おまけ44・久美子、主人公と出会う

「僕の至らないところをカバーしてくれてありがとうございます」


 職場で。

 両腕を吊った寝虎さんにそう、数日後にお礼を言われた。

 

 あの後。

 気絶するまで盗賊を袋叩きにして。

 ふんじばって警察に突き出したんだけど。


 寝虎さんの方が疎かになっていたから。

 仕事の同僚として気にはなっていたんだよね。


 私は


「しょうがないですよ。魔力保持者が魔力を使って古文書盗みに来るなんて、ちょっと予想し辛いですし」


 だって魔力保持者なんて、一握りしかいないのに。

 それがわざわざ、古文書を盗みに来るなんて。


 確率的に相当低いでしょ。


「そういえば山本さん、盗賊の魔力って何だったか教えて貰えました?」


「えっと……ヌードモデル超能力中学生女子の魔力だって警察の人に」


 こっそりとだけど。

 教えて貰った。


「これ、他言無用ですよ?」


 唇の前に人差し指を立てて、一応釘を刺しておく。

 このこと、両腕折られた寝虎さんだから、聞く資格があると思うの。


 だから教えた。


「そうなんですね。ありがとうございます」


 そう言って、寝虎さんは嬉しそうに微笑んだ。




 それから。

 寝虎さんはしばらくの間、視線で入力する特殊なパソコンでの事務仕事以外できない状態になったんだけど。

 休みも取らず、毎日出勤してきて。


 自分のできることを探して、一生懸命働いていた。

 そんな姿を見て、彼について頑張る人だなと印象を持ち。


 18才で就職して、20才になったある日。

 職場での昼休みに人気のない休憩室に呼び出され


「山本さん、好きです。付き合って下さい」


 寝虎さんに告白された。

 

 ……正直、彼は無くは無いなと思っていたのだけど


「……実は私、四天王に選ばれてしまったんですよ」


 彼に正直に、自分の今の身の上を話したんだ。


 四天王。

 この国の魔力保持者の最高峰。

 

 偉大なる地球皇帝陛下の直属の家臣で、皇帝陛下の剣。

 それに選ばれた。


 それに私は、2つ返事でOKを出した。


 皇帝陛下直属の家臣になれれば、この国の中枢の情報の閲覧を許して貰えるかもしれない。

 そんなの、受けない理由がないよね。


 ……大学校に行きたいっていう、私の夢にかなり近いものが叶うんだ。


 すると


「……え? 山本さん、四天王になるんですか?」


 かなり絶望的な表情を浮かべる寝虎さん。

 ちょっと気の毒だと思ったんだけど、私は彼に頷いて


「ええ。お話が来たとき、絶対になりたいと思ったんで、すぐOKしました」


 はっきりそう答えた。


 寝虎さんは


「……僕、一生懸命働きます。絶対不自由はさせません。駄目でしょうか……?」


 そう食い下がって来る。

 ……なんか、誤解があるなぁ


「別に私、ステータスが欲しいから四天王になりたいわけじゃないです。四天王になって、封印情報の閲覧を許して貰える立場になりたいんです。その可能性ありますからね」


 他人にマウントとるためにステータスを求める女、多いけど。

 そればっかりじゃないんですよ。


 ……ちょっとだけ、悲しかった。


「……すみませんでした。謝ります」


 自分が失礼なことを言ってしまったと自覚して。

 寝虎さんは謝ってくれる。


 私はそこに好印象を持ったけど。


「……遠距離でも良いです。交際して欲しいです」


 彼は諦めず、そういう提案をしてきたんだよね。

 私はその彼の提案に、ハッキリとした返答をすることがそのとき出来なかったんだ……。




 そして四天王の辞令が正式に出て。

 転居。


 国からかなり大きな部屋を与えて貰い。


 初めての王城出勤日。

 つまり初登城。


「……この制服、やっぱりパリッとしててかっこいいな」


 四天王の制服として支給された、軍服っぽい制服に酔いしれてしまう私。


 白い壁に赤い絨毯。

 高級感溢れる待合室で皇帝陛下との謁見の時間を待つ。


 ……ここが、地球皇帝のおわす場所。

 歴史を感じ、興奮してしまう。


 そのときに


 私は将来結婚することになる相手……藤井大河さんに出会ったんだ。


 彼の第一印象は、背が高くて、そこそこかっこいい人。

 ただ……


 すっごい、距離を取って来るというか。

 近づいてこない。


 テリトリーっていうのかな?


 それを明確に周囲に引いていて、そこに踏み込まれないように全神経を使ってる。

 そんな印象を受けた。


 そしてその後謁見で。

 私は四天王の本当の使命を聞くに至った。


 それは……自分の魔力を皇帝陛下に転写すること。


 転写とは、この国では愛の現象という呼び方もされる、魔力保持者にのみ起きる現象の名称だ。

 愛し合う魔力保持者の男女が、妊娠を伴うセックスをすると、片方の保有魔力がもう片方にコピーされる。

 それを皇帝陛下に行って、皇帝陛下を最強の多重魔力保持者にする。


 それが使命。


 それはつまり……


 そのとき、私は隣で私と同じように控えている人を見た。


 この藤井さんとの間に、赤ちゃんを作れってこと。


 そこを理解したとき。

 私は


 ……無理では無いな。

 それを真っ先に思った。


 そして続いて


 これを拒否したら四天王の話が消える。

 そして、皇帝陛下に理想の魔力転写を行うことができない。

 ここに思考が行った。

 それはまずい。色々な意味で。


 私だって、地球帝国の国民として、地球帝国で生活させてもらった恩がある。

 利益だけ受けて、その代価を払わないなんて恩知らずな行為はしたくない。


 そして四天王には絶対になりたいし。


 だったら……もう答えは決まってる。


 私は「やる」と答えた。

 すると、藤井さんになんだか尊敬の目で見られてしまう。


 ……このときが、思えば彼個人に好印象を持った最初のことだった気がする。

 ああ、この人は他人が立派だと感じたら、素直に賞賛できる人なのか、って。



 そして。

 その日の晩、寝虎さんに最後の電話を掛けた。


 そして正式にお断りした。

 彼との交際を


 ……藤井さんと子供を作ることが決定した以上、私に自由恋愛は無い。

 藤井さんと夫婦になるか、シンママになるかの2択だ。


 寝虎さんと交際しながら、藤井さんの子供を身籠るなんて絶対ありえない。

 それがあったから、絶対にしておかないといけないことだった。


 お断りの電話を入れたとき。(無論、四天王の使命関係は伏せて)

 彼の声はとても弱々しくなってて。


 申し訳ない気持ちになった。

 もっと早くにお断りするべきだったんだよね……。

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