おまけ42・久美子、盗賊の言い分を聞く

「う、うるせえ! 俺の邪魔をするな! 人間には知る権利があるんだ! 憲法にも書かれているだろ!」


 目出し帽の盗賊は、私が女だからだろう。

 凄んで来た。


 凄んでやり過ごし、目的を果たして逃げようとしている。


 私は言った。


「知る権利をほぼ100%行使するには、偉くなるしか無いのよ! そんなの当たり前でしょう!」


 封印情報については知る権利の対象外! 当たり前!


 大体、知る権利を主張できるのは、政治関連の情報のみ。

 明記されてはいないけど、何故そうなのかを考えたら、対象になる情報はそれだろうって結論になるわよね。

 憲法の授業で習うでしょそれぐらい!

 知る権利が設定されたのは、普通選挙の判断基準に必須だから、って。


 だからそんなの、屁理屈以外の何物でもない!


「あなたの触ってる情報は、大学校の選ばれた学者しか触れない情報なのよ! 読みたかったら学者になりなさい!」


 地球時代は色々あったらしい。

 民族間で憎み合い、虐殺が起きたこともあったとか。

 宗教でも色々あったと聞いている。


 ……私たちは「色々あった」としか教えられてないけど、その辺。


 理由はおそらく、この国の構成のせいだと思う。


 この国を構成している国民は、ほぼ全てかつて地球に存在したという伝説の国家・日本という国からの移民。

 なので、私たちの母体は日本人なんだ。


 でも、ほんの一握りだけ、日本人の末裔じゃない人が含まれている。

 所謂、白人や黒人。あるいは他の国出身の人々。

 そういう人たちが、地球時代の歴史が明らかになった場合に差別の対象になるかもしれない。


 そんな配慮だと思う。


 ……正直、2000年以上過ぎてるのに、今更そんな大昔の事実ネタで、差別が本当に起きるのかという疑問はあるけど。


 公開して、本当に差別が起きたら取り返しがつかないし。


 だから封印されているんだろう。

 事実ネタを知らなきゃ、差別しようがないからね。


「大学校に行くにはカネがいる! それに勉強しなきゃならない! 俺は果実だけ欲しいんだ!」


 ……子供か!


 努力は拒否! 悦楽だけ欲しい!


 見下げ果てた理由だ。


 男はさらに、自身の行動動機についてまくし立てて来た。


「神話級作品に出て来た、黒の章とかいうアイテム! 人類の負の面が記録されているという霊界の記録媒体! 何回も愛読してたら、本物の、現実の黒の章を見たくなったんだぁ!」


 呆れ果ててモノも言えない。


 ……そんなアホみたいな理由で、この古文書保管庫に侵入してこないで!

 そういうのはフィクションだけで満足しておきなさいよ!


 ……と。


 この侵入者……盗賊の注意を私に集中させておき。


 その間に


「うおっ!?」


 男の背後から忍び寄っていた寝虎さんが、男に裸締めを仕掛けた。


 このために、私は単独で男の前に出た。

 男性は女を物理的脅威とはあまり考えない。


 その気になればいつでも排除できると思ってる。


 これはもう、しょうがないことだけど。

 実際、弱いんだから。


 寝虎さんが同じことをすれば、男は即座に逃走に移るか、攻撃に転じる。

 騒ぎが大きくなる。


 だから、こうしたんだ。


 私を甘く見て、男が隙を見せるように。


 寝虎さんは、男を引き摺り倒して。

 ぐいぐい絞めていく。


 完全に極まった裸締めに抜け出す方法は存在しない。

 何かの本で読んだことあるな。


 まだ、ギリギリ極まっていない感じだけど、時間の問題だよね。

 裸締めでオチたら、縛り上げて、拘束。

 活とかいうのを入れないといけないらしいけど、惑星柔術の有段者ならそれくらいできるよね。


 ……なんて。


 楽観視してた。

 一件落着って。


 でも……


 盗賊の男が、寝虎さんの裸締めの腕を外そうとしてた右手を外し。

 高く掲げたんだよね。


 ……人差し指と小指を立てた、妙なハンドサインをした右手を。


 その瞬間だった。


「ぎゃああああ!」


 寝虎さんの悲鳴。

 その両腕が……


 あり得ない方向に捻じ曲がっていた!

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