おまけ48・久美子、主人公に転写を迫る

 そしてとうとう、佐倉さんが妊娠した。

 妊婦ののぼりを見て、確認。

 

 つまり、間違いない。


 ついにやってきた、私が動くとき。


 藤井さんとの距離を詰めるのと同時進行で、私は佐倉さんの様子もずっと見て来たんだけど。

 佐倉さん、藤井さんとはビジネスライクで付き合っていくみたい。

 だって、藤井さんに好意を主張するとか、距離をさらに詰めるとか。

 そういうの、してないんだもの。


 ……ということは、私はライバル不在。

 運、良かったわ。


 つまり藤井さんの心を掴むことに専念すればいいんだ。

 競わなくていい。

 真心を尽くすだけ。


 藤井さんに愛される努力をするだけでいい。


 楽勝とは言わないけど。

 戦いやすいのは間違いないよね。


 そのお陰かもしれない。


 私、藤井さんに弱点を教えて貰えた……。


 藤井さんの弱点、それは……


 自分の爪を冶金時に混ぜて鍛えた金属で作った刃物、針。

 それだけが、藤井さんを傷つけることができる……。


 こんなの、間違いなく国家機密になる重要情報。

 それを……私に話してくれた。


 それぐらい、私は信用して貰ってる!


 嬉しかった。


 無論、まだこの段階だと私は「一番信頼できる仲間」

 そこ止まり。


 恋人気取りはしてはいけない。


 ここから先は……


 彼と肉体関係を結んだその先だ。




 何度も言うけど。

 私と藤井さんは、子供を作ることがすでに決定事項。


 なので、普通は「結婚前に身体を差し出し、男の気を引く」という、誤った手順、下種な手段だと非難されがちな選択。

 私たちの場合に限り、それは適応されない。


 使命の一環でしか無いからだ。


 私は藤井さんと結婚したいし、その際に、結婚後のパワーバランスなんてどうでもいいから。

 私は自分から好意を伝える。自分の正直な気持ちを伝える。


 そんな決意をしながら……


 私は排卵日に、王城の資料室で藤井さんに転写行為を迫った。


 そして私たちははじめて結ばれた。

 私が狙うのは双転写。

 そのために、きっと小石川さんも佐倉さんも藤井さんへの確実な転写のために、受け身だったろう彼とのセックス。

 私は積極的に、全力で彼と交わった。


 ……辛い記憶だったけど。

 あの酷い初恋が、この彼とのセックスに活かされた。

 そんな思いが、全部終わった後に頭の片隅で行き過ぎた。


 避妊無しで、彼の子供を身籠るために行うセックス。

 生まれてはじめて行うそれに、私も燃え上がってしまって。


 彼の気持ちをおなかで受け止めたとき。

 幸せ過ぎて泣いてしまった。


 ……これは使命の一環だから。

 これを理由に、藤井さんが……いや、大河さんが私を選ばなければならない理由にはならない。


 この先だ。

 この先で確実に、大河さんの気持ちを掴まなければ……!

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