邂刻事變
彼岸りんね
爛漫事變
第壱夜 桜颪ノ花ト咲ク
『これからは我らの天下だ!!』
月明かりの差さない屋敷の一角。
血液を口やら手やらと忙しなく垂らす二体の化け物は高らかに天下統一を宣言した。
『ケヒッ……ケヒヒヒッ!! ここまでだ
深霞雅。全身を白装束で包み込んだ男の名であろう。化け物は豪快に笑い飛ばす。
深霞雅と呼ばれた男は口に裾を当て悩ましげに、額へシワを寄せた。
「…………やはり、私の落ち度になってしまうな……」
『死ねぇ____!!!! 終夜の
白装束の男は、死を恐れぬ瞳で、己に飛び掛かった愚者を睨み付ける。次にはゆっくりと目を閉じ、
重い霧のような言葉を吐いた。
「参られよ____
――ヒュッ。
白装束の男の後ろから飛び掛かった黒い影は、風切り音を引き連れて、そのまま男の前へ吹き抜ける。
黒い影は、飛び掛かった愚者よりも上を取っていた。
刹那の時が過ぎ去り、木の板を組み合わせて造形されていた床は黒い影と二つの肉の、計三つの着地音を鳴らす。
『…………ハァ?』
「……君たちの天下は来ない。ふふ、この子が側付きを努めてくれてよかった」
――ザシュ
『なッッ、ぁ゛……』
「……ご無事でしょうか、首領様」
鎌を振り下ろし、血の様な液体を振り払った女は振り返り、背を向けていた守るべき命の安否を確認した。
❖
「…………ん……」
なんだか柔らかい感覚に頬が包まれて、意識が戻る。
………それよりも全身が痛い。
「お。……起きた?」
「! 、、、!!?」
飛び起きそのまま体制を立てる。そして、手が空をかすった。
あれ!? わたしの鎌は!?
「急に動かない方が良いよ」
「か、鎌……ない……なんでかなぁ?
……ひゃう!?」
ぽふん。
肩に手を掛けられて、後ろに引き込まれた。受け身を逃して、ひやっとしたけど、すぐに柔らかい感覚に包まれた。
「………あやぁ……しゅごい安心感〜」
ゆっくり目を開ける。
首まである
何だなんだと、焦りながら思い出す。……けど、何も思い出せない。
わたしは焦りに焦りを重ねていた。
「落ち着いて。………何があったかは知らないけど、大丈夫?」
「……………へっ!? あ、あの、そのっ」
「………………………ねえ君。身寄りは?」
「! ……わ、わたしは、」
ど、どうしましょう!? 記憶が無いと正直に言っちゃうか……
…………答えは一つ!!!!
「……よ、よよ、
吉と出るか……凶と出るか………偽名を使ったほうが? いや、下手にバレたりしたら………
わたしの脳内で、この凄そうな忍者さんにズタズタにされるのが視えた。
………ひぃぃっ!!!
「……………夜桜……」
「ひゃい!!!!」
運命の瞬間。凄そうな忍者さんがゆっくりと振り返る。
「あ……! 思い出した。そうだね、君が新しい私達の仕事仲間だったね。………首領が仰られていた者だな? 忍で
〝
「そ、そうなんです!!」
「そこら辺は憶えてる……か。記憶がない……てことは里についてから話そうか。」
………危なかった!!!
「迎えに行かなきゃいけなかったんだけど、川に手を突っ込んで体温を低くしてるのが目に入ってね〜。
態々体温を奪うなんて何やってるのかな、ってよく見たら服がボロボロじゃない? うちの里は変わり者が多いけど。流石に自ら体温を低くする自殺願望持ってる忍が、うちの里に推薦されるわけないしな〜〜とね」
「う"ッ……」
「でもね〜〜」
「?」
「いや、何でもない。……さ、脚が痺れちゃった。付いておいで。〝
………あ、私は
「っあ! は、はいっ火燈さん……」
わたしは凄そうな忍者さん。
もとい、火燈さんの後に続き木々を渡り、終夜ノ里への帰路に着いた。
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