おまけ51・久美子、山本を辞める

 王都のレストランでデートに誘われて。

 そこで。


「結婚して欲しい」


 それを彼に言われたとき。

 とうとうやれたと思った。

 これを夢見て頑張ったのよ。


 彼は指輪はしっかりくれた。


 だけど


「……久美子には申し訳ないけど、他人の祝福を強制するのがどうしても心苦しい」


 結婚式は諦めてくれ。

 そう言われた。


 ……まあ、大河の性格からするとしょうがないよね。

 他に女性を3人……陛下は例外として除外しても2人……。

 妊娠させといて、私と結婚式を挙げるなんて、気がそぞろになるよね。


 無理なのよ。


 ……でも、いいや。

 私は大河と結婚したかったんだもの。


 だから


「別にいいよ。でも……時間が経って色々解決したら……後からでもやってくれると嬉しいかな」


 妥協案。

 それだけ提示して、私は納得した。


 今はいいや。この、指輪だけで。

 そう、私は貰ったダイヤモンドの婚約指輪を嵌めた指を見た。


 そして即日入籍して。

 私は藤井久美子になった。




 そして時間が経って。

 私たちの子供が生まれる日がやってきた。


 大河と一緒に住んでる自宅で、陣痛が来たときに「あ、これは」と思った。

 苦しい。苦しいけど……


 やっと、彼と私の愛の結晶に会える。

 それに……両親に孫を見せてあげられる……!


 苦痛と喜び。そういう相反するものを感じていたら。


 夫の、大河の言葉


「久美子、爪入りの金属、作った?」


 ……これで、そこに恐怖が追加された。


 私の身体、刃物が入らない。

 もしお産のとき、帝王切開が必要だと言われる展開になったら、この子、終わる。


 ……どうしよう?


 私、迂闊すぎ……!


 私が首を左右に振ると


 彼も真っ青になった。

 そりゃそうだろう。ひょっとしたらこの子がダメになる可能性があるんだから。


「と、とにかく祈って! こういうときは祈るしかないよ!」


 ……それ以外言えないよ。

 だってどうしようもないんだもの。


 そして病院で。

 私は無事彼との第一子の男の子を産んだ。


 このとき……思ったのは。



 従姉のお姉ちゃんの話で。

 お姉ちゃん、2人の子持ちで。

 シングルマザーになりそうになった。


 ……離婚検討したんだよね。


 その理由は……2人目とも、女の子なんだけど。

 旦那さんだった男性が、2人目が産まれたとき


「あー、また女か」


 って言ったんだよね。

 その一言で、お姉ちゃんブチキレ。

 色々揉めて、離婚の話になりそうになった。


 それを……今、お産の当事者になって理解できるようになっていた。


 だからお産の間、ずっと祈ってた。

 夫の最初の言葉が労いか感謝でありますように……


 おぎゃあああああ!


 そして産声を聞いて。

 私たちの最初の子供の誕生を知ったとき。


「ありがとう。本当に」


 最初に聞いた夫の言葉は……感謝。

 そう、泣きながら言ってくれた。


 ……良かった。


 私たちの最初の子供の男の子は。

 話し合って、名前は山河さんがにすることにした。




 とはいえ。

 後で聞いた話だったんだけど。


 ……このとき夫は


 男の子が生まれてしまって困ったな。


 内心思っていたそうで。

 この告白を聞いたとき、ちょっとだけ腹が立ったけど。


 ……理由を聞いたら、納得せざるを得なかったんだよね。


 佐倉さんのところの赤ちゃんは、女の子。

 そして小石川さんのところも、そうだ。


 ……この子たちに、もし偶然どこかで出会って、恋に落ちちゃったらどうすんの?

 母親が違うとはいえ、半分は血の繋がった姉弟なのに。


 ……き、近親相姦になってしまう!


 確かに、ヤバイ。


 さすが大河。悲観的なことを考える癖があるから、そこを想定できるのか。

 私は夫の思慮深さに感心した。


 ……この子には、平民の女の子と華族の女の子とは仲良くするなと教えた方がいいのかな?

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