第3話 沈んでは浮かび
東京で仕事をしていた頃、お局さん(死語?)にいじわるをされた時期があった。すごく愛想の良い人なのに、私に電話を転送する時だけ、ワントーン低い声で怪談話でも始まるのかと思った。でもって、「ガチャン!」と切る。目の前で書類を投げ渡す。にらみつける、など。
初めての経験だったので驚いた26,7歳の私。しかし、まだ無敵感というか五条悟メンタルを発動していたので、むしろ愉快だった。
え、あのおばちゃん、この私に勝てると思ってるのかな?かわいそうに、微笑み返してあげよう、と常に笑顔で接しているうちに相手の武装解除に成功した。
あれからウン十年。脳内では五条悟に代わり、きみまろが閉じた扇子で空を切っている。あのおじさんのカツラ頭を見る度にモンチッチがよぎった私は、昭和の子だな。楽しい気持ちになりたくて、きみまろを召喚したが己の時代感を確認しただけに終わる。
海外暮らしで、ふと気持ちが沈むと20代の頃の無敵感を思い出そうとする。
うーん、思い出せない。園児以下の言語力しか持たない外国人になってしまった自分は、だいぶ最弱寄りである。40代なんだけども。
大丈夫、大丈夫。ぼく、最強だから。
両手に食い込むエコバッグを持ち直して、周りに日本語話者がいないのをいいことに、声に出してみる。
ちょっと、恥ずかしくて浮かぶ。沈んでは、浮かぶ海外暮らしである。
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