おまけ37・久美子、魔力の目覚め
「ねえ、久美子」
「なあに? 誠一くん?」
私はラブホで2人、彼と一緒にいた。
学校で勢いで彼と結ばれて。
それ以降。
ちょくちょく、こんな感じで彼とホテルに入る選択肢が増えた。
無論、避妊はキチンとしてるんだけど。
正直、悪くない。
私、こういうの好きみたい。
彼と肌を合わせるたび、とても幸せな気分になる。
よく、彼氏に身体を捧げて、2人の関係性のバランスが崩れて破局するみたいな話を聞くけど、私たちには関係ないみたいだ。
今度はいつかなー、なんて考えながら
私は下着姿でベッドに腰掛け髪を梳かして、ここを出る準備をはじめていたんだけど。
彼は何か、余韻に浸ってるのか、まだ終わった格好のままでベッドの中にいた。
「今度全国実力テストあるじゃん」
「あるねぇ。何か苦手科目で訊きたいことあるの?」
「いやいやいや」
彼と私。
付き合いはじめてから、日常的に一緒に勉強するようになって。
彼の成績、伸びて来て。
私と1位を争えるようになってきた。
正直、少し嬉しかった。
男の人って、女の方が成績が良いと心の平静を崩す傾向にあるって話を聞いた覚えがあるから。
実力で私を抜けるなら、それはそれで歓迎すべきことだ。
そんなことを考えていたら彼は
「……全国で10位以内に入れたら、安全日に……」
「それはダメ」
またそんなことを言う。
前に、彼が全国実力テストで50位を狙えるレベルになったとき。
1回そんなことを言われたので脊髄反射で却下した。
子供が出来たら困る。
そして。
それに対してもし「1回くらいなら母体に対してそんなにダメージ無いから
「ピルやアフターピルって手に入らないの?」
「……お医者さんにどう言って処方してもらうっての? ムチャ言わないで」
……彼のことは好きだけど。
こういうところだけは少しうんざりする。
自分の経験段階を上げたいって気持ち。
それに振り回されちゃうのかな。
男の人の本能というか、業というか……
根深いものだってのは理解してるけど。
そんな感じで。
私は彼氏の性欲をコントロールしながら、彼との関係性を順調に深めて。
大学校に行ける男性の妻になるという夢に突き進んでいた。
いたつもりだった。
どうしよう……変だ。
生理が来ない。
今まで予定より遅いと感じたこと、1回も無かったのに。
もう5日も来ない。
変過ぎる。
そこで慌てて私は避妊具について調べてみた。
我ながら、アホ過ぎる。
私はコンドームさえ毎回してれば、絶対に妊娠しないんだと思い込んでいた。
思い込んで、調べてなかったんだ。
そして、初めて知った。
……コンドームは妊娠確率を大きく下げるだけで、ゼロにするものじゃないんだ、ってことを。
思い込みって恐ろしい。
避妊具という言葉で勝手にその効果を絶対視していた。
馬鹿なんじゃないか、私。
次に調べたのは妊娠検査薬。
そしたら
生理予定日の1週間後。
……そうなのか。
じゃあ、今は無理かもしれない。
まだ5日だし。
そして思った。
……これ、誠一くんに報告すべきだよね、って。
別に彼に全責任を押し付けようとしているわけじゃない。
ただ単に「父親になる覚悟を決めて欲しい」って言いたいだけだ。
だって、親になるってそういうものでしょ?
覚悟は2人とも決めなきゃいけないはずだ。
私、間違って無いよね?
そう思った私は、自分の携帯端末を取った。
そして彼の番号を呼び出す。
数コール後、彼が出た。
『何? 久美子?』
彼の声。
少し心苦しかったけど、私は言った。
「……いきなりでゴメンね。要件だけ先に伝えるけど」
そう前置きして
「……生理が5日も遅れてるの。赤ちゃんできたかもしれない」
『……は?』
彼の声には、驚きと困惑、あと恐怖めいた響きがあった。
それに関しては予想してたけど、仕方ない。
避けて通れないことだし。
「明日、学校で会ったときに、どこか2人きりで話し合いを……」
そして、しましょう、と続けようとした瞬間。
突如、電話が切れた。
え……?
電波障害かな? と思って掛け直してみたんだけど、今度は
『お掛けになった番号は、現在電波の届かないところにあるか、電源が入っていないため、掛かりません』
えっと……?
これ、どういうことだろう?
意味不明。
どうして今、彼に繋がらないの?
分からない……
分からないので、私は直接見に行こうと思った。
彼の家は知っているから。
私は自分の影から使い魔を生み出した。
私の使い魔の射程はサイズを小さくするほど伸びる。
そしてモチーフに動物を選んだ場合、付加能力がつく。
私はハエをモチーフにし、即座に使い魔を飛ばした。
私の家から彼の家へ。
すると
彼が自分の両親と会話している映像が脳裏に飛び込んで来た。
『カノジョを孕ませてしまったかもしれない』
『なんですって!? 本当なの誠一!?』
『お前何をやってんだ!』
彼の両親は、息子の言葉に大慌てだった。
申し訳ない。
私たちのために。
そう思っていたら。
『アンタの彼女、賢そうに見えたのにとんでもないアバズレね! アンタに責任を押し付けるつもりなのよ! いきなり連絡してくるなんて!』
『誠一にはまだ結婚なんて早い! もっと上のランクの女の子が、大学校に行ったら居るかもしれないのに……! 冗談じゃない!』
……え?
彼の両親、私のこと、息子のつなぎの女だと思ってたの……?
私は凍り付いた。
私は勝手に、彼のご両親と良好な関係を築いていたと思っていた。
思っていたのに……。
そして彼が次に口にしたこと。
それは……
『……俺はキチンと避妊していたんだ。ひょっとしたら久美子のやつ、他の男と浮気……』
この言葉を聞いた瞬間。
私の中で、彼への愛情がゼロになったのを自覚してしまった。
ああそう。
誠一くん、あなた私のこと……そんなふざけたことをする女だと思っていたんだ?
だったらもう……終わりだね?
涙が流れていたけど……不思議と悲しくなかった。
嫌悪感しかなくなっていたから。
他人にそういう疑いを持てるってことは。
それはつまり、自分もそういう選択肢があるってことだ。
それは頭が切れるんじゃない。
人間として信用できない相手だってことなんだ。
だったらもう、いいよ。
終わろう。
……良い勉強させて貰ったよ!
……そして次の日、生理が来た。
どうやらただ単に遅れていたのが真相だったようだ。
私はホッとして。
当たり前だけど、それでも彼と別れることへの決意は揺るがなかった。
その日の学校で、彼に「大事なときに逃げる人とは、愛情関係も信頼関係も築けない。申し訳ありませんが別れて下さい」と伝えた。
妊娠が早とちりだと理解できた彼は「昨日の電話は急に充電が切れたんだ」と必死で訴えていたけど、真相を自分の使い魔の目で見ていた私には、当然1ミリも響かなかった。
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