第7話 おお!? 魔力! 魔法!

 おっ! なんだ? 何を捕まえた?!

 ティティはわくわくしながら、スヴァが傍に来るのを待つ。

 スヴァは彼女の前まで来ると獲物を下ろす。

 見ると一角兎のようである。

「おっ! すげえな!」

 食べれる魔物の定番である。味も臭みはあるが、いける味だ。

 ジオル時代も素早いが、矢で仕留めやすい獲物である。

 初心者冒険者にはうってつけの魔物である。

「ナイフがあれば、解体して焼いて食べられるがなあ」

 残念ながら、今はない。

「お前、生肉いけるだろ? 俺はいいから、お前食べろよ」

「なぜだ。お主も肉が食べたかろう」

 確かに。貧しくて、ティティも肉は滅多に食べられなかった。

「生肉は人間には無理だ。石を使ってなんとか解体できても、火起こし石がないから焚火も難しいかな。俺は魔法なんて使えないからな」

 そうジオルは、というか大抵の人間は使えない。ティティもしかりだ。

「ふむ。そうか。ならば、亜空間にしまっておけ」

「なんだよ。いいからお前だけでも食えよ。お前は生肉いけるだろ?」

 スヴァは魔物だ。基本肉は生肉で食べる筈だ。

「我は焼いた方が好みだ」

 そういってぷいっと横を向いてしまった。

 どうやら一人だけで食べるのは気がひけるらしい。

 真面目なやつめ。

 こんな奴が魔王をやっていたんだから、世の中わからんもんだ。

「そうかよ。じゃあ、街に行ったら、食おうな」

 そこは突っ込まずに、一角兎を亜空間に入れる。

 街に下りたら、ぜってえ肉を一杯食ってやる。

「そうだ、1つ言っておく。お主、魔法は使えるぞ」

「は? はああ!? な! どういうことだよ!」

「我と魂が結合してるから、使えると思うぞ。我が使える魔法は使えるだろう」

「マジか!? 俺魔法が使えんのかよ!」

「ああ、ただし小規模だ。我は今ただの獣だからな」

「そんなん全然オッケーだよ! すっげー嬉しい!! スヴァは元から使えたからわからんだろうが、血が沸騰するくらいに大興奮ものなんだぞ!」

「そうか。なら、試してみろ」

「うん!って、どうやんだ? 俺は呪文なんて知らないぞ?」

「人が魔法をどう使うか知らんが、我が使う魔法は呪文は不要だ。魔族はともかく、魔物が詠唱しているのを見た事があるか?」

「う、確かにな」

「まずは己がうちにある、魔力を感知せよ」

「魔力?」

「そうだ、お主の中にはもう魔力がある筈だ。我が覚醒した際に自然、体内に魔素を取り込んで、魔力が練られてる筈だ」

「ほえ~、そうなんだ。しっかし、魔素って不思議だよな。悪いもんなのに、人間はその悪いもんを利用して活用しちまうんだからな」

「利用できるものは、利用する。人間の得意なところだな。ただ魔素はやはり有害であるのだ。増えすぎると人を滅ぼす」

「だから、魔物、魔族、魔王が生まれたって訳だな」

「お主、くれぐれも、そのことを人に話すでないぞ」

「わかってるよ。秘密なんだろ」

「うむ。まあ、話そうとした時に、制約がかかる可能性が高いから、口の軽いお主でもうっかりはなかろう」

「なんだと!」

「いいから、早く魔力を感じてみろ。目を瞑って、内に意識を集中させろ」

「わかったよ」

 ティティは渋々、言われた通りにする。

 文句を言うよりも、魔法を使いたい気持ちが大きい。

「内に内にっと」

 ううんっと。しばらく、内を探ってみる。

 わからん。何もわからない。本当に魔力なんてあるのか。

「左胸に、鼓動が波打ってるのを感じるか?」

「ああ」

「そこから、すっと辿り、腹の下の方に意識を向けてみろ」

「わかった」

 スヴァの導きに従い、意識を左胸に集中。力強い鼓動に圧されるように、意識を下に、腹へと持って行く。

「あっ!」

「感じたか?」

「うん。けど」

「どうした?」

「力が2つある。白っぽいのと、黒っぽいの」

「うーむ」

 スヴァはしばらく考え込んでから、口を開いた。

「白い力はしばらく放っておけ。今は黒い方の力に集中しろ。おそらく黒い方が魔力だ」

「わかった」

 白い方も気になるけど、まずは魔法を使うのが優先だ。

「魔力が循環してるのがわかるか?」

「うん。胸から腹、そして全身に巡ってるのがわかるぞ」

「その魔力が魔法の燃料だ。魔力を魔法に転じろ」

「魔力を魔法に転じる? わっかんねえよ」

「頭に思い浮かべれば、自然とできる」

「んな事言っても、俺は魔法なんて使った事がねえんだよ」

「ならば、イメージしやすいように、言葉にしてみろ」

「イメージねえ」

 小枝に火をつける。小枝は魔力。燃料。

 ティティは人差し指を立てて、呟いた

「点火」

 すると、指に先に小さい火が。

「おおっ!! すげええ!!」

 ティティ大興奮である。

「流石にナイフを出すことはできぬがな。まあ、日常に便利なくらいは使える」

「やった!! 俺、魔法使いだ! 冒険者ギルドでもそれで登録するか!」

「やめておけ」

「なんでだよ」

「お主はまだ大した魔法は使えぬ。それでも魔法が使える人間は珍しいのだろう? 変に目立っては不穏な輩に目を付けられてしまうのではないか?」

 今はひ弱な少女である。誘拐されたら逃げられない。

「そっか。そうだな。もう少し魔法が使えるようになったらでもいいよな」

「うむ」

「いつかは攻撃魔法使えるようになるのかなあ」

「お主の訓練しだいぞ」

「スヴァは攻撃魔法使えるか?」

「使える。昔ほどではないがな。だが、魔力を使い続けると、魔王の器に選ばれる可能性がある」

「なら、却下だ。お前は極力、魔法は使うな」

「いいのか?」

「当たり前だろう。折角魔王職から解放されたのに、なぜ俺がまたお前を魔王にせんといかん。今度は助けられるかわからんぞ」

「また助ける気か」

「それも当たり前。もうお前は俺の相棒なんだからな」

「ふん」

 スヴァはぷいっと横を向いた。

「ふふふ」

 照れ隠しだとわかっているから、突っ込まない。

 俺は大人だ。今はちびだけど。

「まあ、それは置いておいて、今後練習して、ちょこっと生活が便利になるといいな」

「それくらいでいいのか」

「ああ、まあ、奥の手として、攻撃魔法1つくらい、使えたらいいけどな」

「訓練すれば、それくらいはできるだろう」

「ふふ。楽しみだな」

 また楽しみが増えた。

「じゃあ、もう少し散策するか」

 もっと食い物を探さないと。それに素材もだ。


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