第3話 第3話 ジオルさんと元魔王様のご事情

「そうした事で、お前、魔王と話すことができたんだよな」

「いかにも」

「お前、とっても話の分かる奴でよ」

「お主の中に入った時、狂化が解けたからな。話をできた」

「それで魔王の秘密ってのを知っちまったんだよな」

「うむ」

 ティティルナとなったジオルは地べたに座り、隣にいるちんまい魔物と話す。

 魔王とは、世界を浄化する浄化装置の主たるもの。

 人間が吐き出した欲望、怨嗟、嘆き、憎悪と言った悪感情が魔素、もっと悪質な呪素になり、世界を狂わせる。

 その魔素、主に呪素を、身体果ては魂までも器にして、取り込めるだけ取り込むのが魔王の役割。それが限界まで来ると狂化が始まる。その段階で勇者が魔王を倒す事によって、魔王の魂と身体ごと、人間の廃棄物である魔素と呪素は大いなる深源たる河に引き込まれ、そこで浄化されるのである。

「その河に引き込まれた魂は転生できないんだよな」

「ああ。河の意識の一部になり、魂はなくなる」

「それをあの時聞いちまったから、お前をほっとけなくなっちまったんだよなあ」

 ティティルナは空を見上げる。

「とんだお人好しだな。あのまま、我の魂を器に戻した瞬間に、仲間に討たせればよかったのだ。あの時、我を倒せる剣もあったのだから。そうすれば、お前は助かっただろう」

「だが、元はといえば、俺たち人間のせいだろう? お前や他の魔族はその尻拭いをしているんじゃねえか」

「お主が気に病むことはなかったのだ。そういうしくみを作ったのは、深遠の河の大いなる意志なのだから。それだけ、人間が可愛かったのであろうよ」

 深遠の河の大いなる意志、即ち神だ。

 魔王は人間を助ける為の生物、いわば道具。

 魔族は魔王を筆頭に、魔王ほどではないが同じ役割をしている。

 ただ魔族は己が死なない為に、なんとか魔素を浄化する方法をみつけて生き延びているという。魔素だけならば、浄化する方法を見つけたそうだ。

 そしてこれも秘密であるが、基本的に魔族は人間に攻撃しない。

 正当防衛の時のみ攻撃ができる。

 正当な理由がない場合、人間には攻撃できない。できるが、かなりな苦痛を伴うとのことである。

 ただ、抜け道はあるもので、歪曲的な攻撃であればできるらしい。

 とにかくも魔王、魔族はこの世界を浄化するために生まれたらしい。

 これは人には告げられぬ秘め事だ。

「だが俺には言えたじゃねえか」

「それはおそらく、お前のスキルの発動内だったからだろう。理由はそれしか考えられない」

「じゃあ俺がこれからこの事を誰かにいう事もできないのか」

「わからぬ。人間がこの事実知ったのはお前が初めてだろうからな。ただ、その可能性は高い。深遠の河の大いなる意志はこの世界の隅々まで届いているからな」

「そっか。まあいいや。とにかくもお前を助けられてよかったよ」

「その代わり、お主が死ぬ事になったがな」

「まあ、それはしょうがないだろ。犠牲失くしてお前の魂を救えなかったんだからな」

「正確には魂の一部だがな」

 あの時、ジオルの体内で話し合って、2人は万に一つの可能性にかけた。

 ジオルが魔王を、魔王がジオルを互いに心臓を剣で突き刺した瞬間、魔王の魂の半分とジオルの寿命と魂の半分を魔王の体にジオルのスキルと魔王の力を使い戻した。

 それと同時にジオルの死への魂の飛躍に魔王の魂の半分を引付け、深淵の河への吸引を退けたのである。

「まさか、それが上手くいくとはなあ」

「援護があったからだな。我らが剣で互いを刺した時に、勇者の剣が我らをまとめて切り払った。それが決めてになった」

「おまっ。よくそんだけ覚えてんなあ」

「当たり前だ。我は魔王としての役割を全うしなければ、ならなかった。それをお主に説得されて、一か八かの賭けをしてしまったのだからな。意識がなくなるまでの瞬間まで覚えている」

「すげえな。魔王様はよ。俺なんてなんも覚えてねえぞ」

 本当に真面目な魔王さまである。

「‥‥‥お主はお人好しだ。失敗すれば、お前の魂も深遠の河に取り込まれ、永遠に転生できなかったのだぞ」

「いいじゃねえか。うまく行ったんだから。お前も俺もこうして生きている。世界も平和、かどうかわからねえけど、こうして動いてる。そうじゃなきゃ、この子が捨てられるなんて事起きてねえもんな。あ、そうだ。そうすっとこの子は俺の生まれ変わりか?」

「そうだな。この少女から見れば、お主は少女の前世になるか」

「その俺がなんで、現世に出て来てんだよ」

「これもおそらく推測だが、少女は絶望して現世をもう生きていたくないと思ったんだろう。そして精神的に魂の奥へと引っ込んでしまったんだ」

「そんな事できんのか?」

「意識を魂の奥底に閉じ込めることはできる。もしくはその先の深遠の河の淵に行くことも。どちらにしてもその場合、周りには廃人のようにみえるだろうな」

「待て待て! 何物騒な事言ってんだ! じゃあこの子はもう魂の中に引きこもって出てこないってか?!」

「あるいは深淵の河に取り込まれたか」

「どっちだよ! どうすりゃ分かる?!」

「知らぬ。ただ、深淵の河まで行くにも、意志の、魂の強い力がいる。この少女にはそこに辿りり着くまでの強さはないだろう。可能性としては魂の底に沈んだと考えるのが妥当だろう」

「だが、どちらにしても戻ってくる可能性は」

「低いだろうな」

「はあ。じゃあなんで、俺の意識が浮上したんだよ」

「わからぬ。我とてすべてを知る訳ではない。お主の意識がこの少女の1つ前の前世だったからか。あるいはお主の意識が強かったからか。我はお主の意識が現れたから、実体化できた。でなければ、もっとお主の魂をゆりかごにして魂を休めねば現世には出て来れなかっただろう」

「はあ。どちらにしてもこの子は戻って来ないか?」

「確率は限りなく低い。記憶も置いていったという事は、何もかも忘れて眠りたいのかもしれない。次の現世に現れるまで」

「そっか。そうっかあ」

 ジオルは頭をがりがりとかいた。

「よし! 俺だって、思えば短い人生だったんだ。こうしてチャンスをもらったなら、これからおもしろく楽しく生きて行く! おんなじ魂にあの子がいるんなら、少しでも楽しいと感じれるようにしてやる!」

 そうじゃないとこの少女は苦しいだけで、あまりにも不憫である。

「よし! そうと決まれば、早速生きる準備だ! こんなところで死んでたまるか!」

 ジオルは力強く立ち上がった。


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