不作が続いてるからなぁ。だが、こんな可愛い子供を捨てるとは」

 この手の話に弱いのか、40代の無精ひげを生やしたおっさん門兵は涙ぐむ。

 ちょろい。もしかしたら、ティティ位の娘がいるのかもしれない。あるいは孫か。

 だが、積極的にティティの親を探す手助けをしようとはしない。

 まあ、この手の話はよくある事でもあるからだろう。してもらっても困るけど。

 ここまで同情してくれるおっさんの方が珍しい。ラッキー。

「だが嬢ちゃん、ギルドに登録するにも金はかかるぞ」

「ええっ! やっぱりタダな訳ないですね」

 ティティはしょんぼりと項垂うなだれてみせる。

 そういや、あったけ。登録料いくらだったか。

「ああ。大銀貨2枚かかる。ギルドに所属できたとしても、その後も依頼をある程度こなして行かなきゃ、ならない。身分証を維持するのには、大変なんだ」

 そこは今も昔も変わらないんだな。

 孤児になってしまったティティには身元保証人がいない。

 ましてやこの地方は不景気。身元が保証されなけりゃ、どこも雇ってくれるところなどありはしない。

 まずは身分を買わなければならない。それがたとえ不安定な身分でも。

 大銀貨2枚。子供でなくても大金である。大人1人半月分の食事代である。

「私、頑張って山で色々取って来ました」

 ティティは足元にいるスヴァの方へ左手を向けた。

 スヴァの背中にはデカい葉を包み紙代わりにした荷物が結わえ付けられている。

「これを冒険者ギルドで売れば、お金ができます。ただ、ここを通るのに今お金ないです。街に入るのにお金が必要だとは思わなくて」

 そこでティティは震える拳を胸にあてる。

 大人はともかく子供はタダにしてほしいものである。大人よりも料金は安いのが救いか。

「そうか。お金を得る当てはあるんだな」

 無精ひげのおっさん門番は顎に手をあてた。

「大銅貨5枚だ。嬢ちゃん必ず後で払えるか?」

「はい! 必ず払います!」

「そうか。だったら、仮入門証が出そう。有効期限は4日。その間に通行料を持って来てくれ。いいか。4日過ぎると門破りで捕まって罰とともに追い出されるから気を付けろよ」

 大銅貨5枚。前は銅貨5枚で小さいパンが1個買えた。大銅貨だと大人一回の食事代くらいか。高くはないが、子供にはなかなかのお金である。しかし否はない。ここで拒絶すれば、生きる道が断たれると言っていい。それはきっとこの無精ひげのおっさん門番も後味が悪いのだろう。

 ここはその思ってくれた気持ちを無駄にしない為にも、ティティ自身が頑張らなくてはならない。

 4日後お金が払えなければ、間違いなく捕まり罰を受ける。

 この門番でさえ、その時は助けてはくれないだろう。

 なぜなら、ティティのような子供は珍しくはないのだろうから。

「わかりました! ご親切にありがとうございます!」

 むさくるしいが優しい門番に当たってティティは幸運だった。

 面倒な手続きをせず、金がなければ、追い払えば手間がないのだから。

 だから、ティティは深々と頭を下げた。

「いいんだ! 嬢ちゃんは、しっかりしてるなあ。ほら、仮入門証だ。失くすなよ」

 渡されたのは粗末な板でできたそれ。

「はい! じゃあ私行きます! 取って来たものが萎れちゃうといけないので!」

 ティティはもらった仮入門証を首から下げた。

「おお! よいお金になるとよいな!」

 ティティは全開の笑顔で、手を振る。

 笑顔スマイルは無料だ。大盤振る舞いしても痛くはないのだ。

「よっしゃ。まずは、第一関門通過だな」

 ティティはスヴァとともに、ゴルデバの街へと一歩踏み出した。


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