おまけ40・久美子、職場の侵入者に気づく

 古文書付きの司書の仕事は、古文書の警備と古文書の管理。

 毎日見回りと、大学校や国の研究所からの要請で、古文書のコピー取り。


(古文書の傍にいられるけど、閲覧禁止だから中身は読めないのよね)


 残念。

 まあ、英語もドイツ語も読めないから、中が見れても分からないんだけども。


 そんなある日。


「今日、夜勤ですけど大丈夫ですか?」


「何がです?」


 その日は古文書の蔵書チェックの日で。

 警備で夜通し図書館に泊まり込みの予定だったんだけど。


 日中の見回りを終えて、休憩室で一時のコーヒー休憩を取っていたら。

 パートナーの寝虎さんに話し掛けられた。


「……女性は、肌荒れだとか寝不足だとか気にするんじゃ無いかと」


「まあ、気にはしますよ? でも仕事を投げる気は無いですよ」


 寝虎さん。

 悪い人じゃ無いんだけど、会話がズレてるのよね。


 嫌いでは無いんだけど。


 やたらと私に気を使うような言葉が多いんだよね。

 ただ、正直


 そんなことを気にしなくていいのでは?


 ……そういう感じに思ってしまう。

 今日も、黙って仕事してれば良くない?

 そう思うのに、無理矢理私に気遣いをしてるような気がする。


「テロリスト情報って集めてますか?」


 すると、自分の振った話題が悪かったと思ったのか。

 そういう話を振って来た。


 テロリスト……

 まあ、仕事上必要だと思うから……


「新聞を読む程度はしてますね」


 テロリスト……

 この国には、反社会勢力がたくさん居る。


 この国の立憲君主制が気に入らない人たちや。


 惑星教が気に入らず、地球教を国教にするべく破壊活動に勤しむ人たち。


 他には、新興宗教を起こして、皇帝陛下に成り代わろうと考えている人たち。


 細かいのを数えると、もっとたくさんいるのだけど。


 クーデターを起こしたい系の反社が、ここの古文書を狙ってるんだよね。

 ついこの間も、皇族打倒を掲げる反社組織「赤い牙」の構成員が、20年前のテロの件で逮捕されて有罪になり、無期懲役を喰らった件がSNSで話題になってた。


 彼の当時のテロの目的が「伝説的毒ガス兵器・イビルバスターの古文書の入手」だったんだよ。

 それを求めて、飛行機をハイジャックして乗客を人質に取ったんだけど。


 当時の皇帝陛下の剣「四天王」が乗り込んで。

 犠牲者ゼロで首謀者以外の構成員を全員拘束したそうな。


 で、その首謀者……信重房夫がこの前とうとう逮捕され、裁判が行われたのよね。


「信重房夫って、20年もどこに潜伏してたんでしょうね?」


 寝虎さんの言葉。

 それが一番の話題だったよね。


「魔界に潜んでいたって話だけど……よく生きてたと思いましたよ」


 魔界……この惑星ホシの先住民族である魔族が支配する人類の支配が及ばない地域。

 彼らは好戦的で、人類に出会うと襲って来るらしいんだけど。


 よくそんなところに20年も潜んで立たなと本気で思う。


 ……ん?


 そのときだった。

 念のため、古文書保管庫に放っている私の使い魔が、侵入者を感知したんだ。


 ……まだ日中なのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る