おまけ35・久美子、男女交際す

「山本さん、好きです。付き合ってください」


 高等部1年のとき。

 学級委員を任された。


 そのとき、男子の学級委員を任されていた男の子。

 名前は確か「原間誠一はらませいいち

 私は変わらず学年1位の成績で。

 彼は2位の成績の男子だった。


 告白されたのは2人で学校の備品を倉庫に一緒に返しに行ったときで。


 2人きりになったときに、いきなりされた。


 ……多少、ムードが無いなと思ったけど。

 私はその場で彼を査定した。


 まず最初。

 一番重要なのは、彼の見た目がアリかナシかだった。

 ……それに関しては「アリ」


 アリ判定が出てから、ようやくその他の項目に視野が向く。


 彼は学年成績は2位だから、決して低くはない。


 で、性格は……


 わりと、女子の評判は良かった。

 女の子は横の繋がりがある。

 情報共有があるんだ。


 なので、無差別に女の子を口説こうとするような男子は、女子の間でクズ認定されて、要注意人物になる。


 彼はそういう認定を受けていなかったはずだ。

 じゃあ、人間的に問題は無いのか。


 だったら……


「原間くん、ちょっと聞いて良い?」


「なんですか?」


 原間くん、声がちょっと上擦っていた。

 可愛い、と思った。


 そう思いながら、聞いた。


「大学校行く気、ある?」


 ……これが重要事項。


 言われて、ちょっと戸惑っている原間くん。

 何でそんなことを訊くのか理解できないのか、戸惑っている。


 ……これは説明しないと不義理だな。


 だから言ったんだよね。

 高等部に上がるときに急速に近眼になったので、掛け始めた眼鏡の位置を直しながら。


「私ね、大学に行ける人のお嫁さんになって、家で大学で学んだことを教えて貰うのが夢なの」


 ……いくら学業優秀でも、大学校にまず行けない女が、学問の世界を覗くにはこの方法しかないんだ。


「えっと……」


 戸惑っていた原間くんが、私の夢を聞き


「……なんていうか……すごく立派な夢ですね。高貴って言っても良い気がします」


 そんな風に、褒められた。

 ……ちょっと、照れてしまったけど、すごく嬉しかった。


「大学校出の男と結婚して、贅沢な暮らしがしたいとか言われるかと思ったら、そうじゃないし」


 贅沢な暮らしなんて、旦那さん由来で得ようとは私は思ってないから。

 そんなことより私は学問がしたい。

 でも、女にはまず無理だから、旦那さんに期待するしか無いんだよ。


「で、どうなの? 原間くんは大学校に行く気あるの?」


 答えが貰えないので、私は聞き直す。

 すると


「行きます! 行って見せます!」


 気を付けの姿勢で

 そう、言ってくれた。

 だから私は微笑んで


「分かった。私、原間くんの彼女になるよ」


 そう、彼の告白を了承し。

 ようやく、私は男女交際をはじめることになった。

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