おまけ32・翔子、夫と会話する

 藤井くんは信頼できる男性だった。

 実際に会ったときの第一印象が、かなり先読みが出来て、他人の思考を読むことを日常的にやっている子。

 それだった。


 こういう技能を持っているのは、悲観主義者。

 あと、頭が良い人。


 そして藤井くんの場合は、雰囲気から察して。

 おそらく、その両方ね。


 悲観主義者だから、周りの人間の思考を読み取ろうと日常的に構えてしまう。

 そうしないと社会から爪弾きにされてしまうと思ってる。

 強迫観念でやっているのよ。


 そして


 そういう選択肢に行く人間は、間違いなく優しいの。

 他責しないで、自分の方を合わせようとしているのだから。


 だから、彼は嫌悪感を持つタイプの子じゃ無かったのよね。

 そして私のそんな予想は、大きくは外れては無かったわ。


 だけど……


 覚悟していたとはいえ、最初に彼に抱かれた日。

 夫に対する罪悪感で終わった後、隠れて泣いた。


 その後、彼に自信をつけさせるために、彼の行為が良いと思ったら、褒めて。

 教えて。


 ……これも辛かった。

 あの人以外に抱かれているのに、その行為を褒めるなんて。

 まるで楽しんでやってるみたいよね。


 彼が上達していくのに、色々湧き上がるものがあったけど。

 考えないようにした。


 そしてもう何も言わなくても良いと思えて来たとき。


 彼に避妊具を付ける選択肢をやめるように指示を出した。


 ……とうとう、おなかを彼に明け渡すのか。


 本来は夫のための場所を。

 辛かったけど、これは決まったこと。

 でも……


 翔一が、魔力保持者にならない人生を歩んだとしたら。


 これから生まれる弟妹が、自分とは異父兄弟であるということを、あの子は知らずに生きるのだ。

 これは、子供への裏切りだ。


 ……バレたら子供に絶縁されても……いや、命を狙われるかもしれない。


 それを思うと、怖くてしょうがなかった。

 言い訳ができないから。


 これは皆のために仕方なくやったことなんだ、って。


 だって国家機密なんだもの。


 でも

 そうなったらどうしよう……?


 あの子に売春婦扱いされるなんて……絶対嫌だ……。




「……それはご苦労様としか言いようが無いな。しかし……」


 藤井くんに避妊無しでセックスすることを指示した後。

 あとは排卵日を待つ状態になったとき。


 私は自分の中で禁じ手にしていた、夫への連絡をしてしまった。

 自分が考えている最悪の結末の感想を言って欲しかったからだ。


 ……私より、夫の方が辛いはずなのに……!


 それなのに、端末越しで会話していた私の夫は


「……そんなこと、これから生まれる子の遺伝子を事前登録しておいて、その子に関わる親子関係鑑定は、常に私が実父と回答するように国の機関に要請すればいいだけじゃないか」


 民間より国の機関の方が信頼度が高い。

 民間がいくら「親子関係がゼロである」と回答したとしても、国の機関が揃って「実父は小石川泰三である」と答えれば、それで終了なんだから。


 キミの心配は杞憂だ。

 そう言って励ましてくれたのよ。


 その答えを聞いたとき。

 私は思わず、声をあげて泣いてしまった。


 色々周りに無理矢理決められてした結婚だけど。

 私の夫は想像以上に高品質の男性だったらしい……。

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