第8話 目ざといお方がいらっしゃいました

 ティティとスヴァは、食べられるもの、売れるものを探し、山中を進む。

「お、ナルコだ」

 ナルコは茶色の少しぬめりのあるきのこである。汁ものに入れるとうまい。

「ひらひらタケもある!」

 ひらひらタケは白い大きな傘を持つキノコ。煮物に最適である。

「おお!! ごまきのこ! うお! あっちにはつっさききのこもあるじゃねえか!!」。

 ごまきのこは毒キノコだが、ポーションや薬の材料になる。つっさききのこは、やりのようにとがった黒いキノコ。非常に美味であり、ハイポーションや薬にもなる。とても希少。

「なんだよここは! きのこの国か?」

 ティティの気分は爆上がりである。これだけあれば、買い叩かれなければ、冒険者ギルドにも登録料は余裕だろう。

「ティティ!」

 と、その時、スヴァが警告するように叫んだ。

「っ!」

 それに反応してティティは枝を握り直し、素早く周りを見回す。

 するとそこに、普通の羊より1、5倍以上ある光り輝く羊がいた。

「ゴールデンシープ」

 ティティが呟く。

 ゴールデンシープ。天の御使い様のしもべ。

 その角は超特級ポーションの材料であり、妙薬にも使われる超貴重なものである。

 ただし、ゴールデンシープを倒して手に入れる事はできない。

 眠らせて角を削るか、もしくはゴールデンシープが自ら分けてもらうしかない。

 殺してしまうと、身体ごと煙となって消えてしまうからだ。

 それに強力な睡眠スキルを持っている為、それに逆らえる人間は滅多にいないのだ。

 そもそも、天罰を恐れぬ不届き者でない限り、御使い様のしのべを殺そうとはしないだろう。

「なんでこんなとこにいんだ?」

 そう尋ねてみても、ゴールデンシープは応えない。

 いくら御使い様のしもべとはいえ、動物であるには変わりない。つまりしゃべれないのである。

 当たり前と言えば当たり前である。

「どうする?」

 スヴァが尋ねる。

 狩るか尋ねているのだろう。

「やめろ」

 それに即座に首をふる。

 偶然ではないだろう。気まぐれに現れたのではない。

 ゴールデンシープから暖かい気が感じられる。

 懐かしく、それでいて包み込んでくれるような優しい感じ。

「ああ」

「なんだ?」

国守くにもりさまが、見に来たんだ」

「国守さま? なんだそれは」

「世間一般では御使みつかい様と言われてる、尊いお方だよ。俺は国守さまと呼んでる。御使い様と呼ばれるのがあまり好きではないみたいでな。だから俺はそう呼んでる。国を見守ってくれている存在。たまによいお告げをくれる存在だよ」

「そんなやつの使いが、何でここに?」

「俺は、ちょっと国守さまと顔見知りなんだよ。俺の気に似たそれでいて奇妙な気配を感じたから様子を見にきたんだろ」

 なんせ、俺プラス元魔王だ。奇妙すぎる気配だろ。

「国守さまは目聡いなあ」

 ティティはそっとゴールデンシープに近づくと、告げる。

「国守さまに伝えてくれ。近いうちに尋ねて行くと。その時に、詳しい事を話しますってな」

 すると、ゴールデンシープはわかったというように一声なく。それからふるりと頭を一振り。すると頭の側面についていた立派な2つの角がごとりと地面に落ちた。

「おっ! おお!!」

 突然落ちたからびっくりだ。

 ゴールデンシープはそれに構うことなく、顔で角をティティのほうに押した。

「なんだ? くれるのか?」

 今は入用なんでしょ。あげる。と言っているようだ。

 ゴールデンシープには、ティティの状況が何もかもお見通しなのかもしれない。

「んじゃ、ありがたくもらっとく。今は何も持ってねえけど、国守さまのとこに行く時に、お前の好物も持って行くよ。何がいい?」

 そう問いかけると、頭にすっと浮かぶ。

「甘い果物か。わかった。持ってくよ。楽しみにしてな」

 ゴールデンシープはそこでまた一声鳴くと、すっと消えた。

「うお! 消えた!」

「隠密のスキルだな」

 スヴァが一発で見破る。

「隠密スキルかあ。俺も欲しいなあ」

「無理だな」

「わかってるよ」

 スキルは生まれついたものが多い。後から習得するのは難しいのだ。

「それよりどうする? もう少し素材を集めるか?」

「愚問だな! 周りを見てみろよ!」

「ん?」

「ゴールデンシープが現れたところには、珍しい薬草や木の実がたくさんとれるんだよ!つまりは金になるものがわんさかあるってことさ」

「そうなのか」

「そうなの。ゴールデンシープの祝福さ! それを無駄にするなんて、もったいない事する訳ないだろ!」

 まさにゴールデンタイムなのだ。一定の時間がすぎると魔法がとける。

「了解した。ならば、お前が採集している間、我は、少し狩りをしてくる」

「ん! わかった。俺が危険になったら、戻って来てくれよな。魂が繋がってるなら、わかるだろ」

「おそらくな。というか、お主には自分で何とかするという選択肢はないのか」

「ない! 俺はか弱い七歳の女の子だぞ!」

「中身が成人した男だろうが」

「うるさいな。さっさと行け。山は日が暮れるのが早いぞ」

「うむ。では行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 そう言いつつ、ティティも早々に薬草探しを始める。

「ゴールデンシープの角があっから、そんなにあくせくする必要もねえかもしんねえけど」

 冒険者登録もしてない年端も行かない少女がいきなりゴールデンシープの角を出したら、目立ちすぎるだろ。下手したら、盗んだと怪しまれるかもしれない。

「今日は下山は無理だし。できるだけ売れるものを集めて、それから木の上で一泊して、明日早く町へ向かおう」

 早速見つけた、薬草をぶちりと取りつつ、呟く。

「あーあ。武器もないし、今日は徹夜だな」

 スヴァがいるが、ティティと同じでちんまい。大型の魔物が出てきたら、ひとたまりもない。

 木の上に避難するとはいえ、ぐっすり眠れる筈もない。

 この小さな体に辛い夜になりそうである。


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