おまけ38・久美子、理想を語る
私の初恋は酷い結果だった。
私の目が腐っていたんだ。
彼の本性を見抜けなかった自分が悪い。
真面目そうだとか、皆が言ってるからとか。
そこに気を取られ、本当の彼がどういうものかを見極められていなかったんだ。
……幸い、私はこの辛い初恋で、魔力という新しい力を得ることが出来た。
この力を、活用する。
その後も。
原間と山本が別れた、ということで。
言い寄って来る男の子はまた出て来たけど。
告白を受けてから、相手に魔力で蠅をストーキングさせ、その言動をチェックして
その後
「山本は処女かな?」
「山本とやれたら教えてやるよ」
「山本の裸を見たらどんな感じか教えてくれ」「ああいいぜ」
……そんな感じで、私をモノ扱いするような言動がひとつでも確認されたら即断る。
そういうスタンスになってしまった。
……高望み? お高く留まってる?
……同じ失敗を2回する方が問題だよね。
私はそこまで馬鹿じゃ無いんだよ。
だけど……
私に告白してくる男の子は、皆そういう人間ばっかり。
彼女になっても夢は叶わないし。
幸せにもなれない。
自分のことばっかりで。
きっと土壇場で逃げるような人ばかりだ。
……私が悪いのかな?
私がそういう人間を引き寄せてしまう、ダメなところがあるせいなんだろうか?
辛かった。
だから……
兄に相談したんだ。
「兄さん、ちょっといい?」
「何? 久美子?」
家のリビングで。
兄は英語で書かれた古文書を和訳していた。
辞書を片手に、テーブルでコーヒーを飲みながら。
大学校に入ってから英語の勉強をして、古文書を読みこなせるようになりつつある兄。
服装のセンスが悪いんだけど、それ以外は尊敬しかない。
そういう人。
兄の境遇。
正直、羨ましかった。
……男の人、いいなぁ……
「久美子?」
おっと。
あんまりにも羨ましくて、見惚れていたら質問し忘れてしまった。
「ごめんなさい。兄さん」
私は頭を下げた。
そして、訊いたんだ。
「どうすれば、理想の男の子に出会えるのかな?」
……アホみたいな質問。
だけど、このときは大真面目。
私は彼女スキルはキチンと磨いていた自信があるし、それを口にする資格があると公言はしなかったけど、内心思ってたから。
するとだ
「そんなもの、居るわけ無いだろ久美子」
コーヒーを啜って、兄に斬り捨てられた。
ええ!? とショックを受けてしまう私。
「兄さんの大学校にも居ないの!?」
実はそっちを期待しての一言でもあった。
大学校に通えて、土壇場で私を裏切らない人が欲しい。
それが私の目標であり、理想だったから。
「……理想ってな。そもそも何をもって理想の男性か、だよね」
辞書をパタンと閉じて。
「……言ってみ? 久美子の理想は何なのかな?」
真面目に聞いてくれる。
嬉しい、と思いつつ。
「大学校に行けるくらい頭良くて、学問の素晴らしさが理解できて、私を大切な女性として扱ってくれる人!」
そう自分の理想を述べた。
すると
「なるほど……」
兄はそう言いつつ頷いて。
「だったら、一般常識が欠けてる人間でも良いわけか」
「んなわけないでしょ!」
即答。
すると兄は
「ほらね。また別の条件が出て来た」
……兄は私を
兄はそんな私に
「……まあ、今のは極端な例だけどさ。そうでない条件で、今の様なものが無いと言い切れるの?」
楽しそうに笑う。
こういう思考、兄さんは好きなんだよね。
何をもって、とか。
それが根拠足りえるか、とか。
「だからさ……久美子」
机に肘を突いて手を組み、その上に顎を乗せて
「理想よりも、何を避けたいかで考えるべきだと思うよ?」
……何を避けたいか?
そういう考え方をしたことは無かった。
ならば私の夢は……?
それには
「……久美子は学問に手を伸ばしたいみたいだけど、そんなことは別に老後でもやれるんだよ? 若いときに血眼にならなくても良いんじゃないかなぁ?」
兄の援護射撃。
そっか……。
学問は老後の楽しみに取っておくこともできるんだよね……。
後からなんとかする。
こういう選択肢だってあるんだよ。
ならば……やはり兄の言う通り、相手選びは何を避けたいか。
この思考なのかな……?
私の避けたいこと……
それはやっぱり。
あのときの記憶。
妊娠騒ぎで、彼氏に責任から逃げられた。
これが一番嫌だった。
あのとき、気持ちが一気に冷めたんだ。
正直、私は夢を諦めて産むつもりになっていたのに。
もし、本当に妊娠してしまっていても。
……自分の子供を厄介者として思ってしまう男性だけは嫌だな。
それが、私の一番避けたいことだった。
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