第4話 初肉球もらいました!

くぅ、くぅるるるるるるるる~。

「お?おおう~」

 気合を入れた途端、腹から盛大な音が響いた。

 ジオルは、もといティティルナは両手をお腹にあて、座り込んでしまう。

「いきなり、すっげえ腹が減った。力が入らねえぞ」

 自覚したら、余計にひもじい。

「まずは食べ物を探さないと。こうも腹が空いてたら、動けねえ。それと併せて素材集めだ」

「食料はわかるが、素材集めとは?」

 傍らのちんまい奴も、腹に前足を当ててる。

 可愛いじゃないか。

「生きて行くには、金がいるだろ。せっかく山にいんだから、売れるものを探して、当面の生活費にあてるんだよ」

「そうか。人間には生きる為には金が必要か」

「そ。こんなティティみたいになんの後ろ盾もない小さい女の子1人じゃ、町で仕事なんて見つからない。なんせ親に捨てられた身元保証もない女の子だ。そんな女の子が生きて行かなきゃならんとしたら、冒険者になるしかないだろう。俺もガキの頃冒険者になった。要領は心得てる。幸いティティは7歳、冒険者になる為の最低年齢には達してる。あとは冒険者登録する為の金と食料があれば生き延びられる」

「うむ」

「ここは山だ。作物が不作でピーピー言ってる麓で売れるものを探すよりもここで探した方がずっといい。ただなあ」

「なんだ?」

「ナイフも何もねえ。まあナイフはまだいいが、素材を見つけたとしても、それを保存しておく袋がなんもねえ。手に持つにも、こんな小さい手じゃなあ」

 ジオルは自身のものとなったティティの手を見下ろす。

「なるほど。ナイフはどうしようもないが、集めたものを保管しておく場所ならば、工面できる」

「ほんとか?!」

「ああ、私が魔王になった時に亜空間、お前たちが言うところのアイテムボックスが使えた。それを譲渡する」

「そんな事できるのか?!」

「私とお前は繋がっているからな。できる」

「ん~。その亜空間てやつ? 使えるならお前がそのまま使えばよくねえ?」

「この姿では使いにくい」

「なら、人化して使えよ! 俺、お前の顔もう一度見たい! すっげえ美形だったよな!」

 まさに人ならざる者の刹那的な危うい美形。惚れたら破滅。それがわかっていても。

 惹かれずにはいられないほどの超美形だった。

「人化する時って、自分で姿自由にできんの?」

「いや。魔王に選ばれた時にすでにあの姿だった」

「はあ。じゃあ、お前、元々男前だったってことか。羨ましい奴!」

「姿など、どうでもよかろう」

「いや! 重要だ。超重要事項だ! 俺は綺麗なもの、可愛いものが大好きだ! ちなみに今のお前の姿も好きだぞ! 凛々可愛い」

「お主の好みなど、聞いておらん。話がずれた。もどすぞ」

「えー」

 元魔王様はノリが悪い。

「我がこの姿からみるに人化しても、小型のままだろう。そんな姿をさらけ出すのは不快だ。それに、人化したくない。できれば、私はこの獣の姿で過ごしたい。この姿が私の本来の姿だからな」

「そっか。わかった」

 本人が望まないなら、無理強いはしたくない。

「んじゃあ、もらっとく。使わないのはもったいないもんな」

「うむ」

「どうすればいいんだ?」

「目を瞑って、頭に想像しろ。自分の横に無限に広がる収納場所があると。その中には何でも保存でき、入れてから時間も経過しないと。生きているものでさえ、そのまま保存できると」

「おお! そこまで! そうできたら、便利だな!」

 言われたとおりに目を瞑って、ジオルは歓声をあげる。

「できる。我の亜空間ぞ。今お前の想像したものに、私の亜空間を重ねる。そのまま頭に描き続けろ」

「わかった!」

 ジオルはもとい、今はティティか。生前ジオルはあまり魔法が使えなかったので、大興奮だ。

 わくわくが止まらない。

 そんな興奮真っ只中の、ティティの膝に、肉球の感触。元魔王が膝に乗り上げているのを感じる。

 うひょ。肉球も最高! いかん、いかん! 集中集中! 意識を肉球、否、亜空間に集中する。

「よし。もういい。目をあけろ」

「わああああああ!」

 目の前に黒い獣の顔がアップであった。

 噛みつかないとわかっていても心臓に悪い。

「さわぐな! さっさと使えるか確認しろ!」

「お、おお!」

「そこの石を拾え」

 魔王が近くに落ちていた小石を示す。

「了解」

「それを亜空間に入れてみろ」

「どうやって?」

「普通にカバンに物を入れるようにだ。お前のすぐ脇に収納場所があると思え」

「なんもないのにか? 難しいこというなあ。わかったよ。やってみる。えーっと透明なカバンがここにあると思って。おお! 入った!」

「よし。じゃあ今度は取り出してみろ」

「はいよっと! できた!」

「念のため、亜空間に手を突っ込んでナイフが欲しいと思ってみろ」

「う、うん」

 ナイフよう!こいこい!

「なんも掴めねえぞ。亜空間、感触しては空っぽっぽい」

「やはりだめか。もしかしたら、我が使っていた頃の道具がそのまま入っているかと思ったが、消滅したか」

「もしかして、持ち主が変わったからなくなっちまったとか?」

「‥ありうるな」

「おい!」

「やってしまったものは仕方なかろう。採集はできるんだからよいではないか」

「ま、そうだけどよ」

 もしかして、この元魔王様ちょっと抜けてるとこがあるのか?

「何をぐずぐずしている。早く食べ物を探すぞ」

「ああ、そうだな!」

 亜空間に興奮して忘れていたが、思い出したら、腹の虫がまた一つ。

 これは急がねばいかん。

 とにもかくにも、食べ物だ。

 ティティはすっくと立ち上がった。


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