おまけ46・久美子、リアル魔族と話をする

 石油採掘施設に到着して。

 岩だらけの土地に、ポツンと立つ近代的な施設。


 職員さんは、魔族を恐れて今は退避中。


 魔族は……ちょっと探すと、居た。


 施設から少し離れたところ。

 そこで、焚火をしている人影が。


 3人だ。


 ……全員、弥生時代風の貫頭衣。


 頭の色は、ピンク1人、金髪2人。

 ピンク髪が女。金髪のうち1人が女。もう1人が男。

 どうみても魔族。


 その3人、焚火囲んで何か食べてる。


 ……イノシシの肉を焼いて食べてるみたい。

 冗談みたいに大きなイノシシの死体がすぐ傍に転がっていたから。


 ……この場で狩りをして、仕留めたのね……。


 で、見てると。


 ……ピンク髪がこっちに気づいたようで。

 こっちを見て、指差して叫んだ。


「ア! ニンゲン! エゼル!(あ! 人間が居る!)」


 ……吊り目で八重歯。そして長髪。

 見た目はそんなに凶悪そうに見えない魔族女子。


「スズキ! ニンゲン アース チョコレート(スズキ! 人間にチョコレートのこと訊いて来て)」


「イア ラスト ナベ!(私に任せてナベ!)」


 金髪女魔族に、ピンク髪が何か頼まれている。

 ……チョコレート?


 そしたら


 ピンク髪魔族が、ずんずん寄って来た。

 ……威圧感を感じる。


 そのせいで藤井さん、戦闘状態。


 すると


 ピタリ、と魔族の歩みが止まり。


 そして


「……ロミス チョコレート リア?(チョコレートの約束は良いの?)」


 チョコレートの約束? それが継続して無いのかと言って来てる。


 それって……


「……イーガ!(やってやる!)」


 そう、宣言するように言い放ち、目の前の魔族は、天に向かって片手の掌を突き上げた。

 その掌の上に、輝く光の円盤が出現する。


 藤井さんは少しその様子に動揺するけど


「ジーオ!(いっけー!)」


 言いつつ、投げ放つ。

 フリスビーのように、藤井さんに向かって飛んで行く。

 

 藤井さんの様子を見ると、それを待ち受けていたみたいで


 冷静に飛んでくるものを観察して。

 その円盤を、斬撃一閃で、消した……。


 さすが藤井さん。

 剣術の腕、すごい……!


 私は感心した。


「ピエム イサー!(魔力を斬った!)」


 魔族はそれに興奮しているようで。


「クスト アター!(次の攻撃だ!)」


 今度は両手の掌を突き上げて、2つの円盤を……


 そのときだ。

 私はやっと、事情が飲み込めて、理解できたんだ。

 彼ら、チョコレートの件で私たちに何か聞きたいことがあるみたい!


 それなのに、彼らは今、チョコレート関係の彼らとの契約が消滅したのかと誤解しつつある!

 訂正しないと!


「ロミス チョコレート エゼル!(チョコレートの約束は継続中!)」


 私は慌てて叫んだ。


 その瞬間。

 女魔族は手を下ろし、円盤を消した。


 そして


「ニンゲン オク(人間、話し合いましょ)」


 



「トス エルト ナチ ムシバ(歯が溶けたようになるのは虫歯と言います。)」


 私は魔族の男女3人に、彼らの話す内容から推察される答えを教えてあげた。


 彼ら、チョコレートを自分たちの縄張り内での石油の採掘権との引き換えで、地球帝国より沢山与えてもらい。

 部族の間で仲良く分けて食べていたらしいんだけど。


 ……彼らの間で、寝る前に食べて、そのまま寝るのが流行。

 その結果、歯が溶けたようになってダメになる病気が大発生。

 その対処が抜歯しか無いので、面倒で困ってる。


 そういう相談内容。彼らはその病気に対する答えを求めていた。

 それは……虫歯でしょ。


 寝る前にチョコレートを食べて、そのまま寝たら遅かれ早かれそうなるよ。

 当たり前でしょ。


 ……魔族って、生後1年で死ぬパターンがザラだから、多分そのせいで虫歯が問題になることが無かったんだ。

 なんというか……オモシロ。

 正直、最初は「親殺し、子殺しを全く問題視せず、知的生物も構わず食糧にしてしまう、意思疎通ができるけど価値観が野獣とあまり変わらない人々。怖い」って思ってたんだけど。

 こうも文化が違って、知識に差があると面白さが先に来る。

 ……でもこういう考え方、危険なんだろうか?


「ムシバ! アーチ フェン ムシバ(虫歯! 虫歯を防ぐ方法教えて!)」


 金髪長髪の、少し小柄な魔族女子が食い気味で聞いてくる。

 虫歯を防ぐ方法って言えばそりゃ……


「アーチ フェン ムシバ ナチ ハミガキ(虫歯を防ぐ方法は……それは歯磨き)」


 そう言ってあげると、金髪魔族男子が衝撃を受けていた。

 マジであるのか……虫歯を防ぐ方法が!

 そんな感情が、彼のリアクションで見て取れる。


「ハミガキ! アーチ ハミガキ イアウ(歯磨き! 歯磨きとは何だ! 教えてくれ!)」


 そっか。

 この人たち、歯磨きという文化が無いからそこを説明しないといけないんだよね……。


 ジェスチャーと、歯磨きの意味合いとメカニズムを口頭説明。


 その度にどよめきがあり。


 ……ちょっと面白かった。


 全部終わって。


「……ご苦労さん」


 戻って行くと藤井さんが私を労ってくれたので


「……ありがとうございます。全ては、単純な誤解だったようです」


 お礼を言って、今さっき魔族と話し合ったことを伝える。

 藤井さんは楽しそうに私の話を聞いてくれて。


 ……なんだか、藤井さんと意識の共有が出来たみたいで。

 私の方も、喜びを感じてしまった。

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