第5話 君の名前は?
腹が減っては採集もままならないからな。まずはすぐに食べられるものを探そう。
「元魔王様!って呼びにくいな。お前、名前は? 魔王以外に名前あんだろ?」
「あるが。使いたくない。魔王に戻りたくないからな」
そうか。ああ、そうか。その気持ちはわかる。再度死を間近に感じながら、生きたくはないだろう。そしてただの魔物だった時にはもちろん名などなかったに違いない。
「そっか。なら、俺が新しい名前つけていいか? 名前ないと呼びにくいからな」
「よかろう」
ティティはうーんと腕を組んで考えた。
「スヴァってどうだ」
「スヴァ?」
「ああ。確か帝国の言葉で白や清いという意味があったと思う」
ガルマニア大陸にはいくつもの国がある。ジオルはいつか大陸中の国を見て回りたいと思っていたので、大陸の共通言語以外にも、勉強をしていたのだ。とはいっても、本など買える訳がなく、冒険者ギルドにある資料や知り合った冒険者から教えてもらったりしていたぐらいだが。
「スヴァか」
「ほら、お前がもう魔王に戻らないようにって願いも込めてだな」
うん。俺とつながってるならなおさらだ。2人で面白おかしく暮らしていこうとの願いを込めてだ。
「うむ。採用だ」
「返事早いな。そして偉そうだな。おい」
ティティの突っ込みを無視して元魔王改め、スヴァが忠告する。
「お主、言葉遣いを改めろ。後立ち居振る舞いもな。今の言動じゃ、少女には到底見えんぞ。あまりに粗野すぎる」
「あ、そっか。そうだな。わかった。人里に降りたら、気をつけるよ。折角女の子なんだしな。女の子として生きていかなきゃな。ただよ、山を下りるまでは勘弁してくれ。今は生き抜く事が優先。言葉遣いに気を取られて、死んだら元も子もないからな」
「かまわない。しかし、お主は少女として生きて行くのに抵抗はないのか?」
「んー? 多少の戸惑いはあるかもだけど、生きられるって事に比べれば、大したことないだろ?」
自分としては元男だったが、生まれ変わりが女で残念だという意識はない。違う生き方ができるかという楽しみの方が勝る。
それにだ、突然終わった人生。それが再び生きられる。そのことを何よりも喜ぶべきだろう。
「そうだな。それで我はお主をなんと呼べばよい?」
「ジオルは流石になあ。けじめで使えねえよなあ。使ったら、この子自体がいなくなっちまう気がする」
「ならば、ティティルナか」
そう、少女の名前は、ティティルナだ。
「あの親が着けた名前そのまま使いたくないがな。でもこの子が生きた証だし、ティティルナをそのまま使おう。けど、俺にティティルナは可愛らしすぎるから、ティティと呼んでくれ」
「お主、意外と考えてるな」
「ばかにすんなよ! 俺は単純だけど、ばかじゃねえぞ」
「それは己もわかっているのか。うむ。よいな」
「何、その上から目線。むかつく」
「我はお主より、遙かに長い時を生きている」
「じいさんか」
「煩いわ! 全く、口の減らない奴だ。しかし言葉遣いだが、一人称だけでも直さぬか。外見との差異がありすぎる」
「うう。それは今は我慢してくれ。麓に降りたら、直すって」
「今から直したほうがよくないか?」
「今はそこまで気を使いたくないっていうか。今はこの山を、世界を、思いっきり堪能したいからな」
「同意だ。では今は見逃そう」
「なんだよ。お前は俺の世話係か」
「大事な宿主だからな。トラブルに巻き込まれないように気をつけてやっているのだ」
「なるほどな。それは助かるかもな。俺、あんまり細かい事気にしないからな」
「うむ。それは話をしていてわかる」
なにおうとむっとしたが、スヴァには全く悪気はなさそうである。
元魔王様は真面目で天然かもしれない。それもいいな。
「はは! 話はここまでにして、早速食い物を探そうぜ。お前との話し合いで余計に腹がへっちまったよ」
「了解した」
ティティとスヴァは生い茂る木々を注意しつつ、歩き出した。
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