おまけ36・久美子、声が変化する(プギャー)
付き合ってみると、原間くんは良い人で。
私のことを大事にしてくれた。
低俗なことも言わないし。
正直、あたりを引くまで何度か失敗することは覚悟してたんだけど、これは最初から当たりかな。
そんな予感すらあった。
最初のデートは王都の都立図書館で。
私が学問に興味があることを考慮してくれたんだと思えて。
すごく嬉しかった。
「山本さんが好きな神話系の作品って何ですか?」
図書館で本を眺めていると、原間くんが私にそう訊いてきた。
本好きにはたまらない質問だ。
「西遊記だとか山月記が好き。魯迅の作品も好きかな」
「ああ、魯迅作品はありえない設定が最高に面白いですよね。異様に頭悪い主人公とか、人血饅頭とか」
本の話が通じるのが楽しかった。
「あれは当時の中国という国の状況を描いてるんだよ。そこに向けてのメッセージが込められてるんだよね」
「へぇ、それはどういうことなんですか?」
会話レベルも私に近い気がする。
彼に対する好感度が高まって行く。
そして、その2週間後くらい。
3回目か4回目のデートで私は彼とキスまで行ってしまった。
それぐらいしてもいい関係性かな、と思ったので。
私の方から意思確認をしての初キス。
当時はとてもいい思い出だと思っていた。
「文化祭2日目に、1人で1組教室に行って欲しい? なんで?」
「何も言わずにやって欲しいんだ」
そして明日が文化祭の2日目になる日のことだ。
1日目の終わりに、彼に言われたんだ。
正直、意味が分からなかったんだけど。
2日目に1組に行ってみたら……なんとなく理由が分かってしまった。
行ってみたら、地球の動物展ということで、紙粘土で「伝説の地球の動物」の人形が作られて、台に並べられていたんだけど。
視線を感じたんだ。……これは……だいぶ前に原間くんから向けられていた視線。
なんか純朴そうな男の子が、私を見てる。
紙粘土で作られた、象やライオン、キリンやティラノサウルスを眺めながら、私の方も確認する。
男の子は、私のことをコッソリ示しながら、隣の友達に何か話していた。
……私のことだ、って思うのは自惚れなのだろうか?
そしたら、予想通りなんだけど
「待った?」
……原間くんがわざわざ、この教室に入って来て、私の手を握り、教室の外に連れ出していった。
教室を出るときにあの男子の顔をもう一度こっそり確認したら、この世の終わりみたいな顔をしていた。
……やっぱりそうだったんだ。自惚れじゃ無かったんだなぁ……。
そして。
「1組のことなんだけど」
「うん」
後日、文化祭の後始末で、借りていた物品を用具室に返しに来て。
そこで2人きりになったとき。
私は気になっていたことを訊いた。
「あれ、わざと?」
「あれって?」
……惚けているのかな?
ちょっとだけ、イラっとしたけど
「……私に片思いしている男子」
「ああ」
私の言ってることがそこで理解できたのか
こう、続ける。
「……原間が山本さんと付き合ってるなんて嘘に決まってるだろ、ってアイツが公言してるのを聞いて、ムカついたんだ」
……えっと
「だから思い知らせたってこと?」
「そう」
……これ、独占欲って奴なのかな。
どうしよう……悪い気がしない。
自分のために彼氏が他の男子にマウント取りに行ってるの、それを喜ぶって。
あまり性質良くない気がするんだけど……
……で。なんか衝動的に、彼にキッスしてしまった。
そしたら……
なんかスイッチ入って、やっちゃったんだよね。
いいのか。これで。
私の初体験。
ちなみに念のため、私はゴムを持ってて。
彼の方も万一に備えてなのか、ゴムを持ってた。
ホントどうなんだ。コレ……
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